ル・ボンの予言に、抗えそうにない。

われわれは、最上等のチョコレートはどこそこのチョコレートである、と百回も読んだときには、そういう噂を頻々と耳にしたような気がして、遂にはそれを固く信ずるようになるのだ。

(ギュスターヴ・ル・ボン(1993)『群集心理』講談社学術文庫、P161より引用)

ある断言が、十分に反復されて、その反復によって全体の意見が一致したときには、いわゆる意見の趨勢なるものが形づくられて、強力な感染作用が、そのあいだに働くのである。群衆の思想、感情、信念などは、細菌のそれにもひとしい激烈な感染力を具えている。この現象は、群をなすときの動物にさえ認められるのである。

(ギュスターヴ・ル・ボン(1993)『群集心理』講談社学術文庫、P162より引用)

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1895年に刊行された『群集心理』。

著者のル・ボンは、「断言と反復に対抗できるほど強力なものは、これまた断言と反復あるのみである」と書いた。

本日投開票が行なわれた兵庫県知事選。内部告発問題で不信任決議を受け出直し選挙に臨んだ斎藤さんが圧勝。それを群集心理に紐づけて、兵庫県民を「群衆」と見なしはしない。

ただ、斎藤さんを支持した人たちのどれだけ多くが、次点で敗れた稲村さんのキャリアや政策を見つめていただろうか。

3年前、100分de名著で取り上げられた本作のことを、私はたびたび思い出す。

番組で解説を務めた武田砂鉄さんは、「ル・ボンは、群衆は未熟な心理しかもたず、非合理な行動をとる存在であると述べています」と記している。

当時、確かにその傾向はあるかもしれないけれど、さすがに言い過ぎだろうと憤慨した。だが、アメリカ大統領選などの惨状を見るにつけ、ル・ボンの“予言”は当たっていると言わざるを得ないのではないか。

この社会で、私が「真っ当」だと思っている主張や意見は通用しないのだろうか。しばらく頭を悩ませる難題である。解けそうな気がしない。

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ほりそう / 堀 聡太
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