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『黄金と水の都』バンコク
夕陽に照らされ、黄金に輝く寺院。
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網目のように、生活を覆う川や水路。
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東洋のヴェネツィアとも呼ばれる「黄金と水の都」
それが私が出会った、バンコクの姿だった。
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本記事は、タイのバンコク、チェンマイ、アユタヤを巡った旅の記録。
それぞれの都市での体験を、三つの記事に分けて振り返ってみようと思う。
慈雨
この列車は、一体いつから使われているのだろう。
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古びた車両。どこか甘い独特の香り。蒸し暑い車内。どこか優しいタイの人々の表情。
2019年、タイのバンコク市内へと向かう列車は、これぞ旅と言わんばかりの雰囲気を醸し出していた。
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タイはよく雨が降る。最近もひどく雨が降ったのだろう。
それは、到着した駅の線路を見れば一目瞭然だ。
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「慈雨(じう)」という言葉があるらしい。
草木や作物に恵みをもたらし、穏やかに降り注ぐ優しい雨のこと。タイの雨にはこの言葉が相応しいように思う。
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水だらけのホームでパッタイを食べながら、これまでとはまた違う国の雰囲気を感じ取る。
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パッタイは、甘み、辛さ、酸っぱさなど、多彩な味覚と食感が一皿で混じり合う。東南アジア特有の料理という感じだ。
こうした国民食、伝統的な食べ物も、歴史を調べてみるととても面白いものだ。
パッタイ(Pad Thai)は、タイを代表する国民的な料理の一つで、ライスヌードルを使用した炒め物です。甘酸っぱいタマリンドソースやナンプラーで味付けされ、独特の風味が特徴です。
<パッタイの魅力>
絶妙な味のバランス
パッタイは、甘み、酸味、塩味、そしてほんのりとした辛みが絶妙に調和する味わいで、飽きのこない美味しさを持っています。タマリンドペーストのほんのりした甘酸っぱさが全体の風味をまとめ、ライムやピーナッツのアクセントが口の中でさまざまな食感を楽しませてくれます。
多彩なトッピングとアレンジ
パッタイはシンプルな料理でありながら、自分好みの具材を選んでアレンジできるのが特徴です。エビや鶏肉の他に、豆腐や卵を加えることで風味がさらに広がり、トッピングのライムやピーナッツ、唐辛子のパウダーで味の調整ができます。
歴史的背景
パッタイは、第二次世界大戦時にタイの首相が推奨した料理で、国の自給自足を促進し、米の消費量を抑えるための政策として広まりました。米粉を使ったヌードルを国民に広めたこの料理は、今やタイの文化を象徴する料理として親しまれています。
恵みの水
タイの雨、人々は慈愛に満ちているように感じると言った。
街中には水路もあり、恵みの水で満ちた都だ。
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しかしその一方で、この国には信じられないくらい攻撃的なものがある。
それは、タイのローカルフードだ。タイ料理は美味しくて大好きなのだが、時に鋭く牙を向くことがある。
以下の写真は、到着した日に屋台で食べた夕食。
バンコク滞在の際に泊めてくれたホストと共に、伝統的な料理をいただく。
この写真の中に一つだけ異常な攻撃力を誇る料理があるのだが、皆さんはお気づきだろうか。
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その料理こそが、右上の皿。
パパイヤのサラダ「ソムタム」だ。
タイのパパイヤサラダ(ソムタム/Som Tum)は、タイの東北地方(イーサーン)発祥の伝統的なサラダで、青パパイヤをメインにした、辛味、酸味、甘味、塩味が絶妙に混ざり合った一品です。ソムタムは日本でも人気が高まり、タイ料理レストランなどで見かけることが多くなっています。
一見すると大人しく見えるこちらのソムタム。メイン料理の側にそっと佇んでいる。
味は大変美味しく、バクバクと食べられるのだが、食べ始めて30秒もすると、次第に顔の辺りに異変を感じる。
経験したことのないような量の汗が吹き出してくるのだ。
タオルで顔を拭いても間に合わないほど。滝のような汗とはこのことだ。
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自分は完全にこの料理を見誤っていた。本場タイ料理の底力を感じた。
恵みの水を喉に掻き込み、必死に調子を整える。この一皿だけで病も吹き飛ぶのではないかというくらい、新陳代謝が促される。
悶えながら、しかし美味しさに震えながら、なんとか食べ切ることに成功したのだった。
尻燃ゆ
ところで、なぜこんなにもソムタムは辛いのか。
もっと言うと、なぜタイ料理には辛いものが多いのか。
いくつか仮説があったため、気になって調べてみた。
唐辛子の量:本場のソムタムには、時には数十本の小さな唐辛子(プリッキーヌー)が使われることもあります。これは、タイの料理文化において「辛いほど美味しい」とされる価値観があるためです。辛さは味の一部として楽しむものと考えられ、食材の新鮮さや調和を引き立てる役割も担っています。
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タイ料理に辛いものが多い理由として、以下のようなものがあります。
1. 暑さに対抗するため
タイは熱帯気候で高温多湿なため、辛い料理を食べることで発汗を促し、体を冷やす効果があります。汗をかくことで体温が下がり、暑さが和らぐのです。このため、タイでは激辛料理が自然と根付いていきました。
