マーマレードとのたわむれ

マーマレードを、克服した。

子どものころ、リンゴジャムやいちごジャムは好きだったのだが、マーマレードだけはどうしても好きになれなかった。

そもそも、ジャムに皮を入れるなんて正気の沙汰とは思えない。泥酔したジャム職人が「ジャムに苦い皮入れたら意外と合うんじゃね?wwwwwww俺天才wwwwwwwwドプフォwwwwwww」みたいなノリで入れたに違いない。

ジャム部分は甘いのに、皮が苦いからちぐはぐなのだ。絶妙に合わない。

先日、贈り物としてマーマレードを瓶でいただいた。

丁寧な包装をはがして「それ」を認識したあとの、行き場のない落胆と、悲しみと、渇いた笑い。もらっておいて傲慢きわまりない。

苦手なものをひと瓶消費し切るというのは、軽い拷問に近い。だいぶ、しんどい。

暗澹たる気持ちになりながら、そっと冷蔵庫の隅に置いておいた。

このマーマレードは永遠に冷蔵庫の肥やしになる運命である。そう思えた。

だが、マーマレードも冷蔵庫の肥やしになるために生まれてきたわけではない。このままずっと冷蔵庫におり、賞味期限切れなど迎えようものなら、うかばれないというものだ。

そこで、いっそのこと一気に消費してしまおうと思い立った。それがマーマレードにできる一番のたむけである。

スーパーで6枚切りの食パンを購入。翌日から、毎朝トーストを通してマーマレードと対話する日々が始まった。

初日は、やはりあの独特な甘苦さが舌に絡みついて、ウエッとなった。まずい。素直にそうおもった。

次の日、若干慣れてきたが、やっぱりまずいものはまずい。だが、ここでやめたらマーマレードに申しわけが立たない。おれは貫き通す男である。

3日目。なんとはやくもマーマレードが無くなりそうなことに気づく。いや、トースト一枚に塗りすぎなのだ。あきらかに過剰に塗りたくっている。

わかっている。それでも、なるべく効率よくマーマレードを消費するには、これが一番てっとりばやいのだ。

流石に3日目ともなると親しみが湧いてくる。だが、しかし、それゆえに、まずい。かける言葉もない。

最終日。長いようであっという間だったマーマレードとの日々もこれでおわりである。

最後のトーストを焼く。マーガリンを塗る。瓶からありったけのマーマレードを取り出して、塗る。側面にこびりついてるやつも、きれいにとって、塗る。

食べてみる。違和感に気づく。あの特有の不快感がない。まずくない。ふつうに食える。なんだ。なにが起きた。わからない。

まったく理解できないまま、トーストを食べ終え、ひとりおもう。マーマレードとの日々…わるく…なかったぜ


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