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【チェス】王道の古典定跡を識る-11-
前回の記事の続きから。
〇アムステルダムバリエーション
ナイドルフバリエーションの変化で、6手目白f4と指すのがアムステルダムバリエーションである。
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この応手の一番の目的は、e5のマスを牽制し、キングサイドに激しい攻撃を仕掛けることにある。白はここからビショップやクイーンを展開して、将来的にキングサイドキャスリングをし、斜線を利かせた積極的な攻めを実現する。
しかし、白はfファイルのポーンを突いたことによって、f2の斜線が弱点となり、黒はこのマスを狙うようにしてカウンターを仕掛ける余地がある。
一般的な黒の応手としては、e5とポーンをプッシュし、ナイトを攻撃する手が考えられる。白Nf3とe5のポーンに圧力をかける手に対しては、黒Nbd7としてポーンをサポートする。
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続いて、白はa4と指して次の黒b5を牽制する。黒Be7、白Bd3とビショップを展開した後は、互いにキングサイドキャスリングをする展開となる。
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先ほど述べたように、黒は白の弱点となっているf2の斜線を利用して、黒exf4とポーンをテイクすることができる。仮に白がBxf4とビショップでテイクバックしてきた場合、Qb6+と指して、キングとb2のポーンを同時に攻撃することができる。
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そのため、先に白はKh1と逃げておき、黒Nc5をみた後に、白Bxf4とポーンをテイクバックするのが冷静な手である。
アムステルダムバリエーションの初形から6手目黒Qc7と指して、e5のマスをサポートする攻撃的な変化も考えられる。
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白Bd3とキャスリングを準備する手に対して、黒g6とフィアンケットを準備する。こちらも同様の考え方に基づくもので、白の弱点となっているf2の斜線をフィアンケットしたビショップで狙っていくという発想である。
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予定通り、白がキングサイドキャスリング、黒がフィアンケットする手の後、白はNf3と指し、d4のマスをケアしつつg5のマスに強力なナイトを配置することを考える。その後、黒Nbd7とナイトを展開する手に対して、白Qe1とクイーンの利きを伸ばし、互いにかなり攻撃的な盤面となる。
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〇アダムスアタック
6手目白h3と指すのがアダムスアタックと呼ばれる変化である。
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黒e5と指し、ナイトを攻撃する場合は、白Ne2と続いて白はg4、g5とポーンをプッシュしていく手を狙う。
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黒h5と指して、g4のマスを事前に牽制するが、白はBg5とナイトをピンする手が有効である。黒がBe7としてピンを解除した場合は、白Ng3と続き、h5のポーンを攻撃しつつ、ナイトのf5への展開を準備していく。
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黒はg6とポーンを突いてh5のポーンとf5のマスを守る。この応手自体は理にかなったものであるが、将来的に黒がキングサイドキャスリングをした場合に、ホールができてしまい弱点を作る構造となっているため、白が若干優勢な盤面となる。
<第7図>~<第8図>の進行が考えられるため、一般的には6手目黒はe5とポーンを突ききらずに、e6と低く構えるシュエヴェニンゲンバリエーションのような手が有力である。
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白は予定通り、g4と指して、次のg5を準備する。ここでの黒の妙手はb5である。g7の斜線を活用する一手である。
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白Bg2とe4のポーンをサポートする手に対して、黒もBb7とビショップを展開する。e4のポーンに圧力がかかることで、次の黒b4によるe4のポーンを守っているナイトへの攻撃が厳しくなる。
白はキングサイドキャスリングとし、g2のビショップをサポートする手を選択する。中央のe4をめぐって攻防が繰り広げられる展開であり、長期的には白はg2の斜線が弱点となる。こちらも攻撃的な変化となる。
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今回の記事をもって、ナイドルフバリエーションの6手目の白の応手として大別した6パターンをすべて紹介した。「シシリアン・ディフェンス」は最も研究が深く進んでいる定跡であり、分岐が複雑ではあるが、かなりの頻度で発生するオープニングである。
手順を丸暗記するのではなく、1手1手の意味や狙いを理解して実践で生かせるレベルまで勉強したい。
次回の記事では、ドラゴンバリエーションの進化形であるアクセラレイテッドドラゴンバリエーションについてみていきたい。
―B.―