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お別れだけど、サヨナラじゃない

大学1年の冬休み前のことだった。

みんなバイトやサークルの合間をぬって、期末のレポートや試験の準備に追われていた。

大学1年の終わりのレポートや試験。
それが終われば、念願の 冬(春)休みが待っている。

私も 本音ではバイトを減らしたいと思いつつも、いつもと同じようなフルシフトで ハンバーガーショップに入っていた。

試験勉強をしていると、皆それぞれ
授業中に板書(黒板に書かれたものをノートに書くこと)し忘れた箇所に気づく。

登校するとお互い足りない部分をコピーしたり貸し合ったりしたものだ。

学食でみんなで試験勉強をしていると
ふと、誰かがつぶやいた。

「試験終わったらさ、打ち上げしない?」

「いいね!」

「鍋とかしてもいいね」

ノートに走り書きする手を止めて、皆いつの間にか盛り上がる。

「じゃあ、いっちょ、やりますか」

私はビールジョッキを飲むジェスチャーをすると、
皆から賛同の拍手がわいた。

私は学生の頃から幹事をすることが多かった。

ただ、出欠の確認を取ることにせよ、この時ほどスムーズだったことはない。

なぜなら、同じクラスの「みんな出席」だったからだ。

そして、いつもサークルやクラスメイトで行くことが多かった居酒屋に問い合わせても
「その人数じゃ予約は難しい」
なんて言われることなく、どこも同じ答えだった。

「ありがたいよねぇ、新年会シーズン過ぎる頃だからさ。
その人数なら二階の部屋貸し切りにするよ」

いくつか問い合わせていた居酒屋さんどれもそう答えてくれた。

日にちも、お店も決まってあとはレポートを無事に提出して
試験も無事に終えるだけだった。

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打ち上げの日が来た。

本当は、その日は夕方までシフトが入っていたのだが
試験期間中にヘルプで入ったこともあって、店長がおまけで休みにしてくれた。

「あの日は助かったからさ、
今日は友だちと楽しんでこいよ」

なので、忘年会前に カフェにいく予定だった仲間と一緒に行けることになって
日中、おいしい飲み物とおいしいケーキを堪能していた。

「幸せだなぁ」
「うん、だよね」
「しばらく休みだもんねぇー」

みんな口々にそう言う。

結局この日はカフェを二軒はしごした。

そして忘年会の会場である居酒屋へ向かう。

着くと、もう早い子達は到着していた。

「もうわくわくしちゃってさ」
「だよね」
「今日は飲むぜぇー」

二人ほど、当日になって体調が悪くなってキャンセルは出たものの
みんな集合にはきちんとついた。

「じゃ、始めよっか」

飲めない子にはジュースやウーロン茶、
飲める子にはビールなどが行き渡る。

私は立ち上がってこう言った。

「はい、皆さん! レポート、そして試験とお疲れ様でした!
今日はとことん食べて飲んで楽しもう!かんぱーい!」

かんぱーいの合唱が続いてグラスが何度も回ってくる。

季節柄、メニューは 焼き鳥とお鍋をメインにしてあとは 予算に合うかたちでお店にお願いした。

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そして、もうすぐ鍋が運ばれてくるタイミングで、
私と、用意の買い物に付き合ってくれた仲間が席を立つ。

「はい、皆さん、ちゅーもーくっ!」

この日は、試験打ち上げという名目だけではなかった。

1人のクラス仲間とのお別れの会だった。

マキコ(仮名)。
入学してから、大学の勉強と並行して予備校に通っていた。

編入学専門の予備校だ。

マキコはちょうど1年の秋に受験した編入学試験で念願の大学に合格した。

マキコから合格のしらせを聞いたときは私は自分のことのように喜んだ。

なぜなら、私自身は縁がなかったけれど、高校の頃から行きたかった大学だったからだ。

「マキコ、改めておめでとう」

仲間から花とプレゼントが渡される。

マキコは驚いたように受け取って、
泣き出してしまった。

駆け寄ってマキコをハグすると、
マキコはさらに泣いた。

「あたし、あたし...こんな風に祝ってもらえるなんて思ってなかった」

なーにいってんだよ、とか、そーだよ、とか仲間は口々に笑う。

「マキコ、これはサヨナラじゃないよ。あたしたち、ずっとクラスメイトだよ。これからも」

そういうとマキコはうんうん、と頷きながらまた泣いていた。

「あっ、お鍋来たよー」

「やったねー」

クスクスとみんなで笑う。

泣いてたかと思ったらまた笑って。

たった1年だけでも私たちはこんなに親しくなったんだと改めて思った。

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ふと気づくと、仲間が何人か姿が見えない。

一応心配になって、一階を見てこようと三人ほどで下へ降りた。

すると、
知らないおっさん二人と愛想笑いをしながら話す仲間たちがいた。

どうやらお手洗いに行って帰ってきたときに 、別のお客様のおっさん二人につかまってしまったらしい。

おっさんよぉ...
詰め寄ろうとすると、あまりにもおかしな会話をしているので笑ってしまった。

「...へぇ、みんな英語学科なの。
おじさんも英語得意だから教えてあげる。
焼き鳥のハツ、あるでしょ?
あれは、Hearts(心臓:ハーツ)だからハツ。
わかる?わかってる?」

もしも、なにかセクハラめいたことを言われてたら、と思っていたのだが
どうも、おっさんはこのセリフを三回くらい繰り返していたらしい。

私たちはほっとしながら笑った。

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気づけば年が明けてからもう18日。
なんとなくその当時を思い出しながら書きました。

詠んでくださり、ありがとうございました。

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