有機農業での、生産者と消費者の理想的な関わり方って?
相原 成行(あいはら しげゆき)さんに有機農業についてお話をお聞きするシリーズ第2回。第1回の記事はこちら。
有機農業への消費者の関わりとして、正解はあるのでしょうか?
相原 これだ、という答えはないと思います。生産者と消費者の関係は変化していくもの。有機農業の場合、生産者と消費者が野菜を通じてコミュニケーションをとることがとても重要です。双方が同じところにとどまっている関係性でなく、変化していく状態。これが、おたがいに成長しているということなのか、衰退している状態なのかはそのときによって違いがあります。
有機農業が出てきた1970年代は、消費者活動が盛んだった時代です。消費者グループという集まりで栽培した野菜をすべて引き取る、提携というスタイルが主流でした。「有機農業は生産者と消費者の提携である」ということです。この時代は生産者と消費者の目指すところがシンプルだった。それが消費者グループが生まれた理由かもしれません。
消費者グループというのは、一定の人数が集まって協同で購入をするというスタイルですか?
相原 そうです。有機農業が始まった理由は、生産者に農薬などの影響で体調を崩す人が出てきて、一方で消費者側でも子どもがアトピーになって安心・安全な食べ物を探すお母さんたち増えてきたという時代背景にあります。そこで、お母さんたちが有機野菜を協同で購入するためにグループを作った。
生産者の中には、このグループの中にメンバーとして参加し、より深いかかわりを持つ人も出てきました。私が子どもの頃はグループのメンバーの方が援農に来てくれていました。そういう関係性があって、有機農業が成り立っていた側面があるのです。
それと同じカタチを続けることが難しくなった
相原 消費者の生活のスタイルは変化します。消費者の生活も多種多様で共稼ぎの家庭が多くなっていますよね。お母さんも働きに出ていると昔の消費者グループのような活動時間をとることができません。畑で一緒に作業する時間がとれないのです。有機農業に関わるのなら畑にきてください、ということをお母さんたちに求められません。
昔のような関わりをしている人のほうがむしろ数は少なくなっています。しかし、私が子どもの頃からの顔なじみなのでいまも関係が続いているのはとても心強いし、有機農業をやってきたからこそだと思います。
いまの時代に沿ったカタチに変化していくことが必要だと
相原 最優先すべきことは、有機野菜が特別なものではないという環境を作ることです。有機野菜が消費者にとって、当たり前のものになる世の中。いまの消費者の生活の中に普通に存在する状態。例えば、有機野菜の直売もひとつの答えです。以前は直売はやっていませんでした。消費者グループとの関係性があったからです。
さきほどお話した消費者の生活スタイルの変化、また、生産者側でも新規就農者で有機農業をやる人が増えてきた。双方の事情をマッチするカタチとして、いまのような有機野菜の直売が生まれました。直売とはいえ毎回来てくれるリピーターの方が多いので、消費者グループとの関係性と同じかもしれませんね。
いまの時代にあった有機農業と消費者との関わりはどのようなものになりそうですか?
相原 まずは、消費者にとっての選択肢を増やしていくことです。いろいろなカタチで関われる「場所」「方法」を生産者と消費者が協力しながらみつけていくことが大事。時間がないから有機農業との関わりを持てない、ということでは決してありません。いまの時代にあった、いまのやり方を模索することが必要です。
いま、新しく関わったひとたちとの関係性を作り上げているところです。交流の仕方や情報交換の方法などをこれから作っていく必要があります。物資的なやりとりだけでなく、気持ちの部分での交流をいどうやって実現していくか。これまでも試行錯誤の連続で、やってきていますから(笑)。
試行錯誤の中で、なにか見えてきたものはありますか?
相原 核になる人がいるとその周囲に人が集まってくる、ということですね。核になる人との関係性。例えば、お店で料理教室をやっている方がいます。お店の料理で野菜を使ってくれています。料理で出すときに野菜の説明もしてくれるので、その会話の中から野菜を購入してくれるお客様も増えてきたのです。
そのお客様に野菜を届ける際、そのお店にまとめて持っていくと野菜を配ってくれます。そのときにお客様と料理人との間でコミュニケーションが生まれる。この野菜をどうやって使うか、どう食べるかということを料理人が答えてくれるのです。いままでならそれを生産者がすべてやっていたのです。そういう核になる人がいるとそこから広がりが生まれます。
お店にとってもその野菜を食べたいというお客様が増える効果もありますね
相原 生産者、店舗、お客様、みんなにとっていい関係性が生まれます。さらに、私たちの野菜を使った料理を提供する食事会も開催しました。野菜のことはもちろん、有機農業についての会話でもできるので、お客様とのコミュニケーションをとることができる。生産者と消費者との間に新しい要素が入ることで、さらに広がりが生まれる仕組みに手ごたえを感じています。
そこから野菜を購入してくれる人が増えていくわけですね
相原 そうです。隔週や月1回の購入スタイルが多いですね。毎週ではなくても、長く継続してくれることの方がお互いにとって大事なこと。毎月一回うちのセット野菜を購入してくれるだけでも、大きな支えになります。お客様も毎週は難しいけど、月に一回ならがんばれる方が多くいます。
他の有機農家さんの野菜を買ったり、スーパーで買ったりしながら、月一回購入するというスタイルでも選択肢が増えることによって、これがいいものだと思ってもらえる可能性もある。
消費者から見たときに、月に一回しか買えないから迷惑かなと思う必要はない?
相原 ひとつのところからだけ買うというのもある意味、理想ではあるが、いまの時代にはあわないのではないでしょうか。もちろん、うちの野菜を毎週購入してくれるお客様もいらっしゃいます。そういう方には感謝の気持ちでいっぱいです。
しかし、すべてのお客様にもそれを求めるのは違うと思っています。お客様の生活スタイルにあわせて、お客様が入りやすい場所を作り、そこから入っていただく。これがいまのやり方ですね。そこから始まる長い関わりの中で、おたがいに成長していく関係性を作っていきたい。無理をせずに、長く続けることができる関係性。それが理想的な関係なのかもしれませんね。