【命を濃くして立ち向かおう】サユリ
金曜の夜、最終上映回で鑑賞。上映前の幕間映像が流れる時間帯に猛烈な違和感。なぜか白石晃士のはずなのに観客が多い。しかも若いカップルとかが多いときた。おかしい、これはおかしい。これはキングダムかなにかのシアターと間違えたに違いない。本編始まって違う映画だったらすぐ出なきゃ。いやでも両隣が埋まっている、白石晃士なのに。さてどっち側から出ようか...などと考えていると本編が始まる。なんかすごいのが出てきた...あ、「サユリ」ってタイトル!やっぱりシアターここであってたんだ...ほっ。
白石晃士監督で原作は漫画らしい、くらいの前情報しかない状態で映画館に行ったせいか、そんなこんなで始まる前から緊張感まんまんだった今作ですが、前半は「Jホラー」とか呼ばれる微妙な内輪受けホラーとは全くテイストが異なる王道ホラーでびっくり。ちゃんとがっつり怖い。しかしコワすぎではない。白石晃士なのに。とか茶化しつつも、いま日本が誇るダブル白石の一角だけにさすが作り方が丁寧ですね。変な間取りの田舎の一軒家ってその時点で不気味だけど、その間取りの死角をまたうまく使うこと。そしてさらに食卓の使い方もとても印象的でした。その時点の登場人物の精神状態を食卓で表す。良い作品って食卓をうまく使いますね。
とにかく前半はちゃんと怖い。ほっとできるのは今年世界一地味であろう、しかしとてもいい味を醸し出しているヒロインと主人公が屋上でおそるおそる話すシーンくらい。いや白石監督、今回は終始ガチなホラーなのか…と思い始めたあたりで噂のばあちゃん覚醒ですよ。その後の展開は、汗と笑いと涙がまんまん、ガチホラーからまさかの人間讃歌。丁寧な積み重ねがある故に起こる、笑いや涙。そしてまた、音楽もとてもよかった。後半多用される、否応なく感情を高揚させる、エッジの効いたロック。だからこそラストバトルでかかった曲がまた映えてくる 笑。
個人的に、邦画では他を寄せ付けない今年いちばんのクオリティだし(期待のベイビーわるきゅーれが近日公開なので暫定1位)、ホラーとしては、現代ホラーの頂点ヘレディタリーや死霊館、イットフォローズなどを思い起こさせるほどのクオリティなので、海外でも通用すると思います(しかしあの呪文が各国でどう訳されるかは気になるところ)。
↓こんな劇中音楽。
日本経済の失われた30年とほぼ同じ時期に、怖くないホラー、面白くないお笑い、そして踊れない音楽という化け物が跋扈するようになってしまったカルチャー全般に対するアンチテーゼなんだと思いました。そしてそれって、先日観た「密輸1970」でも感じたんですね。水中海女バトルという新しいことを入れつつ、あくまでもバディものの王道を行く力強いストーリーに、これまた力のある音楽に乗せる。この夏に観た二本から、そろそろカルチャーに生命力を取り戻そうぜっていうメッセージを、確かに、そして勝手に受け取りました。
白石好きにはうれしい金属バットや市川先生、そして最後の最後には白石晃士と言えば、なアレも出ますのでお楽しみに。