フランス料理を知らない親は毒親である可能性 ~名古屋駅フランス料理事件~
名古屋駅フランス料理事件とは、以下のツイート投稿に対する炎上案件である。
この投稿に「少しいいものを知ったからといっていい気になるな」、「しょうもないマウンティング」、「親を馬鹿にするとは何事か」、「こんな投稿をする娘の方が常識知らず」などと数多のバッシングが浴びせられ、Twitterは紛糾した。
さながら、クリスマス恒例の「4℃のアクセサリーを馬鹿にする女性」に対する男性からのバッシングと相似形である。
これに対し、時代の寵児たる文筆家として名を馳せている白饅頭こと御田寺圭氏は、教養とは本来人生を豊かにするためにあるもののはずだが、娘がそれを身に着けたことによってこんなことになってしまうのであればそんなものはむしろ要らないのではないか、しかし教養を求めてしまうのがどうすることもできない社会の流れだ、などという趣旨の嘆きを自身のnoteにおいて吐露している。
それ自体は多くのバッシングと流れを異にするものではないが、氏のnoteにおいてはそれと相反する見過ごせない一文が添えられていた。
さらっと脇に置かれてしまっているが、私はその毒親の可能性こそがこの娘のツイートの本質であり、4℃案件などとは性質が異なる話ではないのかと思い事件当初より娘側に共感していたため、それを見てこのように筆が走ってしまった。
まず、毒親とは子供に対して理不尽な抑圧をする親を意味するスラングであるが、一緒に食事をしている時点で毒親ではないだろうという指摘はあたらない。子供が大きくなれば親が解毒され、子供も親を許せるようになることもままある。
次に、一言に教養といっても、ハイブランド品や有名シェフのレストランの知識など己を着飾るための確かに無くてもいいような嗜好品的なものから、日常で物事を判別する上で確かに必要な「世の中の相場感」レベルものまでグラデーションがある。
もしこの娘が、本当の(しかし安価な)フランス料理店に連れて行かれた上で東京の有名店などを引き合いに出してその味を馬鹿にしていたのであれば、それは確実にその前者の(マウンティングのための)教養の話であり皆の怒り嘆きもごもっともなのだが、今回そう見えるのはフランス料理というキラキラワードによる錯覚であり、実態として世間の相場的には後者の(あってしかるべき)教養の話に近く、それであれば少し考える余地はないだろうか。
そして、「(無教養になってしまうほど)自分を犠牲にして苦労した人ほど毒親と呼ばれやすい」というのはその通りで、ただそれは子育てに苦労した結果として無教養になった(当事者は指摘されると往々にしてそう言う)のではなくむしろ因果が逆であり、それゆえに毒親になるのだ。
脇に置いておかれるべき話ではなく、むしろそれを以ってその指止めようと呼びかけてもいいような一級品の素材である。
貧しい時代ならいざ知らず、ここしばらくの日本においてわずかな教養を身に着ける暇も無いほど苦労をする必要性ははっきり言ってそこまで無い。
むしろ少しは教養を身に着けて苦労を逓減すべきなのに、それが逆になるのはどこかピントがずれている可能性が高い。
つまり、世の中の相場がわからない(教養が無い) → 本質とずれたことにこだわって力の抜きどころもわからない(苦労する) → さらに教養から遠ざかり、その偏狭な考えによって子供を理不尽に抑圧する(毒親化)…という生得的な視野による無教養を起点にした負の因果の図式があり、それこそが今回の件の闇の本質である。
要するにこの娘は、ただ単に社会に出て少し物を知って驕り高ぶって親の無教養を小馬鹿にしたのではなく、親の無教養に毒の片鱗を思い出したから感情が昂ってしまって投稿に至ったのではないかと、私は感じた。
親と社会のレベルの乖離が認識できたことにより、かつてあれダメこれダメとヒステリックに抑圧したり自分の大切なものを勝手に捨てたりしていた親の行為が、根源的な無教養ゆえに行われていたものであったことに改めて気づいてしまった。
幼い子供であった自分が感情的・主観的に反発していたものとして忘れていたのに、社会的・客観的に否定可能なものとしてアップデートされて蘇ってしまった。
それがこの娘の言う切なさの正体かもしれないのだ。
もちろんこんなものはあくまでも推測の域を出ないアナザーストーリーにすぎない。
娘のログを読み込んだらただ浅はかなだけだと判断できるという指摘もあるが、いずれにせよ過去の背景や経済的事情の真のところまではわからない。
ただ一つ言えることは、もし子供がいない若者であるにも関わらず娘側を批判した人、あるいはこんなアナザーストーリーは幼稚な考えだと一蹴できる人は、良い親の元に生まれたことを感謝してもいいのかもしれない、ということだ。
(※ただし、フランス料理を食べたことがある人に限る。)
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