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【馬との会話】「毒親」と「優しさの呼吸」

なんか、変なタイトルですね。
今日は、毒親に育てられたあるアロマセラピストのお話。
本当に大切なことは、「自分自身の心と体だった。」という気づきのお話しです。


2019年。
もう5年も前の夏の暑い日に、アロマセラピストをやっているという女性(Aさん、30代)が、「もっとお客様に寄り添うために、ホースハーモニーを学びたい。」と、他県からわざわざ、ホースハーモニー体験にいらっしゃいました。

Aさんのお母様は、一般的に言われる、いわゆる「毒親」だったようです。
・物心ついてから、大学進学のために家をでるまで、なにから何までAさんを支配し、娘の「選択」を母親が「許可」することはなかった。
・どんなにがんばっても「もっと頑張れる。もっと頑張れ。」
・家庭内では、できないことばかり「指摘」され、母親のため息とともに見下されているかのような冷たい視線
・「お母さん」を期待しても、返ってくるのは「管理者」としての返答。

そんなAさんの生い立ちやお母様のことを全く知らない私は、「もっとお客様に寄り添える自分になりたくて来ました。」という彼女の動機がうれしくて、(きっとタロウさんとルーカスとのコミュニケーションも和やかで深いものになるだろうな。)と勝手に期待していまた。
Aさんに対する第一印象が、(澄んだ目をしている人だな)というのもあったかもしれません。

・ホースハーモニーの原則についての説明
・ボディランゲージの有効性とその限界
・そして一番大切な呼吸の役割
について、座学でひととおりご説明しましたが、彼女は説明の一つ一つにとても理解が早く、笑顔の相づちが気持ちよくて、うれしくてたまりません。

でも実は・・・、Aさんと私のやり取りで、少しだけ引っかかるものが二つありました。
その時ははっきりとわからず、言葉にもならず。
(まぁ、タロウさんとルーカスが教えてくれるだろう。)と思って、その方を馬場にお連れして、実際にタロウさんとルーカスとのコミュニケーションをはじめました。

Aさん、一人で馬場に入り、教わったとおり「優しさの呼吸」をはじめました。 が・・・。タロウさんとルーカスは馬場の柵に止まっているカラスと遊んでいます。
Aさんを無視しているのではなく、カラスと遊びながらも、いつもAさんを自分たちの視界内におき、チラチラとAさんを見ますし、左右どちらかの片耳はいつもAさんの方に向けています。馬には、心が向いた方向に耳を向けるという習性があります。

一例:左耳でリードを持っているお母さん、右耳で背中に乗せている子どもに耳を向けています。


タロウさんとルーカスは、片時もAさんから心を離さないのに近寄ろうとはしません。
Aさんは一人ポツンと立ち続けていて、ウマとヒトの「ハーモナイズ」が成立しません。

「ハーモナイズ(harmonize)」とは、
ウマとヒトのイニシャルコンタクト(一番最初の出会い)で、相互の生涯の絆が確立するほどの調和が成立する瞬間のこと。
ウマはヒトとのこの瞬間を終生忘れません。
何年ぶりに再会しても、そのヒトのことをすぐに思い出します。

※「ハーモナイズ(harmonize)」の用語は、長年、この瞬間のことをきちんと言語化できなかった私に、2023年夏、ホースハーモニー体験をされた横浜国立大学の言語学者の先生が提案して下さいました。

ホースハーモニー読本:「ヒトとウマの絆作り」より抜粋


馬場でずっと立っているのも暑いので、私はAさんを休憩所にお呼びして、アイスコーヒーを勧め、一休みにしました。
「タロウさんとルーカスが、離れたところから、ずっとAさんのことを気にしていましたよ。「優しさの呼吸」、あと一歩ですね。」と言いましたら、Aさんは、みるみるうちに目を真っ赤に充血させて、涙をためながら、「『優しさの呼吸』はできません。」と、はっきりとおっしゃいました。
さっきまでの笑顔は完全に消えています。

