不寛容な社会

「不寛容」は、どこに

先日、音楽の道を志す知人のライブを見に行った。
去年も一回、彼のライブを観に行ったのだが、当時のたどたどしさは感じられず、記憶の中の姿から一段と成長した姿が感じられてなんだか嬉しくなったし、自分も頑張ろうと思った。

お客さんもたくさん来場し、ライブは大盛況だった。
音楽の道を極めることは確かに険しい。
だけど、その険しい道を選んだ彼がひたむきに夢を追いかける姿に共感し、それを支えようとする人々も大勢いる。

自分らしい人生を歩むことや夢を追いかけることは他人の心をも動かすのだと改めて気づかされた。




「不寛容」

そんな言葉がささやかれるようになって久しい。
インターネットの炎上であったり、「自己責任」の論争であったり例をあげればきりがない。
SNSを利用していて心無いコメントを目にすることも珍しくなくなった。

ただ、世の中にはそういった「不寛容」とライブ会場で感じた「夢を追いかける人への寛容さ」が混在しているのも確かなのだ。
そこに何か隔たりがあるとしたら一体何なのだろうか。



気になる映画があって、大学に入って初めて映画を見に行った。
思い返すと大学どころか、高校の頃から行った記憶もない。
ともかく久しぶりだったので、ちょっと緊張していた。

映画館が併設されたショッピングセンタ―には家族連れも多く、ほのぼのとした雰囲気に包まれていた。
店内のアクティビティを親子で楽しむ姿や手をつないで店を回る家族、退屈そうにレストランの順番を待つ子ども達。
どこかに「不寛容」を見つけようと思っても難しい。
不寛容というのはごく一部の人々により生み出されたものなのだろうか、そんな思いが胸中をかすめた。


映画館に着く。
お目当ての映画を電光掲示板で指差し確認し、チケットを買い求める家族や学生でごった返していた。
僕もチケットの手配をして、映画館が開場されるとすぐに入場し席についた。

何年ぶりだろうか、といささか懐かしい気分になった。
昔の頃の記憶を辿る。
何もかもが朧げになっているからだろうか、心なしか映画館が小さく思えた。

しばらくすると予告編が始まり、一気に雰囲気が変わった。
映画館で映画を観ることの一番のメリットは「素晴らしい音響で臨場感を味わえる」ということだ。

昔はよく来ていた。
ボリュームの大きさに毎回驚いていたが、段々とその刺激に慣れていく。
田舎だったから映画館が周囲に無く、子どもの頃は映画を観に行くこと自体、とてつもなく大きなイベントだった。
昔はそれほど楽しみなものだったのだ。


……なぜ行かなくなったんだろう。
スクリーンに映し出される映像からピントがずれ、ぼんやりと動くのがやっと分かるくらいに、頭の中の疑問に焦点が合っていた。


「料金が高いから」
「少し経てばテレビで見られるし」
「都会は近くにあるからいつで行ける」


たぶん、そんな理由で説明できることなのだ。
観に行った方が、同じ映画でも感動の度合いは違うし、不特定多数の見知らぬ人と同じ想いを共有する時間もできる。

メリットもたくさんあるはずなのに。
要は難癖をつけていただけなのだ。

成長したり、環境が変わる中でできた、心の変化。
それに気づいたとき、心の中に「不寛容」を感じた。


「お金のことを気にしていたら学生生活つまんないじゃん」
「映画館の方が臨場感がすごい!」
「都会だから行きたいときに行けるから便利」


こんな風に自分に言い聞かせたとしてもよかった。
どうにか「行かない理由」を探して、自分の価値観の中に安住していたのだ。
そういう心掛けがいつか「不寛容」につながるのかも……
一気に「不寛容」が身に迫ってくる思いがした。

自分が見たい事実を見ようとする。
自分の価値観に沿うものを求めようとする。
仮に音楽の道を志す知人の姿が、僕の気に食わない姿だとしたら嫌味を言ったりしたのかもしれない。

自分の触れる世界を都合よく選択したり制限したりすることで、人は「不寛容」に芽生えていく。
「不寛容」は自分とは縁遠いものではなく、隙があればいつでも心の中に忍び込んでくる厄介なものなのだ。



映画を見終わった。
やっぱり映画館はいいな、の満足の一言だった。

なんで久しく行かなかったんだという後悔もあった。
だけど、テレビで見ればいいなんてことはもう言わない、という反省もあった。
「不寛容」な心はこんな風に反省と後悔を繰り返しながら対峙していくしかない。
そう気づけただけでも、映画も含め十分意味のある時間だった。

結局、自分の経験でしか物事は語れない。
「不寛容」の中にも自分の経験上の正義はあるし、すべてを否定することはできない。
だけど、自分の価値観の中に居座り続けることは、やっぱり怖い。
色々経験していく中で、何を選択するのかを純粋な目線で決めていくことが大切なのだと思う。









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はやぶさ
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