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映画『ゴールドボーイ』 今日本で一番頭のネジが飛んでる大人と子供(※ネタバレあり)

こんばんは。朝ドラ『虎に翼』の岡田将生演じる星航一に、毎朝心を洗われている堀木です。
この春、私が見逃してしまっていた岡田将生がいました。

映画『ゴールドボーイ』です。

早稲田松竹の金子修介監督特集として、この度目撃することができました!
どことなく昭和っぽいポスターが痺れるかっこよさのゴールドボーイ、その感想を語ります。

この題字がまた良い

はじめに・岡田将生最高



10年以上邦画のトップランナーを走り続けている岡田将生さんですが、見る度に唯一無二の個性が研ぎ澄まされていっているなと感じます。
神にも匹敵する美貌なのに、どうしてあんなにどうしようもない人間味があるんでしょうか。
全ての監督が一度は考えたことがあるはずです。追い詰められて取り乱す岡田将生を撮りたいと。
余談ですが、トークショーにて本作の金子監督は「『太陽がいっぱい』のアラン・ドロンをイメージして、岡田将生さんをキャスティングした」とおっしゃっていました。
日本のアラン・ドロンは岡田将生。
本当に間違いないです。

私が特に岡田将生さんを意識したのは、映画『ドライブ・マイ・カー』でのことでした。
堀木は車とタバコと濡れ場はスカしと認識しているこじらせ屋さんですから、壊滅的にドラマ化(ドライブ・マイ・カーの略)とは相性が悪かったのです。
しかし、岡田将生演じる高槻が本性を現し始め、流れが変わりました。
作品全体の静謐なイメージとは真逆なほどのぎらつき、俗っぽさ。
でもきっと、芸術品のような容姿を持つ彼だからこそ、リビドーを臭みがきつくない形で表現できたのでしょう。
そんな演技に釘付けになりました。

で、本作です!
前置きが長すぎました!
歳を重ねるごとになんかやけに偏屈な役をあてられて、ものの見事に演じきってしまう岡田将生。彼が今度は子供とサスペンスでバトるとなれば、見逃せるはずがありません。
ゴールドボーイの東昇は、冷徹さと隙のある感じを両立する、実に岡田将生ならではの殺人鬼でした。


年齢が落とす翳りの中で一番美しい

あらすじ

https://youtu.be/_gw0sQRt_mw?si=qL7IeD_eq30_weGh

舞台は沖縄。
県全体を支配する、東ホールディングスの会長夫妻が、海辺の崖から転落死する事件が発生します。
犯人である婿養子の東昇は、疑われながらも証拠を掴ませず、平然と暮らしています。
同時期、安室朝陽という少年の元に、かつての友人の上間浩が義理の妹、夏月を連れて逃げ込みます。
夏月が血のつながらない父親を刺したというのです。
2人を匿って、朝陽は彼らと行動を共にすることとなります。
3人で海に出かけた日、朝陽が夏月に向かって構えたカメラには、東昇が義両親を突き落とす姿がはっきりと写っていました。
この証拠で東昇を強請れると考えた朝陽は、3人が大学卒業できるまでの6000万円を手にいれるべく、殺人犯の昇の元を訪れます。


面白いに決まっている!!!!!

※以降内容・ネタバレを含みます

信頼できない語り部(全員)

キタノブルーのカメラマン、柳島克己さんによる撮影
今回はグリーンの色彩とのこと


普通に考えて、岡田将生の容姿で身内を次々に殺して素知らぬ顔で葬儀で涙していたらぞっとしそうなもんですが、多分監督は意識的に彼をコミカルに、隙のある感じに描写しています。
冒頭の殺人第一発見者RTAの流れのテンポ感、ちょっと面白すぎますもん。
怖い半分、えぇ…(ドン引き)半分というか。
計算高い部分もありながら、そのくらいの抜けたところもあるおかげで、子供たちとまともにやり合う羽目になるわけです。

さて、本作の「顔」である岡田将生が、舞台設定と言っていいほど盤石な、殺人者という存在なわけですが、彼以外のキャラクターは、驚くほど立ち位置が読めません。

W主人公の朝陽という利発な少年はクラスメイト殺しと罵られ、罵ってくる相手、クラスメイトの母親はどう見ても様子がおかしい。
朝陽の元父親はその女と再婚してるというわけだ(し北村一輝だ)から胡散臭いが、悪い人じゃなさそうな感じがあります。
急に転がり込んでくる浩と夏月の兄妹は、浩は調子と面倒見は良さそうだが普通にカツアゲとかするチンピラだし、夏月は襲ってきた父親を刺してきたところです。あとついついミステリアスと感じてしまうほどの美少女です。
昇の冷え切っている妻、静はちょっと態度がキツすぎるし、彼女が甘えている県警の厳とはただならぬ仲なのではないかと邪推させ、厳自身も私情で衝動的に動いている印象が、不信感を与えます。
あと今回唯一?の100%善人であった朝陽の母親、香は黒木華ですから、完全なるミスリードです。(黒木華って、最後の最後でちゃぶ台ひっくり返して発狂しそうだから…)

このように、昇以外のキャラクターは、全員「信頼できない語り手」です。

あまりにも全員が全員怪しいばっかりに、一番怪しかった主人公、朝陽の怪しさが気付けば、意識の外に出ていました。

上演後のトークショーで、金子監督は「元々特にどんでん返し的にしたかったわけではない」とおっしゃっていましたが、偶然か必然か、朝陽の凶悪性は、物語終盤まで見事に隠されていました。