彼女の表情と断定的な物言いに、私は心臓がドキンとしました。
最初の説明の時の、朗らかなAさんの笑顔とはうらはらに、引っかかった「何か」。
それが私の錯覚ではなく、やはり実体をもつ「何か」だったことを受け入れざるを得ません。
私の心は、Aさんの第一印象とは正反対の、冷たく、固くこわばった反応の衝撃をもろに受けて、鼓動が速くなりました(一言で言えば、うろたえた)が、こういうときは無条件反射で「優しさの呼吸」が始まります。
静かに、微かに、そして確実に。
「優しさの呼吸」をすること数回。

はじめにすこし気になったことの一つ目。
「優しさの呼吸」を説明する際に、「母の愛」に例えることがあるのですが、私がAさんに、「母」という言葉を使う度に、Aさんにすかされた感じがしました。
Aさんの目が泳いで、私の視線から外れるのです。
そして、視線が外れる度に、一瞬のことですが私の鼻の奥がツンっとしたこと。
もしかしたら、Aさんはお母さんに対して強い否定感情を抱いているかもしれないという考えを、Aさんの笑顔に惑わされて、私自身が気づきかけていたのに受け入れていなかったのです。

二つ目の気になったこと
それは、私とAさんの会話のテンポが「早く」なりがちということでした。
客観的には気持ちよいテンポの会話に見えるかもしれませんが、私が一番伝えたいことを言う直前に、「それはつまり、こういうことですか。」と、結論を急ぐかのような会話になりかけることでした。
内心、(ん~、近いけど、ちょっと違う)と思いながらの会話でした。

ホースハーモニーの原則
1. 馬との交流に「力」は無用
2. 馬の反応の原因は100%、「人」の側にある。

ホースハーモニー読本:ホースハーモニーの原則

今のAさんと私の関係は、原則2に該当します。
Aさんが今、このような状態でいるのは100%、私に原因があります。
私の不適当な例え話に尽きるのです。

正直に言って、タロウさんとルーカスを相手に交流するときも、このような状況になることはあります。
私はこういう状況になると、あれこれ考えるのではなく「優しさの呼吸」「感謝の呼吸」をします。

「謝罪」は時として「感謝」と同義で、相手に対して心から「ありがとう」を言うときの「体の状態」と、静かに心から「ごめんなさい」をするときの「体の状態」はほぼ同じです。(不思議ですね。)

私は静かに、(Aさんの心を騒がせてしまってごめんなさい。)という気持ちで「感謝の呼吸」をしました。

そして、Aさんと私の関係性をもう一度再構築するために、次に「信頼の呼吸」をします。

「優しさの呼吸」で動揺(うろたえ)から脱して我に返り、
「感謝の呼吸」でAさんを今の状態にしてしまったことに謝罪し、
「信頼の呼吸」でAさんとの関係再構築を図りました。

※これらはすべて、呼吸により私自身の体内で起こっていることで、Aさんとの直接の会話はありません。呼吸により、私の体内で生理現象として起きている、「想像から内観へのプロセス」は、また機会がありましたら投稿します。

私の動揺がようやく落着いたのとほぼ同時に、「ごめんなさい。取り乱してしまって。『お母さん』という言葉が私に突き刺さって痛いのです。」と、Aさんが涙をこぼしながらおっしゃいました。
Aさんのお母様は、冒頭に記述した、いわゆる「毒親」だったことを、この時初めて伺いました。

そして、私の説明があたかも、「良好な親子関係」のもとに育てられたことを前提とした、きれい事を聞かされているかのような感じがして、話を聞くのが辛かったということも。

Aさんは、アロマセラピストという仕事をしていて、お客様のお話を聞きながら、そのお客様の本当の「心の声」に触れた感じがすることがよくあるそうです。
みなさん喜んでお帰りになりますが、同じような境遇のお客様に接すると、自分が抱えているトラウマにおしつぶされて、心からお客様に「向き合えない」。そしてもちろん「寄り添えない」。
表面上では笑顔で接客や施術をしていても、癒やしのための「アロマセラピー」という手段を使いこなせず、自分の無力感でいっぱいになることもしばしばあるそうです。

ネットでトラウマや、親子関係のことなど、ずいぶん検索してもAさんの心に響くものはなかったそうですが、なにかの拍子にタロウさんとルーカスを見つけ、ここのnoteにたどり着き、過去記事をお読みになり、(タロウとルーカスなら、なにか大切なことを教えてくれるかもしれない。)と直感的に思ったそうです。

