ほちょうきの現実逃避

こおろぎがなくころ、何かを夢みていた。

大草原にさく花々がささやく音。
きつねの兄さんが勇ましく食べ物をさがしにいく音。
ダンプカーに人が乗り降りするおと。
手拭いをまいたおとうちゃんがトンネルの中をあるく音。

音が自分の体を支配していく。

やがてぼくの聴覚が、研ぎ澄まされていく。
全部の音を支配していく。

音の支配人となったわたしは、いつでも
自由に音楽をうみだすことができるようになった。

補聴器をはずしたその日から
ぼくの人生は変わりはじめたのである

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