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編集補記(JINO株式会社 郷司智子さん|ふつうごと)

昨年11月に取材した、JINO株式会社 代表取締役の郷司智子さんの取材記事を公開した。

取材から半年経っての公開、自らの遅筆ぶりに呆れながらも、郷司さんからは温かい言葉を寄せてもらった。本当に感謝しかない。

改めて編集補記ということで、記事公開に至るまでの思考を整理する。

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なぜ、そんなに頑張れるのか

記事後編、終盤に記載した問い「なぜ、そんなに頑張れるのか」。

郷司さんは24時間365日、聴覚に関することを考えている。野球観戦などの趣味もあるけれど、「全く何も考えない」という日はないという。

一般的なワーカホリックというわけではない。郷司さんは前向きで、自発的だ。ゲームに踊らされているわけではなく、自らの意思をきちんと言葉と行動に変換している。そのエンジンは、どんなふうに成り立っているのだろう。

普段、経営者に対して「なぜ、そんなに頑張れるのか」と面と向かって尋ねる機会はない。尋ねたとしても、首を傾げるだけだろう。

それでも尋ねてみたかったのは、愚問だと承知でも、彼らにとっての「ふつう」は、僕にとっては「ふつう」ではないからだ。どちかといえば僕寄りのマインドの読者もいるはず。彼女への取材を通じて、その疑問がスッと氷塊したような感覚があった。

家族のこと、社会課題の当事者として

今回の取材で、郷司さんは家族のことを話してくれた。

郷司さんの叔母が、ろう者だったことは知っていた。しかし郷司さんが20代の頃に父親の介護にあたっていたり、母親が半身不随になったりということは知らなかった。当事者として、様々な社会課題に直面してきたのだった。

それらを記事の中でどう表現するか。かなりの時間を割いて、僕は考えていたような気がする。郷司さんのプライベートな話だ。郷司さんからは「使うかどうかはお任せします」と言っていただいていたけれど、ご家族のプライバシーを易々と取り上げることはできない。既に鬼籍に入った方もいて、余計に、彼らの名誉を毀損するようなことを書いてはいけないと思った。

だから、何度も郷司さんの取材記録を読み返して、いつも以上に思いを込めてテキストに向き合った。郷司さんの記事を書くにあたって、家族の存在は絶対に欠かせない話だと思ったからだ。

センシティブな話題を扱うことについて、そもそも社会課題とは何か?

家族の話と同様、「福祉領域にとって適切な表現とは何か?」について考える機会になった。

今年3月まで、「さがケア」というプロジェクトに携わったことも、僕には大きな力になったように思う。このプロジェクトを経験しなかったら、記事はもうちょっと違うトーンになっていたかもしれない。

短期間で14事業者の取材をし、原稿を執筆する。分量の多さに気が遠くなることもあったが、僕(あるいは編集者、ライター全員)が悩んだのは、介護の魅力とは何か?そしてそれをどう誠実に伝えていくかという点だった。

郷司さんが経営している、荻窪の補聴器専門店「耳のそうだん室 JINO」。そこには、聴覚障がいで苦しむ方が多数来店される。

郷司さんは「聞こえなくても、その人が幸せに過ごしているのであれば、そのままで良いと私は考えています」と話してくれた。実際その通りで、聞こえないこと自体を「解決しなくちゃいけない課題だ」とするのは、やや性急なわけで。

ひと昔前に比べると、社会課題という言葉をよく耳にするようになった。これはポジティブな傾向だと思う。

しかし、「それって解決すべき課題なんだっけ?」と疑問を感じるような議論も、同様に増えてしまっていると感じる。必ずしも悪いことではない。ただ、取り組む側の人間が、社会課題の本質からズレた部分に躍起になっているとき、それは当事者たちの思いに寄り添っているとはいえない。

一方で、郷司さんの言葉から、郷司さんが関わっている一人ひとりのお客さんの顔を想起することができた。

郷司さんはマクロな視点、ミクロな視点、両方を持っている。

そんな思い、感慨を込めて、後編のタイトルに「ひとりひとりに寄り添った先に見据える社会のあるべき姿」という言葉を添えた。

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もうひとつ。記事公開に際して、嬉しいことがあった。

郷司さんがFacebookに記事をシェアしてくれたのだ。「堀さんのウェブサイトが目指していらっしゃる「ふつう」の価値に向き合い育てること、少しでもお役に立てていたら嬉しく思います」という言葉を添えて。

もちろん運営している僕が、会社として「ふつう」という価値を広めていくべく、「ふつうごと」というWebサイトを育てていくことが大前提だ。だけど、それはひとりの力だけで成し遂げることはできない。

読んでくれた方、取材させてもらった方、テキストを寄稿してくれた方、すべての関係者の皆さんの協力が欠かせない。

協力というと、「重い」と感じられてしまうけれど、何かにコミットしてほしいとかそういう話ではない。

例えば利賀村のランニング合宿の記事を書いてくれた木幡真人さん。「他の記事も読んでますよ」と、いつも感想と共に伝えてくれる。

それだけで、とても嬉しいのだ。

少なくとも彼には、記事の内容や意図が伝わっている。「僕がやっていることは間違っていない」と信じることができるのだ。

個人的な関わりを増やすためのWebサイトではないけれど、「ふつうごと」の運営を通じて、色々な人たちとの接点を持てる。しかも深く。

金銭的な勝算、見込みがあるわけではない。でも、運営を続けることで何かが変わる気がする。そんな予感と共に、今日も編集のことを考え続けていたい。

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Webサイト「ふつうごと」は、これからも、世の中の「ふつう」を伝えていきます。ぜひ定期的にチェックいただけばと思います。

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