花のリレー
こんなことを言うと反感を買いそうだけれど、私はこの街があまり好きではない。
住み続けるようになってちょうど20年になる。
気づけば、高校を出るまで暮らしていた町よりも、長く居ついてしまっていた。
生まれて数週間で引っ越したせいで、住んだこともないのに出身地として名前だけが付いてまわる、不思議な街だった。
夏休みになると母方の実家があるこの街で過ごし、地蔵盆が終わるとまたいつもの町へ帰る。
そんな街。
何がと言われると、難しい。
けれど、あちらこちらからいろんな人たちがやってきて、怒涛のように去っていく。
半分そのためにあるような街。
留まるのには適さない街。
普通に暮らしていても、居心地が悪いと感じることも多い。
観光地というのはそういうものなのかもしれない。
観光地とはいえ、つまるところ、そこに暮らす人のための街に変わりはない。
そこで暮らす人が街を支えるから、訪れる人を迎え、もてなすことができる。
その基盤が少々なおざりになっている様子が見えるからだろうか。
いつまでたっても、なんだかしっくりこないのである。
知り合いは増えたけれど、故郷にはなれない。
いつもどこか気持ちに一線が引かれているような。
涼しい風が吹いているような。
この街の繁華街に沿って、小川が流れている。
川沿いの桜は名所になっていて、ここひと月ほどの人出は花の数よりも多く感じた。
先日通り過ぎた折には、桜の時期は過ぎ、すっかり若々しい黄緑の葉で覆われていた。
ふと目線を揺らすと、桜の木に向い合うように、薄紅色の花水木が満開の花を咲かせている。
葉桜を見上げるように、紅白のツツジが陽を受けている。
あぁ、この花々を植えた人たちはきっと、一時でも長く、誰かの目を楽しませたいと思ってこの花並木をつくったのだろう。
花から花へバトンを渡すように、この街を彩る。
この街が好きな人たちがつくった花小路。
声高に叫ぶわけでもなく、花に託す。
そんな粋な想いが街にそっと息づいていることは、少なからず私をこの街に近づけてくれたように思う。