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ザ・隠れた名作!破天荒ながらスッキリした読み応え。「ジェットキング」を語る

さて、今回紹介する手塚治虫の作品の題名は「ジェットキング」!って聞いて「ついに来たかーー!」とか「おっ?」とか思ってくれる人、どれぐらいいるんでしょうか?こんなマイナー作の紹介しても需要も供給も無さそうな気もするが、個人的にはもっと有名になってもいい手塚作品の一つだと思っているので、今回は頑張って紹介するので、読んでってね!
えーっと、この「ジェットキング」は1959年の作品で、「鉄腕アトム」や「ジャングル大帝」などの初期手塚作品の一大ムーブメントが少し去った時の作品だ。
手塚にとってこの作品は「中休みのお遊び」であり、内容的にも「てきとうに描いた」作品らしいのだが、例え適当に描いていたとしても腐っても手塚であり、その適当さが逆にこの作品の荒唐無稽さに泊をかけているので、結果オーケーだ。
話のあらすじは、ある日急に何にでも変身できるようになってしまった空想好きの小学生、アッちゃん(♂)が、家の奥から見つけた宇宙人の仮面を付けて正義のヒーロー、ジェットキングとなり、ベッタラ漬けと宇宙に詳しいベッタラ博士の協力のもと、悪党どもと戦う….。って感じ。

家の奥から謎の仮面を発見!


これだけ書くと普通の作品…..。って雰囲気がバリバリなんだけど、この作品を面白くしているのは、ジェットキングが現実の存在か空想上の存在か曖昧にされている点だ。
その点はアッちゃんがジェットキングになるまでが唐突すぎたり、さっきまで普通の人だったはずの登場人物たちの名前がいきなり変わってジェットキングの仲間になっていたり…。などの作品の設定のムラを使用しても表現されており、通常の作品なら「雑」と見なされてしまうような作品の構造を上手く空想好きの主人公、という設定に絡めており、実にスムーズに読み進められるようになっている。
もちろん、天変地異の前触れなどでもない限り、フツーの小学生がヒーローにいきなりなるようなことはやっぱり無いので、アレなのだが……。そんな事を薄々感じながら読み進めていくと、最後にその設定をうま〜く使った凄く良く、素朴で心がちょっと温かくなるラストが待っている!
この作品、中盤はハチャメチャやってる雰囲気が強いけど、ラストでスッキリ全体がまとまるようになっているので、いい雰囲気で終わる手塚作品が読みたい方はぜひ読んでみて下さい!
もう一つの「ジェットキング」の魅力は、ズバリその破天荒さ!
先程も書いた通り、「ジェットキング」におけるジェットキングの活躍シーンは、全てアッちゃんの空想(の可能性が高い)であり、そのせいか、手塚が適当に描いたからなのかは分からないが、とにかく良い意味で論理を超越した破天荒な設定や展開がこの作品では楽しめるぞィ!
それが躊躇に出ているのが「首つり島」というこの作品に出てくる島。
名前の通り自殺の名所……..ではなく、元々海賊キッドの隠れ家だった島が、いつしか悪人のたまり場となり、このような名前が島に付けられたのだそうな。
首つり島にはどれほど多くの悪人たちが集まっているかというと、泥棒のヨーロッパ選手権保持者にアメリカ選手権保持者(その大会はなんやねん)から、万国スリ組合会長(なんやその組合は)の地下鉄サムなどから、はたまた宇宙殺人団、アルセーヌ・ルパン(!)まで…….。さらにはサメがうじゃうじゃいる湖とかフランケンシュタインとか、我々の想像の範疇を越えた恐ろしい存在達が集まっている…….のだと思う。いや、そんなのただの空想じゃん!って思ったそこの君ィ!俺もそう思う。でもアッちゃんは本気なんだ。もう少し相手してあげようよ。
もう一つの「ジェットキング」に出てくる重要な場所は、「良心の薬を作っている星」だ!
宇宙の何処かにあるというこの星では、地球の何倍も科学が進んでおり、町の光景はまさしく昭和の少年が空想したであろう「未来の光景」……。いやいやッ、何も言ってません!なんでもありません!
とにかくこの星の科学技術は凄いらしく、我々がいつも自分たちの力でやっていることも全自動で機械がやってくれるし、さらには「悪人を改心させる薬」なるものまで作っているらしい!
この作品の後半でジェットキングはこの星に旅立つことになるのだが、そこはやっぱり手塚で、純粋な科学賛美に終わるはずが無く、やっぱり一捻り毒があったのだが、それが上手く先ほど紹介したラストに繋がるようになっているのだ………….。
いやはや、解説を書いてみて分かったんですけど、手塚先生はこの作品、全然適当に書いてないっすよ!一見破天荒な作品にちょっとしたメッセージを盛り込みつつ、無駄なく作品を締めくくる手塚先生の腕がここでも開花しちゃってます!正直、個人的にはこの作品、名作までは行かなくとも、名作にかなり近い位置にいる作品だと思うぞ!
だけどみんな「ジェットキング」なんか知らないじゃん?そう!「隠れた名作」とは、こういう作品のことを言うのである。

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