原作が『悪童たち』という中国の小説であることも、影響していたかもしれません。キャラ全員の異物感というか。
でも、つい昨日見た『1999年の夏休み』でも似た感覚を覚えたので、金子監督の撮り方もあるのかもしれませんね。
キャラクターの誰かに肩入れするのではなく、全員を俯瞰して、あくまで「出来事」を観客に目撃させるような作風が心地よかったです。
「邦画って嘘くさいんだよね(笑)絶対そんなのあり得ないのに役者が急に叫んだりして大げさじゃん(笑)」とか思ってる方々にぜひおすすめしたい作風です。同じ叫びでも、共感なくただ事象として映される叫びは違った迫力があっていいですよ。

邦画大好き屋さんとしての棘が出ました。失礼しました。

凶悪犯vs悪ガキたち、という構図だと、『ぼくらの七日間戦争』的に子供たちを応援したくなりがちですが、今回の子供たちは手放しに応援させてはくれません。
朝陽自身が計画しての行動かはわかりませんが、昇と対峙した後に「あの人の方がずっと怖がってたよ」と何度も言うのが、子供っぽい浅はかさにも見えて、時に「こいつらちょっとは痛い目見た方が良いな…」と昇にさえ感情移入させます。

とにかく見応えのある子供たち

冒頭で岡田将生について語りすぎましたが、今作の主役は間違いなく、子供たちです。
彼らの存在感のあることあること!
堀木は邦画の、中学生役や高校生役に20代の大人をあてがちな風潮には激に怒しております。
NHKのドラマを見なさい。是枝監督作品を見なさい。そして『ゴールドボーイ』を見なさい!
リアルな少年少女も、こんなにも頼もしい表現力をしていますよ!
(※子供にはショッキングな台本のために、配慮して大人をあてるという場合はやむをえません)

最高のキャラデザバランス

主人公の安室朝陽を演じる、羽村仁成さん。

怖すぎ!!!!

「凶悪性を隠している」というキャラクターですが、いわゆる二面性的な印象はほとんど受けません。
初めてのデートでキスに漕ぎ着けそうになって、周りの目が恥ずかしくなって失敗する姿も、瀕死の昇の前で楽しげに犯行を語る姿も、あくまで地続きに見えるのです。
それゆえに、朝陽が時々見せる、全てを見透かしたような眼光に違和感を覚えつつも、最後まで「でも普通の少年かもな」と思ってしまう妙が生まれています。
大人が演じるサイコパスよりずっとわざとらしさがなくて、それだけに本当に怖いです。

チンピラのような振る舞いをする浩に、困惑しながらも精一杯匿おうとする朝陽。
そんな姿に「大人しい優等生」という印象を抱いてしまった我々は、彼の日記に騙された県警の追体験をしていたのかもしれません。

そして、ヒロインの上間夏月を演じる、星乃あんなさん。

海よりも輝いている

その圧倒的ヒロイン力ときたら!

ストーリーに恋愛が絡んでくるのは、イーッ!😬な堀木ですが、夏月のあんまりにもな純愛には、さすがに着席して応援してしまいます。
愛に殉死してしまうのなんて、全然まっぴらなのですが、夏月の痛いほどまっすぐな目は、それらをどこか正当化してしまうほどの強さがあります。

夏月の本懐がどうだったかはわかりませんが、彼女の最期までの純愛が、朝陽の完全犯罪を崩したのは、痛快な作劇でした。

特撮大好きっ子であるところの堀木は、星乃さんを王様戦隊キングオージャーのコガネというキャラで知っていたはずなのですが、それに全く気づかないほどの圧巻の演技でした。

そして、上間浩役の前出燿志さん!

かわいそう!!!!!
今作で一番まっすぐ「子供」をやっていたのは彼でした。
「一緒に死体を埋めた仲」として無邪気に昇を慕い始めている終盤の姿は、涙なしには見られません。
ウェ〜イと突き出した拳に無言で拳を合わせる昇。
またちょっと面白い図だなというのは置いといて、
マジでどう考えても信じていい相手じゃありません。
初めての殺人に憔悴した浩なりの、防衛機制の表れだったのかもしれません。
気の毒に…。
それはそうと昇おじさんが何度かサシで浩と飯行ってるシーン、なんとかして見たいですね。どうしてそんな面白そうな余談があるんだ。

サイコパス同士の邂逅

「サイコパス」という言葉はかなりこすり倒されて、もうライナスの毛布くらい毛玉だらけなのですが、やはり今回は言わせてもらいたい。
貞子vs伽倻子ばりの夢のカードですから!

大人サイコパスvs子供サイコパス
銀メダルサイコパスvs金メダルサイコパス

1作品にいても1人だったサイコパス同士がガチンコで騙し合う、これはサイコパス・マルチバースと言っても過言ではありません。
どちらかが無双するわけでもない、絶妙な力関係の頭脳戦。
絶対に関わりたくない連中同士のバトルは映画で見るに限りますね。


おわりに

ウェットじゃないサスペンスが見たい方
大人と子供の演技バトルに痺れたい方
人に心を許さない岡田将生が見たい方

以上の方は『ゴールドボーイ』を見てきて、感想を私に教えてください。
それでは。

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