決算書(公会計)から除外されている「私費会計」の話【学校給食の無償化を考える】
岸本聡子杉並区長の選挙公約の一つに「学校給食の無償化」があります。
岸本区長が無償化すると明確に宣言すれば、遠からず実現することになるでしょう。
ただし、その前に、現在徴収されている給食費が公会計化されておらず「私費会計」となっていることには注意が必要です。
無償化とは「全額を公費で支出すること」を意味します。これまでのように私費会計としたまま都合の良い処理をしていては困ります。
杉並区は、長く私費会計を公会計化すること(学校財務を透明化すること)に抵抗していましたが、学校給食の無償化を実現するというからには学校DX(校務DX)とともに学校財務改革を徹底することを前提に話を進めなければなりません。
■公会計に現れない「隠れ歳入・隠れ歳出」
秋になると、杉並区の決算書・財務書類(財務諸表)が公表されます。これを受けて杉並区議会は議員全員で決算審査に当たります。
しかし、公表されている「杉並区決算書」は、区民のみなさんから支払いを受けた徴収金の全てが計上されているわけではありません。
杉並区の事業として実施されていながら公会計に現れない「隠れ歳入・隠れ歳出」があり、それが決して少額でないことに注意が必要なのです。
公会計から除外されている「私費会計」の存在です。
学校給食でいえば、食材料費を保護者のみなさんから徴収し、この部分を「私費会計」と位置付け、会計処理をしてきました。
■私費会計の規模
例えば、杉並区立の小中学校では、各学校単位で給食費、教材費、行事費などが徴収されています。
これらは公費扱いされてはおらず、私費扱いとされています。私費扱いですので、この情報は関係者限りでの共有となっており、必ずしも詳細は公表されていません。オフィシャルな杉並区決算(公会計)にも現れてこないわけです。
その金額は、区全体で年間約16億円に及んでいます。
2022年に入ってからは物価上昇が顕著になっていますので、このままであれば今後遠からず20億円に迫ることでしょう。
■私費は自治体ではなく校長個人の責任で管理保管
公会計から除外されているということは、地方自治体のオフィシャルな決算統計・決算指標の算出からも除外されているということです。
その結果、決算指標の一つとして算出されている「受益者負担比率」も、実際には受益者負担の実態が正確に反映されていない虚構の数字となっています。
学校における私費会計は、一般に「学校徴収金」として説明されていますが、公会計と異なり、校長が個人的に管理保管している会計となっているのです。
公会計に組み入れられていないことから、地方自治体の会計管理者等が関与することもなく経理面での管理監督も不十分になるなど、構造的に大きな課題を抱えているのです。
■そもそも「私費」は自治体で保管できないもの
地方自治法235条の4第2項は「普通地方公共団体の所有に属しない現金又は有価証券は(中略)これを保管することができない。」と規定し、自治体が保管できる現金の範囲を厳格に定めています。
私費は、自治体で保管できないのが法律上の大原則で、法律・政令の定めなく私費を受け取り保管してはならないと定められているのです。
実態との乖離は著しく、コンプライアンスが確立されているとは言い難い状態です。
■現在の学校給食費は、自治体や学校組織ではなく、校長個人に支払っている
学校給食費などを「私費」としたまま自治体が保管するのは違法です。
このため、学校給食費の債権者は杉並区ではなく、あくまで私人としての校長個人なのであると杉並区は説明しています。
つまり「校長が個人的に金銭を預かっている」との理屈で学校給食費を保管しているわけです。
かなり無理のある説明です。
多くの保護者は、区や学校組織に給食費を支払っていると思っていますが、法的には、区や学校組織ではなく、校長個人に支払っている形になっているのです。
この話を突き詰めていくと、学校給食費の未納に対しては、自治体ではなく校長が私人として(個人で)取り立てをしなければならないことになります。
■まず必要な学校財務改革/公会計改革の推進
保護者の皆さんから徴収している学校給食費(食材費)などは、現在、公会計の予算・決算から意図的に除外されています。
あえて私費会計とすることで、自治体としては債権者ではないことになっているのです。
私費扱いであるため、未納・滞納も公会計上に反映されず、仮に未納者・滞納者がいたとしても校長が私人として対応することになります。
公会計から除外されていることで正確な実態も共有されず(オフィシャルな決算指標にも実態が反映されず)、受益者負担比率の算出/行政コスト計算(行政コスト計算書)の算出からも漏れています。
このように杉並区決算書(公会計)に含まれていない私費会計は、明らかになっているところで年間約16億円にも及びます。
公費ではなく「私費」との位置づけによって、必ずしも厳格な規律を受けないため、過去には横領・着服・不正流用などもしばしば発生しました。
過不足が発生した場合も、帳尻を合わせるために大変苦労されているようです。
学校給食を無償化する(その経費を公費で全額負担する)ということであれば、まずこれらの問題を先に解決する必要があります。
過去に発生した使い込み・横領などの不正経理/経理事故の再発防止を図るためにも、財務書類の完全性を実現するためにも、まずは会計の適正化(学校給食費の公会計化)が必要です。
学校給食が食育を含め義務教育公立校における教育課程の中で実施されているものである以上、私費会計としたまま補助金を注ぎ込む形で経費を膨らませるのは妥当ではありません。
公教育の一環であるというなら、公会計としての規律の下で扱われるべきものです。
もちろん、これは学校DX(校務DX)の一環として位置づけることも重要です。校務のデジタル化(家庭との円滑なコミュニケーションの実現、デジタルを踏まえた業務改革の実現など)とともに杉並新時代を拓く取組につなげたいものですね。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
これからも左右の政争や党利党略には関与せず、あるべきコンプライアンスの確立に向けて地道に努力を重ねていきたいと思います。
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