私はAさんが心を開き、そしてお母様のことをお話しして下さったことに心から感謝して、改めて「優しさの呼吸」の神髄をご説明しました。
「母親」という言葉を「命」と「システム」いう言葉に置き換えて。
※通常は「お母さん」という一言で説明がつきますし、その方が皆さんの理解が早かったので、それまでは皆さんにそういう例え話をしていました。

・まず、すべての命には具体的な「命の匂い」「命の音」いうものがある。
・今生きている自分の命に火がともされた瞬間のこと。(受精卵)
・受精に至らなかった精子の意味(部分と全体の関係)
・そこから自動的に始まる生物10億年の進化を、十月十日とつきとおかで完了する生命システムのこと。(胎内での成長)
・生き物が「生まれてから、死ぬまで生きるため必要なこと」はすべて、この期間に作られていて、生まれたときにはすべてが満たされている。(誕生後の生命維持システムの神秘)
・このシステムの中にいるときは、ひとかけらの不安もなく、ただ、無条件にシステムに守られており、それは「愛」とも呼べるものだということ。
・このシステムはすべての命に共通していること。(羊水の成分)

ホースハーモニー読本:「優しさの呼吸」について

Aさんは、上の説明のなかで「命の匂い」という一言に反応しました。
瞳孔が開き、さっきまでのお母様のことを引きずっている様子はありませんでした。何かをつかみ取ろうという目をしています。

改めて、「優しさの呼吸」の神髄をご説明したときには、すでに表情が元に戻っていて、何かを掴んだ顔をしていました。
私は、「さぁ『論より証拠』、馬場に行きましょう。タロウさんとルーカスが待っていますよ。」と、再び馬場に誘いました。

!!!びっくりです。
Aさんが休憩所の東屋から馬場に向かって歩き始めた瞬間から、タロウさんとルーカスは、馬場の入り口に向かって、走って迎えに来ました。
そして、先ほどとはまったく違う反応。
馬場に入ったAさんに、まるで子どもたちが母親にまとわりつくように、二頭で体をすり寄せ、左右から挟み撃ちして、Aさんに500Kgと300Kgの体重を押しつけて、尻尾をブンブン振り回しながら甘えています。
ルーカスはAさんの頭や肩に、自分の頭と首をのせて振り、タロウさんは首の付け根の「キコウ」と呼ばれる部位をAさんの脇腹にぎゅうぎゅう押しつけています。
タロウさんとルーカスは「体」全体を使って、Aさんに対する愛情表現をしています。

こうなると、もう言葉の限界を超えていて、「命」と「命」のふれあいそのものです。

Aさんの写真ではありませんが、これを激しくしたような感じでした。

その後、Aさんに「信頼の呼吸」をご説明し、タロウさんとルーカスに「信頼される状態」、時として、その信頼の状態が崩れること、崩れた信頼はいつでも呼吸で取り戻せること。
そしてそれらはすべて、自分の体の中で起こっていることなどを、実際に体験して頂きました。

ホースハーモニーを終えて東屋に帰ってきたあと、Aさんはおっしゃいました。
「優しさの呼吸と信頼の呼吸を、タロウさんとルーカスの反応で、何度も何度も繰り返して確認している内に、私の母に対する思いが変わっていくのがわかりました。
タロウさんとルーカスの前で、思い切り母を憎み、泣きたい気持ちになったときも、タロウさんとルーカスは優しかったです。その度に、私の母に対する思いは、祖母に育てられた母も同じ気持ちだったということが、うまく言い表せないですが、私は体で感じることができました。」

「毒親」というのは、この世の中、少なからずいます。そして、大人になって、自分が母親になっても、その「毒親」を引きずって苦しんでいる人たちも。

でも、呼吸により、自分自身の体そのものを実感できるようになると、引きずっていた「毒親」の意味が変わり、その代わりに「感謝」が生まれます。
このようなことを、文章で書くことに限界があるのですが、タロウさんとルーカスは、それらを全部ひっくるめて受け入れて、そして慰め、励ましてくれます。

おしまい

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