コムローイに夢を乗せて
人生で絶対に見たい景色はあるだろうか。
自分にとって、タイの「イーペン祭り」はそのうちの一つだ。
毎年11月の満月の夜に行われ、参加者が紙で作られたランタン(コムローイ)に火を灯し、空へと放つ。
コムローイは熱気球のように夜空に浮かび上がり、星空に混ざり合う。目を疑うような幻想的な光景だそうだ。
いつかこの目で見てみたい。
そんな想いを抱き、チェンマイを訪れたのは9月。
大幅に時期を逸している。
祭りの気配など微塵もない。
夢は幻想に終わったが、本記事はそんなチェンマイへの憧れをまとめた旅行記だ。
上記のバンコクの旅の続きでもある。
静寂の街と脆弱な足
ひどく快適な夜行バスに揺られ、早朝にチェンマイへと到着。
朝早くだったということもあるが、バンコクと比べると非常に落ち着いた静かな街だ。
二つの都市を簡単に比較してみると以下のような感じ。
そんな違いを楽しみつつ、バスターミナルで話しかけてきたアメリカのバックパッカーのお姉さんと一緒に、タクシーに乗って市街地へ移動する。
ちなみに、タクシー運転手にはまたしてもぼったくられた。(というより、めちゃめちゃごねられて仕方なく多めに払った)
勘の良い人はすぐ気づくと思うが、ここは昔争いが多かった場所。中心部を囲っている四角形は、かつての防衛都市としての名残だ。
現在も旧市街を囲む堀や、城壁の一部が残っており、城壁の四方にはかつての門(ターペー門など)がある。
初めは土地勘がなくてウロウロしたものの、チェンマイののんびりとした空気に癒される。
見どころスポットはそれぞれ離れているため、レンタルバイクを借りることに。しかし、店員さんから
と忠告され、自転車に変更。
この相棒と共に初日は行動することにした。
古都チェンマイの歴史を感じ取るべく、早速自転車を走らせる。
街中には由緒ある寺院が多数点在し、それぞれに違った魅力がある。
寺院には仏像に加え、象などの生き物の彫刻も見られる。
タイと言えば象。象といえばタイだ。
タイの日常生活や仏教と深い繋がりがあるからこそ、こうした石像にもなっているのだろう。
チェンマイには象に出会えるスポットもあるようで、この目でリアルゾウさんを拝むことを楽しみにしていた。
ただし、全く歓迎できない動物もいる。
それが、こうした寺院の物陰に隠れている野犬だ。
ポケモンが草むらから出現するかの如く、突如として姿を現すこともある。狂犬病を持っている可能性もあるため、恐ろしくてたまらない。
バイオハザードをプレイするように、寺院に潜む野犬に警戒しながら自転車を走らせていた。
様々な場所を見ることができ、大変満足度が高い旅だったのだが、一点問題がある。
一つ一つのスポットが遠いのだ。。。
ママチャリで寺院を巡る人などほとんどいないので、自業自得ではあるのだが、やはりバイクレンタルにしておけば良かったと後悔した。
タイの蒸し暑さをこの身で受け止めながら、チェンマイの歴史を知るために足に鞭を打つ。
そうして訪れた、昼の旅のハイライトがこちらの寺院。
ここはチェンマイを代表する観光スポットで、高さ約22mの黄金に輝く仏塔がある。
美しい装飾が施された仏塔の中には仏舎利(仏陀の遺骨)が納められ、今も人々の信仰を集めているとのこと。
確か山の入り口でバスに乗り換えたのだが、それでもママチャリでは遠かった。。
しかもなんとこの寺院、疲れた足に嬉しいことに、、、、、
めちゃくちゃ階段がある!!
