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【本感想】マノン・レスコー
オペラの原作シリーズ、アベ・プレヴォー作, 青柳瑞穂訳『マノン・レスコー』新潮社, 2004.6, 302pを読みました。
オペラは女性視点、小説は男性視点と考えてよろしいでしょうか。構成は『椿姫』、『カルメン』と同じく、男性主人公が語る話ですが、1731年発行なので、こちらのほうが先。『椿姫』とはもっといろいろな点でよく似ていますが社会情勢が異なる。こちらのほうが前時代。高級娼婦はおらず、マノンはただの娼婦としての扱いを受け、オピタル(1656年創立で娼婦や不良少女を監禁する、と説明されているので、ロンドンの救貧院とはまたなんか違うようなものだな?)に収容され、アメリカ送りになります。
第二部の心情を描く場面でけっこう間延びしているなという印象がありました。それにしても人をだます話(しかも父と息子両方)ばかりなので、雲行きが悪いというかなんというか。マノンの考えなどキャラクター性がもう少し分かればよかったのですが、行動と画策ばかりだったように思えます。貞淑でないのが分かればそれでよいのでしょうか。「永遠の女性像に新しいタイプ」を加えたと評価されているなら、そうでしょうね。彼女の自分に対する思いに悩むグリュウの内面は、『椿姫』の作品によって成熟させられているように思えました。つまり、悩み方も同じことばかり言っていて、くどいように感じました。古典あるある?
グリュウは依存と執着はあるものの、人を傷つけるのには彼女と一緒になれない怒りからなので、アルマンとかホセとかとはちょっと異なる気質。彼自身も第一部では勉学に精を出し立ち直っているので、いちばん心穏やかなように思えます。時間の流れもこちらでは早い、つまり恋の進展が遅いです。
グリュウとマノンはアメリカ大陸で暮らし始めるというのも開拓の時代を表しているようで面白いです。『アンジェリク』も最後はアメリカに行きますし。
果たして、この2人が一緒に幸せに暮らせるようになるためには何が必要だったのでしょう。グリュウの収入は地代や遺産という社会情勢。安易に就職とはいかない。お金がないとパリでの生活はできないからと、マノンが資産家を愛人になるとだましてお金を手に入れる。そのせいで2人は2度も収監され、2度目にはアメリカへの追放…!家柄的にマノンとは結婚できない。そう、家柄の違い、身分の違いの悲恋を、一緒にいることで貫き通すとこのような物語になるのでしょうか。
マノンも椿姫もカルメンもファム・ファタールの一例として挙げられると思いますが、小説で描かれている男性の内面を見るに、現代では精神疾患の一例として取り上げられるような気がするんだけれども?男性のほうがちょっとおかしいのではという意見です。