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【本感想】カルメン

メリメ作, 杉捷夫訳『カルメン』岩波書店, 1992.1, 108pを読みました。そんなに長くなかったです。

オペラの原作シリーズ、次は『カルメン』。スペインの話ですが,2人ともスペイン人ではなく、ホセはバスク人、カルメンはボヘミヤ人(ジプシー)です。このスペイン人に対する民族意識のようなものが共通点となって、ホセはカルメンにそそのかされてカルメンを解放し、運命が狂いだすのです。

これは考古学者の「私」がムンダの古戦場の位置を突き止めるために訪れたスペイン旅行という体になっている物語です。考古学者はカエサルの『ガリア戦記』第一巻を持って旅に出たそうです。彼が最初にホセに会った時にはカルメンはまだ生きていて、もう一度会った時にはカルメンは死んでいたことになります。

確かに、歌劇とは異なり小説内では犯罪の影がつきまとう。ほの暗い、どころがどす黒い話に近いかも。でもスペインの灼熱の太陽が、灼熱の砂漠が浮かんでくる、カルメンの熱さが伝わってくる、そんな描写です。

作中ドン・ペドロ(とその妻)が2回も出てきたのが意外でした。ドン・ペドロと言えば、青池保子の漫画『アルカサル』で有名です。

カルメンは変な男に引っかかったということで良いでしょうか。2人は一緒になれる運命ではなかったのに、運命に抗おうとするホセの依存と執着が殺人を引き起こします。

なお、前回の『椿姫』は1848年、こちらの『カルメン』は1847年の出版です(カルメンの初稿は1845年で、その後単行本としての発行、1852年の著者による改訂を定本とするのが正しいと訳者あとがきにあるので、1852年かもしれません)。同時期に出されている、男の依存と執着の話です。流行のようなものを感じてしまいます。『カルメン』の場合は殺人につながる、今のストーカー殺人事件と全く同じ情景。この当時ストーカー殺人なんてないでしょうから小説になりますけれども、事実は小説より奇なり、現代においては小説の中のことが現実になってしまっています。

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