ハハッ!!😄(^-^)
思わずミッキーになってしまうほど、自分の足は脆弱になっていた。
両側をナーガ(蛇神)に見守られた306段の階段だそうで、とてつもなくナーガい階段だ。
しかし、ここまで来たなら登るしかない。
一段一段踏み締めるように登っていく。
そしてついに辿り着いた頂上。
そこには黄金に輝く仏塔と、チェンマイを一望できる素晴らしい眺めが広がっていた。
金銀夜市
昼のチェンマイだけでなく、夜のチェンマイもまた魅力に溢れている。
その日の夜、震える足を引きずって訪れたのは、ナイトマーケット。
ここでは、現地の文化にどっぷりと浸かることができる。
金や銀、美しい提灯、ローカルフードなどなど、目で見て楽しく、味わって美味しい。
ぜひ一度訪れてみて欲しい。
黒い対向車
短期間のチェンマイ滞在でのハイライトは、以下の国立公園への日帰りトリップだ。
市内からはかなり遠いのだが、近場で原付をレンタルし、宿で仲良くなった日本人と共にインタノン国立公園を目指すことにした。
チェンマイ中心地から片道100km近くある。この距離を原付で走破するのだ。水曜どうでしょうの如くだ。
ちなみにこの日の夕方には、次の目的地であるアユタヤへ移動する。
もし帰り道に渋滞でもあったら、当然アユタヤに向かう列車に乗り遅れる。チケットも予約済みだ。
しかし、そうしたスリルが逆にワクワクする。
無事帰って来れるのか。不安とワクワクを胸に抱いて、友人と共にエンジンをかけた。
果たして、そんな弾丸で楽しめるのか。
結論から言うと、ショートトリップはめちゃめちゃ楽しかった。
タイののどかな風景に癒され、果てしない直線を制限速度ギリギリで走り抜ける。
速度を上げるにつれ、自分が自由になっていく感覚。
思わず走りながら唸るほど気持ちが良い。
走り出して1時間ほどすると、山岳地帯が近づいてくる。目的地はもう少しだ。
車の数も一気に減り、油断していたその時、遠くから大きな黒い車がゆっくりと近づいてくるのが見えた。
のそりのそりと近づく黒い影。
速度を緩め、慎重にバイクを走らせていたのだが、近づくにつれてその対向車の正体が分かった。
ゾウさんだ!!!!
ついにゾウさんに会えたのだ!!!!
対向車ではなく、対向象だ!!!パオーン!!!(と叫びたくなるテンションだった)
思わずバイクを止め、敬意を持って道を譲る。
道端で象とすれ違えるなんて。本当に来て良かった。念願が叶った。
しかし、リアルサファリパークはこれからだった。
そこから先も、道端にゾウさん、ゾウさん、ゾウさん、ゾウさん。
あと何か別の生き物も!!(適当)
タイの歴史と文化の中にゾウさんがいること、その中心に位置付けられてきたことを肌で実感した。
途中、対向車線から牛だかヌーだかの群れが来た時は、突進されるのではないかと思ってビビり散らかしたけれど。。。
喧騒と喧騒
このように大変素晴らしい体験をしたわけなのだが、何か忘れていることに気づく。
動物たちに魅了され、寺院などに寄り道していて完全に忘れていた。
アユタヤ行きの電車の時間が差し迫っていたのだ。
道のり÷時速で冷静に計算してみると、間に合うか非常に怪しい。小学校の算数をしっかりと勉強していて良かった。
友人を説得し、申し訳ないが先を急がせてもらうことに。
国立公園から市内に向かう一本道を目指し、公園内の蛇行した道路を原付で巧みに走り抜ける。
車通りもないので、ジェットコースターを自分で運転しているかのようだ。
焦ってはいるものの、安全運転。
不安ではあるものの同時に楽しんでしまう。
旅の醍醐味は矛盾の中にこそある。
道に迷った行きとは異なり、帰り道は理解している。とにかく真っ直ぐチェンマイを目指す。
ひたすら突き進み、なんとか夜行列車の出発前にレンタルバイクショップに到着。
しかし、出発まであと20分。駅まではかなり距離がある。
かなり絶望的な状況だが、間に合う方法はないものか。タクシーなどは周囲に見当たらない。
こういう時にこそ、頭は高速回転する。火事場の馬鹿力だ。
その時見つけたのが、人力車?カート?のような乗り物。
現地の男性がゆったりと走らせていたのだが、必死の交渉で乗せてもらうことに。(多分人を乗せるための乗り物ではなかった)
事情を察してくれたのか、かなりの速度で飛ばしてくれる。
現地の男性なので、混まない道、近道を熟知している。その見立ては間違っていなかった。
出発3分前に駅に到着。
お釣りはいらないとお札を渡し、深くお辞儀をしてからダッシュで駅へと駆け込む。間に合うかどうかの刹那のタイミング。
その結果、、、、、
間に合った!!
駅員さんをなんとか説得し、無事にアユタヤ行きの夜行列車に乗り込むことができたのだった。
ちなみに、この数時間は焦りすぎて写真が一枚もない。
おかげさまでドーパミンとアドレナリンが溢れ出たわけだが、決して真似はしないで欲しい。
「バンコクの喧騒とチェンマイの静寂」
本来はそんなタイトルの記事になるはずだったのに、とんだドタバタだ。
バンコクの喧騒とチェンマイの更なる喧騒だ。
憧れ続けた幻想的な景色は、いつかのために取っておく。
コムローイに夢を託そう。
結局、イメージしていたものとはまるで違う旅だったが、だからこそ思い出深かったとも言える。
対照的な二つの都は、空に放たれた灯りのように、今でも記憶の中で燦然と輝いている。
(続く)
※記事内の画像は、全て筆者が撮影したものか、生成AIにて生成しています。