2. 食材の保存や衛生面
辛味成分であるカプサイシンには抗菌作用があるため、食材の保存や衛生面でも役立ちます。特に、昔の東南アジアでは食材を新鮮に保つことが難しかったため、香辛料を使って衛生面を強化する食文化が発達しました。
3. 辛味が味覚を引き立てる
タイ料理は甘味、酸味、塩味、苦味、辛味の五味が調和しているのが特徴です。唐辛子やスパイスの辛さが他の味を引き立てることで、豊かな味わいが感じられます。例えば「ソムタム」や「トムヤムクン」など、辛さが味のアクセントになっている料理も多いです。
4. 伝統的な薬効としてのスパイス
辛味成分には代謝を活性化させたり、免疫を高めたりする効果があるとされ、風邪の予防や疲労回復、消化促進にも役立つと考えられています。こうした薬効への期待から、唐辛子やスパイスを日常的に料理に取り入れる文化が根付いています。
5. タイ人の辛さに対する愛着
辛い料理はタイの文化そのものであり、多くのタイ人は幼い頃から辛味に慣れ親しんでいます。「辛さ=美味しさ」という意識があり、辛い料理を食べることで食欲が増し、爽快感を楽しむことができます。
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食文化というものは本当に面白い。地形、気候、歴史など、様々なものが折重なって生み出されている。
旅をしながら、こうした食文化の違いにアンテナを張り、仮説を立て、それが当たっているか試すのがとても楽しい。おすすめの旅の楽しみ方だ。
「明日は水上マーケットや、川沿いの寺院などに行けたらいいかなぁ」
そんなことを呟きながら、タイ初日は無事幕を閉じた。
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と思っていたのだが。
この話はここでは終わらなかった。
自分はタイ料理について調べ、さもわかった気になっていた。そのバチが当たったのだろう。
翌朝起きると、すぐに体調の異変に気づく。
Siriが焼けるように痛いのだ。
溶岩を擦り付けられているような、焼けるような痛みがある。
唸るように蹲りながら、すぐにその原因を理解した。
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「わかった気になってんじゃねえぞ」
そうソムタムに嗜められているように感じた。
黄金の山
タイ二日目は、市内の寺院や博物館を巡り、歴史を少しだけかじってみることにする。
それぞれの観光スポットには、船を使って向かうことに。
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移動の一つ一つがアトラクションのようで面白い。
最初の目的地は、
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階段を登り、頂上を目指す。
道中には印象的な彫刻なども多い。
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それほど段数も多くなく、スムーズに登頂。
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風鈴のような音が優しく鳴り響く、心静まる空間だった。
しばしその場に身を任せた後は、近場のラタナコーシン博物館に移動。
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ちなみに博物館に入る時、外にいたよくわからない人に入館料を1700バーツもぼったくられていたのだが、なぜか優しくされたと勘違いしてお礼にキットカットを渡してしまった。
様々な歴史が学べてよかったのだが、ガイドさんはタイ語だったため、解説は理解できなかった。
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タイの歴史も面白いが、ここまで見てきた建築一つ一つも見ていて楽しい。
そうした様々な寺院や建物、バンコクを形作ってきた運河などから、この記事のタイトルもつけている。
1. 黄金の都としてのバンコク
寺院の豊富さと豪華さ:バンコクには黄金に輝く寺院が数多く存在し、その荘厳な建築と装飾が世界的に有名です。これらの寺院は、黄金の仏像や金箔を施した装飾が多用されており、訪れる人々に強いインパクトを与えています。
グランド・パレスの壮麗さ:王宮やその周囲の施設は黄金の装飾が施されており、都市全体に「黄金の都」という印象を与えています。
神聖な仏教都市としての威厳:バンコクは仏教徒にとって重要な場所であり、仏教建築の多くが豪華な黄金の装飾を用いることで、バンコク全体に神聖で荘厳な雰囲気を醸し出しています。
2. 水の都としてのバンコク
運河ネットワーク:バンコクはかつて「東洋のヴェネツィア」とも称されるほど運河が発達していました。現在もバンコクには多くの運河が残っており、市内を縦横に流れるチャオプラヤー川とともに「水の都」としての魅力を発揮しています。
水上マーケット:水上マーケットや運河沿いの生活風景が、バンコクの文化に欠かせない要素として根付いています。特に有名な「ダムヌンサドゥアック水上マーケット」など、地元民や観光客に人気のスポットも多く、「水の都」のイメージを強調しています。
生活の一部としての川と運河:バンコクの多くの地区で、運河や川が人々の日常生活に密接に関わっています。移動手段としての水上バスや、チャオプラヤー川沿いの景観は、バンコクならではの「水の都」の風景を形成しています。
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博物館を後にし、チャオプラヤ川を目指す。
次の目的地は決まっているのだ。
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暁の寺
三島由紀夫の『暁の寺』という小説がある。
この作品は、著者が長年にわたって構想してきた壮大なテーマ「輪廻転生」を背景に、主人公や登場人物の精神的・哲学的な成長や変容を描き出すというもの。
タイのワット・アルン(暁の寺)といった現地の寺院を巡りながら、主人公は「輪廻」に関する考察を深めていく。
その「暁の寺」こそが次の目的地だ。
チャオプラヤ川を眺める船に乗り、対岸へと向かう。
