見出し画像

くせつよ

(6章)

〈1〉

30代の元同僚と
話していたとき

職場にいる
一部の年上男性
「働かないおじさん」
に対し、
年上女性は何が困るか
聞いてみた。

すると
出てきたワードが

「くせつよ」

〈2〉

それ聞いて

退職してよかった
とつくづく思った。

あやうく

「働かないおばさん」

「くせつよおばさん」

まっしぐらであった。

むしろ
すでに
だったか。

〈3〉

「くせつよおばさん」
と聞いて
ひとり思い出す人がいる。

人生最初の上司。

エンジのクラウンが似合い
車内に流れる
イーグルスの低音。

曲調も
車速も
ゆっくり。

"くせつよ上司"
を思い出そうとすると
その
ゆっくりさが
思い出される。

〈4〉

私より年上の娘たちは
お母さんが大好きで
おそらく
誇りだった。

世間の価値観や社会通念など関係なく
自分を貫いていた。

敵も多かった。

古くからの取引先の方が
「二癖も三癖もある人だ」と
入りたての私に教えてくれるが、
おそらくもっとあるのを
遠慮がちに言ったのだろう。

〈5〉

学校を出たばかりで
右も左も斜めもわからぬ
何もない私の中に
何かを見つけてくれた
くせつよ上司。

少しのことでは動じない
天地がひっくりかえっても
足を組んで珈琲をすするような
くせつよ上司が

私を
世紀の大発見くらい
無邪気に
手放しで
歓迎してくれた。

〈6〉

その

一風変わった
どころか
千風変わった

最強
最恐
くせつよ元上司に

私はまだ

本を出したことさえ
伝えていない。

(近況はコメント欄にあります)

いいなと思ったら応援しよう!