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故郷・長崎への提言 ~井形 慶子さん 2010年2月17日付・長崎新聞より
長崎は閉鎖的な社会だと思う。
長崎くんちの雰囲気にも感じていたが、人情深い半面、反りが合わなかったり、意見が食い違うと、疎外されてしまう。住むにはそれなりの協調性が求められる。
私の母は長崎で、登校拒否の子どもとその親たちを支援している。
母は「枠からはみ出た子に教師が対応できない」と嘆いていた。
若者が独創的なことをやっても評価されない。
私も高校生のころ、授業でシュールレアリスム(超現実主義)の画家サルバドール・ダリをまねたヌードの絵を描いただけでとがめられた。
長崎を離れて、こうした息苦しさから解放された。
東京はいつもどこかで劇やコンサートがあり、多様な文化に触れられる。
長崎もかつては海外の文明にオープンな街だった。
それだけの歴史や文化があるのに、なぜ長崎大に文学部がないのだろうか。文学は社会ですぐに役立つわけではないが、個性を持って生きる上で欠かせない。
観光もそう。旧態依然の開発から抜け出せていない。
首都圏の人々が求めるのは、ハウステンボスのような箱物ではない。
長崎市だったら丸山や寺町といった路地裏の風情。馬でしか荷物を運べない急な坂。そして軍艦島だろう。
こうした環境は大事にしなければならない。
観光立県を目指すなら、もっとユニークな試みができないか。
英ウェールズのある町は、まちおこしで古本屋街をつくった。古城を買い取った店もあり、今では約40軒が並ぶ。
著名作家を招いたイベントなどで世界中から人が集まり、地価が高騰した。
東京や京都でも街の古民家を改装し、そこで小物を売ったり、喫茶店にするケースが増えている。
民家の所有者が高齢化する一方で、何かにチャレンジしたいという若者は都会に多い。
長崎もまとめて県外にテナントを募集したらどうか。
これらのテーマは「人の流動」。
絶えず新しい人を呼び込み、いろんな価値観を受け入れないと、街は閉鎖釣になり、死んでしまう。
それを防ぐには、それを防ぐには外国人留学生をもっと受け入れるべきだ。幸い長崎は韓国ゃ中国に近い。彼らが住めば、消費も活発になる。
首都圏で長崎市以外はそう知られていない。そもそも離島や半島は行きづらい。
私も平戸に行ってみたいが、アクセスが分からない。
新幹線よりも、バスや高速船の便数を増やした方がいい。
特に、欧米人は自然に興味が強い。英スコットランドは離島が多く、教会が点在する長崎と似ている。フェリーとバスをパッケージにした日帰リツアーが人気を集めている。
長崎から優秀な才能が流出している。新知事には、彼らが古里に戻りたくなるような仕組みづくりを求めたい。
英国では国舎暮らしは成功者の証し。
東京から大島や長野、北海道、沖縄に移住する人たちはいるが、長崎はあまり聞かない。
閉鎖性を打ち破ることができれば、長崎の風光明媚(めいび)な環境という魅力が 利益を生むはずだ。
(聞き手は報道部・後藤敦)
12年前の提言であり、「その通りだ!」と思うが、その後の12年間、まったく提言は生かされなかった。
「箱もの」を作っては失敗し、今年はとうとう県内最大の箱ものも赤字から海外企業に売却されてしまった。
先日、「日本一短い新幹線」「隣県の温泉地までしか行けない新幹線」開通に半世紀という時間と莫大な税金を投入し、開通した!とほんの一部だけで盛り上がっていたようだが、どう、考えても、まず乗らない。
提言に耳もかさなかった知事は選挙に敗れ退陣したが、新知事もやはりまた同じ轍を踏もうとしている。
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