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佐藤君のけだるげな冒険 試し読み①

 もうすぐ関西コミティア71。
 星沢てらす改め、柚木トモカ商店も出店が決まりました! スペースNo.B-54です!
 ということで今回は、ティアズマガジンかんさい70でも紹介された、柚木トモカ作「佐藤君のけだるげな冒険」の冒頭を掲載!
 4週連続でお届けします!

 神西(しんせい)都沿岸部に存在する町、鉾堂(ほこどう)町。その町の片隅にて、第546回目鉾堂ファイテイング格闘奥義大会が行われていた。
 ルールはいたって単純、3分間の制限時間内に相手を倒せばOK。
 武器の持ち込みも許可されているが、爆薬・オイルなどの危険物の持ち込みは禁止、発覚した時点で退場。参加資格も特に無し、対象年齢熱い血潮を持った10代男子のために行われる、どこにでもありそうなケンカ大会なのである。
 現在は2時間続いた大会も佳境、全12試合中の12試合目。決勝戦である。

 背の低いビルの屋上に描かれた丸い円。白線で書かれたコーナーのつもりらしい中で、二人の男が向かい合う。片方はまさにやる気満々といった風情で拳を打ち鳴らし、もう片方は何をどうともなく、ただ相手をじっと見つめている。冷静に観察しているというよりは、どことなく無気力さが感じられる瞳で。
 染めて痛んだ金髪を重力に逆らうようにツンツンに逆立てた男が円の中心に歩み出た。
「さーさーさー、第5467回鉾堂ファイティング以下略!もついに決勝戦!両者とも、準備はいいか!?」
 二人は頷きあう。にやりと。無表情に。意志を確認したレフェリーは、すっと手を上げる。大きく息を吸い、高く上げた腕を振り下ろす!

「……レディ、ファイッ!」

 先に動いたのは、巨漢の方だった。残忍な笑顔を浮かべ、拳を打ち込む。己の重量で勢いを増した、彼十八番の左ストレート。左ストレートというあまり見かけない利き腕と文字通りの巨体で、過去幾人もの挑戦者を葬ってきた、人呼んでサイクロプスの左腕。命名、自分。
 今回も、とっさに反応できないだろう相手の顔面を打ち砕く筈だった。―しっかりと、直撃さえしていれば。
 巨漢の拳が穿ったのは、何もない空気。

「なっ……!?」

 丸太のような拳が届く頃には、男は身を翻していた。翻したといっても、身を捻ったとか少し体の向きを変えたとか言う僅かな動きではない。まるで巨漢の動きを始めから読んでいたかのように、きっかり90゜変わっている。
 フェイントの意味も兼ねた攻撃だったが、命中に絶対の自信を持っていただけに大きな隙を生む。予想外の出来事に頭が追いつかず、動きが鈍くなる。動揺に相手の行動を読むことすらも一瞬頭から掻き消える。
 だから。気付いたときには横から入ったカウンター気味の右ストレートが顔面にめり込んでいた。鮮やかなその一撃に、ギャラリーが色めきたつ。
 反撃の隙を与えず、とどめの回し蹴り。吹き飛ばすようなその攻撃に、90kgの巨体が軽く1mほど浮き上がり、地面に激突。
 巨漢はげふごとミンチにされたカエルっぽい呻き声。彼を応援していた観衆からも、半ば悲鳴のような声。
 勝敗は、命白だった。レフェリーは勝者の腕を高々と掲げる。空に、町中に示すように。
「勝者……佐藤、命っ!」
 鉾堂町では大会破りとして有名な、しかしまるで本人にやる気がないことでこれまた有名な青年、佐藤命(さとう・めい)。
 それが彼の名前である。

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