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ところで、この船は美しいタイの寺院や情緒に浸る暇を与えてくれない。
恐ろしいほどの速度で爆走するのだ。
飛ばし過ぎではないかと思える程、上下左右にグワングワンと揺れ動く。
そんなアトラクションを楽しんでいると、対岸についに見えてきた。
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船を降りて感じたのは、その寺院の崇高さと精緻な作りだ。
細かな装飾とシンメトリーの建築は、一体どれほどの時間をかけて作られたのだろうか。
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近づけば近づくほど、その凄みが伝わる。
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周辺には他にも、目を奪われる数々の建築物がある。
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タイの装飾は豪華絢爛。しかし、嫌な派手さではない。
視線を奪われるような見事な装飾たちだ。
日がゆっくりと暮れるにつれ、その輝きは一層増していく。
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寺院には他にも、非常に有名な仏像がある。
ワット・ポーの涅槃仏
バンコクにあるワット・ポー(通称「暁の寺」)には、非常に有名な涅槃仏が安置されています。全長46メートルに及ぶ巨大な金色の仏像で、仏陀が右側を下にして横たわり、涅槃に入った姿を表しています。
この涅槃仏は、タイの仏教美術の象徴の一つであり、その圧倒的なスケールと神々しさから、多くの観光客が訪れる人気のスポットです。
ワット・ポーの涅槃仏は、特にその足裏に彫り込まれた108個の仏教の象徴が精密に描かれており、これもまた信仰の対象となっています。
人の背丈など優に越し、頭上から私たちを眺める姿には圧倒される。
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「涅槃(ねはん)」とは、仏教において、すべての煩悩や苦しみから解放された、安らかな心の状態を指します。仏陀(ブッダ)は、生涯を通じて人々に真理を説き、その最期に涅槃の境地に達したとされています。
仏教の教えでは、仏陀が亡くなった時に「大涅槃」に入り、完全な安らぎと解放に至ったとされ、この姿を表現するために寝そべった仏像が造られるようになりました。
世界中に寺院や教会など、祈りの場所は多くあるが、そうした場所を訪れるたびに圧倒される。
静寂、厳粛さ。他の空間では味わえない感覚を毎回覚える。
この寺院も仏像も、それだけのインパクトがあるものだった。
ところで、なぜこの寺は「暁の寺」と呼ばれるのだろうか。
名前の由来は、この寺院が日の出の光で特に美しく輝くことから来ていると言われています。朝日に照らされて、寺の外壁に施された陶器の装飾がキラキラと輝く姿はとても幻想的で、夜明けの風景とともに訪れる人々を魅了します。
ワット・アルンは高さ約70メートルの大仏塔(プラ・プラーン)を中心とする壮麗な建築で、外壁には中国の陶器や貝殻を用いた繊細な装飾が施されています。朝焼けや夕暮れの光がその表面に反射すると、寺院全体が美しく輝き、夜明けや夕暮れ時には一層幻想的な雰囲気に包まれます。
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朝日に照らされて美しく輝くとは。それは是非とも見たい。
しかし、深夜にバスで次の目的地に移動するため、明け方に来ることができない。日もほとんど暮れてしまっていた。
寺院の表面が光り輝く様子を見ることはできないのだ。しばし失望しつつも、帰路につくことに。
完全に日が暮れた帰りがけ、運河を渡り、寺院を振り返って目を疑った。
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対岸から見た「暁の寺」は、そこにいる誰もが立ち止まるほど美しく、壮大な眺めだった。
王宮
バンコク滞在中の最後の目的地は、王宮。最も訪れたかった場所でもある。
しかし、もう日は暮れきっている。営業時間もとうに過ぎ、中に立ち入ることはできない時間帯だった。
それでも一目見ようと足を運ぶ。
目の前の博物館に到着。
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そしてついに、王宮をこの目に収める時が来た。
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美しい。
本当に美しい。
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遠目から見るだけでも、不思議な空気を纏っていることがわかる。中に入れないことを心から悔いた。
しかし、まだ滞在最終日に微かに時間がある。
バンコク、チェンマイ、アユタヤを巡り、最後にバンコクからフライトというスケジュールだったのだ。
その最後の滞在時間に望みを託し、チェンマイへと向かうバス停へと急ぐ。
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バス停への道中で足を運んだのは、バックパッカーの聖地と呼ばれるカオサンロード。
ここで、バンコク滞在中に宿に泊めてくれたホストと最後の食事を共にする。
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一期一会の出会いを惜しみながら、タイの屋台と喧騒を共に味わった。
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その後はタイ北部のチェンマイへと向かう深夜バスに乗車。
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日本の夜行バスの倍以上広い通路と、快適な車内に驚きながら、次の目的地チェンマイを目指すのだった。
(続く)
↑続編はこちら
※本記事の画像は全て、筆者が撮影したものか、生成AIで生成しています。
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