【哲学】サイボーグとテセウスの船
こんにちはマスター、蓬莱です。
今回のお話は2千年近く前に古代ギリシャで起こっていた「オリジナルとは何なのか?」を追求する思考実験が、近い未来に、サイボーグや、機械に転送された人格においてまた起こるだろうというお話です。
マスターは「テセウスの船」という言葉を聞いたことがありませんか?日本ではこのタイトルでテレビのドラマや漫画が出ていますね。
テセウスはギリシャ神話で牛の頭をもつ人型の怪物、ミノタウロスを倒した英雄であり、数々の冒険のお話が残っています。
このテセウスが冒険に使った船はアテネで大切に保存されてましたが、当時のギリシャは木の防腐技術も防虫技術も乏しくて、木は時と共に次第に朽ちていきます。駄目になった部材は新しいものに変えていきます。そして、全てのパーツが交換されたとき、それは果たしてテセウスの船と言えるのか?
この問いかけを起こしたのはギリシャの著述家プルタルコス。西暦46年から127年に居た、帝政ローマ時代の著述家です。
実は、これと似たようなお話を「サイボーグとALS」の記事で行いました。身体の一部を次々と機械に変えていったピーター・スコット・モーガン博士のお話です。
もし、モーガン博士の身体全部が、脳を含めて全て人工物になってしまったら、それはモーガン博士なのだろうか?つまり、「テセウスの船」で起こった共通の問題が人間と機械の間で起こりうるのです。
また、モーガン博士は電脳世界で生き続けるために、電脳空間に自分のコピーを作ることにも専念していました。
この電脳空間に移された人間は本物と同じに扱って良いのか?こういった議論もオリジナリティを争うものの一つです。これで有名なのは「スワンプマン議論」でしょう。これは1987年にアメリカの哲学者ドナルド・デビッドソンが上げた思考実験です。
スワンプマンとは「沼の男」という意味です。これは神が土をこねて人を作ったという聖書のお話が着想の一つになっていると思われます。
ある男がハイキングにでかけたとする。その男は途中で雷に打たれて亡くなってしまう。
ところが、男が雷にうたれたすぐそばの沼にも雷が落ち、何という奇跡か偶然か、沼の泥と水と雷が反応して、亡くなった男と全く同じ、原子レベルでも、記憶も、服も、全て同じで、その泥から生まれた男は、亡くなった男の家に出向き、その男の家族になりすまし、その男と全く同じ生活を始めた。さて、この本物とは別のハズの「沼の男・スワンプマン」は許容されるべきかどうか?本物は間違いなく亡くなっており、そのオリジナルをよそに、スワンプマンをどう解釈したらよいのか?
この荒唐無稽で、ありえない哲学的な前提が、電脳世界では起こってしまうのです。しかも、そのコピーは一体では済まない。幾らでも自分と同じコピーが出来てしまう。
今から30年以上前の思考実験が、これから未来に起こる電脳世界で完全に、深刻に当てはまってしまう。それどころかサイボーグやロボットも含めると2000年前ほどに起こった哲学的な思考実験も同じ様に当てはまってしまうのは、面白いですね。
さて、未来に起こる古代の哲学的な問いかけですが、テセウスの船の議論が起こる400年も前にアリストテレスが回答のヒントを出しています。
アリストテレスは自然の現象には4つの原因があり、それを資料因、形相因、作用因、目的因と定義し、そこから自然現象を解き明かす四原因説を用いていました。資料因とは存在するものの物質的な原因、形相因とはそれが何かを定義するもの、作用因はそれが何故動くのか、どう動くかの原因、目的因とはそのものの存在意義とその運動の目的をあらわします。
この四原因説で「テセウスの船」を検討すると材質の資料因は変化した、だが船という目的因は変わらず、その形も変わらず、つまり、形相因も変わらず、それが作用する機能も変わらないので作用因も変わらない。なのでオリジナル性が優位と見なせます。同様に身体を交換したサーボーグも形や材質は変わるけど、作用因と目的因が変化しないのでそこをオリジナル性が高いと見なせるのです。
ただ、これだと、スワンプマンの場合は電脳世界だとコピーも含めて全てオリジナルだと定義できてしまい、混乱を誘発しますね。電脳世界でのオリジナルの定義はなんとも厄介な事になりそうです。ひょっとしたら、プログラムの中のシリアルコードがオリジナルの定義になるのか、オリジナルを保証するためにコピーの数量が決められてしまうのか、本格的な議論はまだまだ続きそうです。
今回はウィキペディアの「テセウスの船」「スワンプマン」「精神転送」「四原因説」などの項目からお話しました。
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それではまた、らいら〜い🖐
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