見出し画像

あやとり家族54〜あしながおじさんは本当にいたという話〜

偶然一致した入学金


看護学校に入ると決めて、会社に辞表を提出
12月末で辞職した

当時、病院に併設してあるデイケアサービスで働いていて
その時に、なぜか好意を持ってくれるお年寄りが何人かいた
もちろん全員おじいちゃん

歳をとっていても、おばあちゃんよりおじいちゃんの方が話しやすい
小さい頃からこれは変わらない、今でも男性の方が親しみやすい
ASDの要素を私は持っている


看護学校の受験が終わり、合格したことがわかったのが3月
合格案内の通知も届き、封筒の中には入学金の支払いについての説明も入っていた

どうやって支払うか
母に言えば出してはくれただろう、しかし何を言われるかわからない
母は立場の弱い人に対し、家族であっても強く出る
殊更それがお金のことになると特にひどい

これから夢を目指す子どもに対し
”応援することと、お金のことは一切別”という考え方なのは百も承知
だから母には頼りたくなかった


思いがけないところに、あしながおじさん

さて、どこから借りたら良いのか色々考えていた時
デイケアを利用していたおじいちゃんが「私に会いたいと言っている」
と当時の同僚から連絡が入った

私は仕事とプライベートは完全に分けるタイプだが
この時は元夫のことでメンタル的にも窮屈になっていたから
会うことに了承した

お昼に約束をし、合流すると「美味しいご飯屋さんがあるから行こう」と
誘ってくれてお昼をご馳走になった
仮にAさんとしよう。Aさんは奥さんの入院生活が長くほぼ一人で暮らしている状態、足腰は割と丈夫で年齢の割にはテキパキと動いていた

ご飯の後「話があるから家に来てくれ」と言われ、自宅に訪問する
試験に合格したことを伝えたり、たわいもない話をしていた
あっという間に時間は過ぎ夕方になったので「そろそろ帰る」と伝えると

「ねえ、これ持っていってくれ」と
帯のついた百万円
を渡そうとしてきた
「もらえないよ、そんな大金。気持ちだけもらっておくね、ありがとう」

だけどAさんは全く引かない
「いいから持ってけ」
「だめだよ」
そんな押し問答をしばらく続けていると、Aさんの顔が真っ赤になってきた
かなり興奮してしまっている

”やばい”これ以上興奮して脳の血管でもプツッとなったら大変だ

そして私は全く引かないAさんに聞いた
「なんで私にそんな大金を渡すの?」

「僕は年寄りだ、後何年生きれるかもわからない。これから夢を持って頑張るあなたに、渡したいんだ。
自分が持っていても使いきれない。お金はあって困ることはないから、これからも大変になると思うから、
是非もらって欲しい」

「よかったら、必要なだけ持って行って欲しい」
と観音扉の家具を開けて中身を見せられた

まさにタンス預金
帯のついた札束がたくさん入っていた

「Aさん、わかったよ。ただねこんな大金は貰えないから帯切ってあるやつはない?」
そうすると帯の切れたお金を持ってきた

「じゃあこれもらって行くね。本当にありがとう」
私がお金をもらうことを了承し、カバンに詰め込んだ
不満気だったAさんの顔の赤みは徐々におさまっていき
笑って喜んでくれた

私は「ありがとう」と心から心から感謝をして、Aさんの家をあとにした


こんな大金持って運転するのも初めてのこと
車の鍵をすぐさまかけて、どこにも寄らず緊張しながら家についた

家につき、中身のお金を確認する
”嘘でしょ”
なんと、その帯の切れたお金と入学金の金額が同じだった
まさに”あしながおじさん”だ

言葉が出なかった
こんな状態でも頑張っていればこういうことが起きるんだ
と実感した日だった

私はその全額を入学金として支払うことができた


あれから約20年経つ
あの時80歳を超えていたAさんはもうこの世にはいないだろう

今でも時々思い出す出来事
今こうして生きて生活できるのもAさんのお陰があったからだ

私はAさんのように、お金では解決できないことかもしれないけれど
人の助けになれるような人間でありたいと改めて思った



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?