見出し画像

渦と光

私は、何かを楽しんでいる人、夢中になっている人を眺めるのが結構好きです。

新年早々、ゲームをしながら年越ししている配信を見て過ごしていました。その人たちを眺めているだけで、何か自分も満たされている気持ちになるから不思議。

でも、そんな人たちの活動やイベントなどでの充実した話を耳にすると、ふっと現実に戻るような気持になることがあります。
この人たちは星のように輝いていて、輝いているから星座のように同じ光を持つ人たちが集まって、みんなにその光をお裾分けしてくれている。
一方で私は暗い海の中からその光を羨ましげに眺めている。冷たい荒波に揉まれて、天敵に見つからないように岩陰に隠れながら、別の世界の住人を眺めている、誰の目にも止まらない稚魚のような気持ち。

いつかはあの星のように空で輝いてみたい、でもあんなに美しい空での呼吸の仕方すらしらない私には、ただ眺めていることしかできない。

そんな惨めな気持ちに浸っている間にも、冷たい荒波がどんどん強くなり、一つの生き物のようにうねり始め、やがてある形を作っていることに気づきます。

そう、それは大きな大きな渦になっているんです。轟々と音を立てながら、ある時は右回転に円を描き、またある時は左回転に違った円を描く。
まるで意思を持っているかのように、周りの魚達も巻き込みながら、気まぐれに渦巻いています。

そのあまりの迫力に、私はその巨大な渦の動きをじっと眺めています。

全てを巻き込む渦を恐れてか、天敵たちはどこかに逃げてしまっています。そんなことを知ってか知らずか、お構いなしに回っている渦は、高笑いをしている快活な巨人のように見えてきます。
そんな高笑いにも聞こえる渦の轟音は、周りの雑音を全てかき消してくれて、かえって静寂の中にいるようです。
巨大な渦は周りの魚たちをどんどん巻き込んでいますが、飲み込まれていく魚たちはなぜか楽しそうに流されています。

そんな様子をぼーっと眺めていると、私もその渦に飛び込んでみたくなります。渦に魅かれているうちに、私の体はいつも隠れ家にしている岩陰からどんどん離れていました。

いつもだったら慌てて岩場まで戻るのですが、今は不思議とそんな焦りも感じません。それよりこの渦の中にはどんな景色が待っているのか、飲み込まれたときに感じる波はどんな感触がするのか、そんなことばかり気になって、どんどん渦に近づいていきます。

その瞬間、渦がふっと私に手を伸ばしたような気がしました。一瞬私は逃げなければ、と思い、身体をじたばたさせてもがこうとしました。
でも、すぐにもがくのをやめました。波に身を任せて、大きな渦の喜びを全身で感じるのがあまりに気持ち良かったから。

渦潮のしょっぱさが口の中に入り、目の前では飲み込まれた魚たちがはしゃぎ声をあげながら目まぐるしく動き回り、私はどんどん飲み込まれています。
この感じは、いつか行った遊園地のアトラクションのようだな、と私はぼんやりと感じています。

そんな渦のエンターテイメントを全身に浴びながら、どんどん中心へと近づいているのを感じています。渦の中はほとんど水の深い青一色のはずなのに、そのどこかから一筋の光が差しているのを感じました。
その眩しい光を見つけた私は、あれが渦の中心だ、と気が付きます。
その瞬間、さっきまで高笑いしていた渦が語り掛けてきた気がします。

「見つけてくれてありがとう。」

その声を耳にしたのかしなかったのか、そこで私の意識は、深い眠りに落ちたかのように途絶えました。

目が覚めると、海中の知らない場所にいました。呼吸をする度に温かい泡が浮かび上がるので、海の底に立っているのか、漂っているように感じましたが、魚たちの姿も見当たりません。ただただ深い静寂の中にいます。

どうやって元の場所に帰ろうか、と考えも浮かびましたがすぐに消えてしまいました。それよりも今はただその静寂に浸っていたいと感じて、そのままぼーっと漂っています。

すると、どこからか、ぽつ、ぽつ、と白い光が浮かび上がるのを感じました。
その一つ一つが、渦の中で見たあの中心の光と同じ輝きを放っています。
その光はどんどんと増えていき、光が増えていくほど、その光はどこまでも広がっているのを感じます。

そんな光に触れてみたくて手を伸ばしましたが、触れようとした手はすり抜けてしまいます。触ることはできないけれども、その光から、懐かしいような、少し寂しいような、でもとても温かい、そんな不思議な温もりを感じます。

そんな光がどこまでも続いている美しい景色を眺めながていると、やがて触れる必要がないことに気が付きます。
その光の一つ一つから、あの温もりと不思議な一体感を感じるから。
「やっと気づいてくれたね。私たちは、最初からずっと一緒にいたし、これからも一緒だよ」
光達が、私にそう語り掛けてくれた気がするんです。

そんな光との一体感に浸りながら、私自身からも彼らと同じ光が溢れ出していることに気が付きます。その輝きは、私自身が元々放っていたのか、それとも彼らに照らされているのか。

あの光たちも同じ気持ちなのかもしれない。

そんな考えが浮かんだのか浮かばなかったのか、私は深く呼吸をし、ゆっくりと目を閉じます。

再び目を開けた時、私は砂浜に立っていました。海の少し離れた所にいつもの岩場が見え、見上げるといつもの夜空が広がっていますが、どこかいつもとは違った景色のようにも見えます。

そんな不思議な景色を少しだけ名残惜しみながら眺めた後、私は砂浜の向こうの陸地へと向き直し、ある場所へと歩き始めます。
裸足で温かい砂を踏みしめ一歩一歩、歩くたびに、身体が温まっているのを感じます。温まる度に全身に力が湧いてきて、振り返らずにどんどん歩を進めていきます。
あの安堵感に包まれながら。



※この記事は、大嶋信頼先生の著書やブログを参考に催眠スクリプトとして書いていますが、何らかの効果を保証するものではありません。ご了承ください。


いいなと思ったら応援しよう!