性格が悪い女に、振り回される物語
春琴抄 谷崎潤一郎
何度も読み返しました。
性格が悪い女に振り回される物語。
色白病弱で線の細い抜群の容姿に、周囲の人を悪気なく振り回す加虐趣味。
両親に甘やかされ尽くした生粋の箱入り娘。天から授かった類稀なる演舞の才に胡座をかいて、弟子を苛めて、丁稚を虐げて、峻烈な情緒を振りかざして他人を支配しようとする螺子曲がった性根。
そんな春琴の下に仕える従者、佐助の物語である。
要は「性格の悪い美人」に振り回される物語が好きなのである。ここでいう好きとは、プラトニックで純潔なものでは無く、高尚な思索を催す興味深い物でもなく、もっと低俗で原始的なもの、体に刻み込まれた癖とでも言うべき習性である。
GOSCICK 桜庭一樹
学校の中庭?に一人でいる天才少女ヴィクトリカに振り回される青年の謎解き物語。頭がキレて美少女だけど、わがままで高慢で人間嫌い、性格は最悪。わがままを言ってじゃれているのもいいけど理屈をこねくり回して長々説教しているのもよい。
でも多分本当は不器用で拗らせてしまっただけなのだろう。性格の悪さと人当たりの良さが同居してしまうとそれはもう手のつけられない怪物が生まれる。春琴のような乙女の皮を被った怪物に虐げられるというのも、それはそれで乙なものではあるのだが、いや、とても好い。ぼかァ好きだなァ。被逆されたい。これってヤツがよォ。
話が反れた。見目麗しきサイコモンスターも良いが、社会との折り合いが悪くて拗らせてしまった不器用捻くれガールもいとをかしな趣を感じざるを得ない。ふとした弾みでしがらみが解けて覗く本性は全く自分と同じ感性で、まるで鏡を観ているのかと錯覚する。倒錯的に奈落よりも深い共感に襲われてそれはもう簡単に、墜ちて落ちて堕ちてしまうのである。
性格が悪いとはニュアンスが異なるが涼宮ハルヒの全てをぶん回す振り切れた強引にも似た波動を感じている。しかし、世代だが全く通っていないので割愛する。
TSUGUMI 吉本ばなな
苛烈で性格最悪だけど色白で絶世の美少女。
幼少時から病弱で恵まれた容姿から甘やかされ尽くして傍若無人なわがまま娘に育ってしまった病弱ジャイアンである。
ジャンルで括ると思春期の友情モノというか、淡いガールミーツボーイみたいに区分けできるのだろうが、私にとってはひたすらにつぐみの破天荒な描写を楽しむ行動記録というか、見ているだけで癒されるサボテンのような文学であった。そんな読み方をしていたので、非常に好きな作品なのだがあらすじをあまり覚えていない。セリフや行動を断片的に覚えているのみであるが、その記憶はあまりにも鮮明で映像的ですらある。
TSUGUMIで最も好きな一節がこちらである。
これを読んだ時、怒りで青白く光るつぐみが見えた。まるで本当に自分が体験した出来事のように鮮明な記憶が脳に刻まれている。なぜかつぐみの顔も思い出せる。何故そんなに怒っているのか。それは全く思い出せないが、そんなところも本当の記憶みたいだ。
TUGUMIが上2作品と大きく様相が異なるが、それに語り部、相方に当たる人物がまりあという女性であるということは無関係ではないだろう。佐助然り、九条然り、彼らが春琴やヴィクトリカに向ける感情は崇拝であり、盲目的で一方通行的な関係性が主軸として存在した。一方で、つぐみとまりあは同性の友人であり対等な立場である。傍若無人を神のすることよと諦めるでも、ご褒美ですと感謝するでもなく、一人の人間として受け止めてアクションを仕掛けてくるまりあが相方だからこそ、つぐみの人間性がダイレクトにさらけ出される。
これが私にとっては実にコペルニクス的転回であった。地球が宇宙の中心じゃないという視点は文字通り世界を一変させた。今までは遠くから望遠鏡で「性格の悪い女」を拝むだけであったが、まりあは遠くの星に派遣した探査機の如く「性格の悪い女」を近くて見て触って感じて、全く新しい視点をもたらした。春琴抄とTUGUMI両方を読むことで「性格の悪い女」の解像度を極限まで高めることができる。
つぐみも好きです。
。。。
振り回してごめんってなんなんすかね!
それってご褒美なんですよ。
性格悪くわがままな言動に振りまわされて、それに一喜一憂しているときが幸せです。
みんなもっと俺を振りまわしてくれてもいいんだぜ!
そんな心境にぶっ刺さった歌詞があった。
最後はそいつで閉めようと思います。
「逆転Devil&Angel」
歌 ガヴリール(富田美憂)&ヴィーネ(大西沙織)
ガヴリールドロップアウトのキャラソンでした。
かませ!ドロップキック!
フッフー!
そして時は動き出す。
性格の悪い女に振り回されたい凡夫が、
性格の悪い女に振り回される物語。
始まれ。
終。
(2477文字)