トランプの勝利の裏には、ダークソーシャルがあった!?
2024年のアメリカ大統領選挙で、予想外の結果が生まれた。
世論調査ではハリスとトランプが拮抗しているとされていたが、実際にはトランプが圧倒的な勝利を収めた。この大差を生んだ原因として、「ダークソーシャル」と「オープンソーシャル」という、現代のネットワーク構造が関わっていたのではないかと考えられる。
そもそも「ダークソーシャル(Dark Social)」とは、LINEやメッセンジャー、WhatsApp、Eメールなどの非公開でプライベートなメッセージングツールを指す。一般的なSNSとは異なり、ここではメッセージが一対一、または限られたグループでのやり取りとなり、他人の目を気にせず本音が語られる場である。
一方、「オープンソーシャル(Open Social)」と呼ばれるのは、Facebook、インスタグラム、X(旧Twitter)などの公開された場であり、誰もが閲覧でき、広く情報を発信できるネットワークを指す。オープンソーシャルは、公開性の高さゆえに、投稿内容が周囲の目を気にした「表向き」になりがちだ。これに対してダークソーシャルは、信頼関係の深い人々同士でのやり取りが主流であり、そこで交わされる意見はリアルで、時に鋭い本音が語られる。
近年のデータによると、SNS上で共有される情報の80%以上がダークソーシャルに偏っているという。つまり、SNSの大半はオープンソーシャル上で目に見えるものではなく、非公開の場でシェアされる情報が圧倒的多数を占めているのだ。この背景には、プライバシーや社会的な立場を気にして、本音を公開の場で語ることが難しい現代の事情がある。人々がXやインスタグラムに投稿する内容は、あくまで他者からの印象を意識したものであり、本音が語られる場としては不十分なのである。
今回の選挙において、トランプの勝利にはこのダークソーシャルの力が大きく影響していたのではないかと考えられる。
ハリス陣営がオープンソーシャル上でセレブリティを起用し、SNSでの華やかなキャンペーンを展開していた一方、トランプは労働者階級や一般市民と直接接触し、ダークソーシャルでの拡散を重視していたのではないだろうか。WhatsAppやメッセンジャーで交わされる会話は調査結果には上がってこないが、実際には彼らの不安や悩み、そしてトランプへの支持が語られていたのだろう。こうしたダークソーシャルでのシェアや支持が「表」には現れず、世論調査ではハリスとトランプの支持が拮抗していると見えたが、実際の投票結果には大きな差が出たのはそのためなのかもしれない。
このダークソーシャルの影響力は、ビジネスにおいても無視できない。
多くの企業は、公式のSNSや調査で顧客や従業員の意見を知ろうとするが、それだけでは表面的な情報しか得られないのが実情だ。企業がオープンソーシャル上で高評価を得ていても、実際には顧客がダークソーシャルで本音の不満や改善要求を語っていることも少なくない。たとえば、商品やサービスについて「満足している」と表では答える顧客が、実は友人同士のLINEでは「こういう点がもっと良くなるといい」と率直な意見を交換しているケースは珍しくない。
トランプの勝利は、表と裏、オープンソーシャルとダークソーシャルの影響力の違いを象徴していると感じる。オープンソーシャル上で見える「表の情報」だけがすべてではなく、見えない「裏」のネットワーク、ダークソーシャルにこそ人々の本音がある。そして、この本音こそが社会や組織の中で大きな影響力を持つのである。
選挙は終わったが、トランプの勝利が投げかけた問いは大きい。表と裏、見えるものと見えないもの。この二つのネットワークをどのように捉え、そこに流れる本音をどうやって理解するかが、私たちにとっても重要なテーマである。