生きててよかった【ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ】
The Raid をはじめて観た時の衝撃は凄まじかったな。また新しい時代が始まるのかなって思った。そして同時に、日本のアクション映画はなぜあんなすごいものを取り入れないんだろうってずっと思ってた。アクションって、創意工夫。世界中のある所で新しいアイディアが生まれては、それをまたある所で取り入れつつ独自に発展し、それをまた...というループ。古今東西のアクション映画っていったら途方もないけど、2000年以降のアジアって限ってみても、例えばHERO(英雄)のドニー・イェンとジェット・リーの至高対決とか、アクション映画史上最も完成された作品(当社調べ)であるアジョシとか、衝撃度では文句なしに世界一のThe Raidとか、とんでもないものを生み出してきた...が、日本では世界に通用するアクション映画って、全く思い浮かばない。完全に国内のさらに内輪向け作品のみだったからな。直近、世界に影響を与え得るような日本のアクションってどこまで遡ったらいいかな...えーと、AKIRAとかドラゴンボール?
ということで、いやはやついに出ましたねぇ、世界に誇れる日本のアクション映画が(しみじみ)。いや本当に。
まずこのシリーズの特色のひとつは、主人公のちさまひをはじめ、登場人物の近さだと思います。いやでも殺し屋だしとか言うなかれ、「変わった」人間を、たとえ物理的にではなくとも、あらゆる手段で殺しまくっているのが現実社会、皆様方もそういう意味で人を殺した覚えのひとつやふたつ、または殺されないように日々息をひそめて生きている自覚のみっつやよっつはあるでしょうって世の中なのでね、不思議と出るキャラ出るキャラが何かどこかで見たような、妙に親近感がある人たちなのです。その意味で、今回最強の敵である池松壮亮演じるかえでさんや、チームを(嫌々)組むことになる前田敦子演じるイルカさんのキャラクターが、このシリーズの世界観にぴったりで絶妙でした。また、ちさまひとイルカさんの、異なるイデオロギー(生き方)の対立と和解共存という、昨今世界基準の筋を、あくまで軽く抑えているのもとてもよいです。
そんなキラキラとした現代社会に適合できず、殺し屋くらいしかできなかった社会的弱者たちの物語、結局は大枚をはたいて仕事を依頼してくる顧客にいちばん汚れた仕事をさせられて命を搾取されているという構造、それをまた軽妙に笑いを混ぜつつ描いているのは、最近観た中ではデヴィッド・フィンチャーのthe Killerを思い浮かべるところでもありましたね。
さらに、ちさまひものバディもついに今作でついに完成の域に達しましたね。ラストバトルに向かう際のやり取りからラストのセリフへの流れが奇をてらわずストレート、右拳に全体重をのせまっすぐ目標をぶちぬくように打つべし、な感じで熱いです。孤高のかえでさんとちさまひの命運をわけたものって何だったのか。この世にたった一人でも自分を信じてくれる人がいれば生きていける、という死霊館のエドとロレイン夫妻を思い浮かべました。
と、そんなこんなで青春バディものの王道ストーリーの良さもさることながら、やはりそこはアクション映画なので、アクションって創意工夫(本日2度目)。もうワールドクラスの作品なので、細かいアイディア満載の目まぐるしいアクションで観るものを飽きさせないってのは当然のことながら、私が好きなのは、随所に1秒に満たないくらいのキメのカットを入れてくるところなのです。黄龍の村もそうでした。アクションを流さずに止めるんですね、鳥山明みたいなコマで。それで妙にかっこいい場面が印象に残る。映画のようにアクションを描いた鳥山明のように、漫画のようにアクションを撮った阪元裕吾って言うと最高の賛辞じゃないですかね。
ということで、今作はほんとうに久しぶりな、日本発ワールドクラスのアクション映画だと思います。和製アクション映画の最高到達点だと言ってしまいましょう。ぜひとも劇場で観るべき一本だと思います。
…ただ、映画史上に残るさわやかなラストの後のエンディングテーマ、女王蜂だかなんだかの裏声が非常に気味悪かったのだけが唯一の汚点で残念だったと思います(余計な一言)。
↓こちらも、おびんたわら様などなど最高なのでぜひ。
※カルマ演じる広川は、妙にハアハアしちゃって、「なんだこいつだけ変な日本映画みたいな演技して気色悪い」…って思った瞬間の、まさになセリフがツボりました。黄龍の村の「老害は死ね」みたいな尖りも好きです。