旅のついでに図書館へ(改訂版)
*数年前公開したものの改訂版です
近年CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)運営の通称「TSUTAYA図書館」をはじめとした公共図書館が巷で話題です。「図書館」というワードでググってみたら、旅行系キュレーションサイトをはじめとしたたくさんの図書館おすすめページが検索結果に出てきます。また、図書館ガイド本も多数出版されています。
こんなふうに(ある意味カジュアルに)公共図書館に注目が集まった時代はかつてなかったのではないでしょうか。図書館には「本を借りる」以外のいろんな利用の仕方や価値があって、これまでとは違う楽しみ方に注目が集まりはじめているんですね。
とは言え、公共図書館というとやっぱり「地元の人向け」の施設というイメージが強いし、行ったところで本を読む以外の楽しみ方もよくわからないという方は多いのではないでしょうか。というわけで、普段僕が個人的にやっている図書館の楽しみ方をここでご紹介します。それは、
旅先で図書館に行ってみる
です。と言っても、図書館訪問を目的とした旅にしようということではなく、あくまで「旅のついでに図書館へ」という、ゆるい感じが理想です。旅に行ったら、そこにたまたま図書館があった。寄ってみようかな。そんなんでいいんです。
僕は今、青森県津軽地方で発行されているローカル新聞「陸奥新報」に「図書館ウォーカー」という週一連載エッセイを持っています(ツイッターアカウントもいちおうあります↓)。元図書館員の経験も踏まえてはいますが、ほぼ図書館をダシにした旅エッセイで、真面目な図書館紹介とは真逆のコンセプトです。
全体を通して「旅のついでに図書館へ」のてきとう精神でつらぬかれており、そのような切り口で図書館を紹介するものがあってもいいんじゃないかと思ってはじめた連載です。連載開始前に100館以上訪問の蓄積があったのでコロナ禍に突入しても何とか書き続けられているのですが、ただ単に楽しくて旅先の図書館を訪ね続けていたのが巡り巡って仕事につながった形ですね。
そんな自分の経験を交えつつ、旅先で図書館に行くことのメリットや、その楽しみ方をご紹介したいと思います。
1.建物を楽しむ
たぶん自分の街にある図書館がどんなところかで図書館全体に対するイメージの持ち方は違ってくるのでしょう。でも最近はすごくキレイでオシャレだったり、隈研吾や伊東豊雄など有名な建築家に依頼して設計してもらった図書館も増えています。単純に外観だけでもチラ見して「おお」と思う館もあるんですよ。
↑守山市立図書館(滋賀県、隈研吾設計)
↑富山市立図書館本館がある複合施設TOYAMAキラリ(富山県)
また近年に新築された図書館は利用者がストレスなく滞在できるようさまざまな工夫を凝らしているので、インテリアや照明、トイレなどの細かい部分に注目してみても面白いです。その意味では、図書館関係者にはあまり評判が良くないTSUTAYA図書館もなかなか見どころがあると思いますよ。図書館サービスの内実はさておき、CCCは来館者が増える図書館デザインのある種のひな型を作ったのは確かです。
あと、有名な建築家による作品でなくても面白い建物の図書館もけっこうあります。旅のついでに立ち寄ってみて、そんなところだけでも楽しめればそれでOKじゃないでしょうか。
↑大船渡市立図書館があるリアスホールの内部(岩手県)
2.知らない街をぶらぶらする
地方に行けば行くほど「あるある」なのですが、電車やバスの接続が悪くて小一時間待つ羽目になる。そういう時は駅にある「周辺地図」や地図アプリを見て最寄りの図書館をチェックしてみよう! 徒歩10分圏内にあれば、ちょうどいい時間つぶしになりますよ。
地図を頼りにゆっくりと街を歩けば、いろんな造りの家が建っていて、小さな公園があったり、小川が流れていたり、そこに住む人たちの日常が見えてきます。あなたが自分の街で通勤する時間に、遠く離れたこの街でも、人がここを通って駅に向かっていく。そうした想像が、ほんのひとときの豊かな時間を味わわせてくれます。
また、雪が多いとか風が強いとか、山間にあるとか海辺にあるとかの自然環境の違いで街の設計も変わってきます。つまり「土地柄」があります。建物の感じとか、どんなお店があるかとかも観察しながら歩くと面白いと思います。僕は「ここで生まれ育った思春期の子たちは、この街でどんな青春を送っているんだろう」とか考えながら図書館までの道のりを進みます。
あくまで目的は街歩きのほうで、辿り着いた図書館がそれほど面白くなくてもいいんです。ただ、あてもなくぶらぶらするより「じゃあ図書館に行ってみるか」というふうに一つ目印があるほうが散策がきゅっと引き締まって短時間でより楽しめるというのが僕の実感です。
↑神戸市立東灘図書館に向かう途中に撮影
↑陸前高田市立図書館のすぐ横にある公園「まちなか広場」
3.ただ単に休憩するのもいいんじゃない?
最近は図書館が駅前だったり、駅から歩いて5分くらいのところにあったりというパターンも多くなってきました。ちょっとした分室のようなものが駅前にある場合もあります。
さて、旅がどんなに楽しいと言っても、知らない土地を歩く緊張感と疲れはやっぱりあるでしょう。ちょっと休憩したいな。時々そう思っても、良さげなカフェとかを探したりするのも面倒だし、それはそれで疲れそう。
そういう時は、目についた最寄りの図書館に行ってみればいいんじゃないでしょうか。使用後返金方式のロッカーがあるところも多いです。とりあえずそこに荷物を預ければ、ほんの少しの時間でも重い荷物から解放され、少し楽になります。
あと、特におしゃべりを禁止していない館でも、基本的に本を読んだり調べものをしたりという空間ですからそれなりに静かです。静かな環境は、人の疲労を和らげてくれます。
また最近はカフェが併設されていたり、複合文化施設の場合は同じビルの中に飲食店があったりもしますから、図書館をのぞきついでにそちらでお茶したりケーキを食べたりすることもできるでしょう。
↑岩手県立図書館もある複合施設「いわて県民情報交流センターアイーナ」
寝転んだり居眠りしたりはNGですが、ほんの少しの時間落ち着いた空間で座って休憩や読書をさせてもらうのは全然ありです。実際僕もそうやって旅先の図書館で一休みしたことが何度もあります。
4.図書館は観光の拠点?
これは一部の館に限られるのですが、図書館自体が観光情報のハブとして機能している場合があります。
もともと公共図書館は地域の資料の収集・保存に努めています。る○ぶみたいな旅行ガイドだけでなく、地元ネタの本がたくさん置いてあります。そして貸出はできなくても、観光客でも誰でも手に取って読むことができます。ご当地ネタのイベントを開催したり、地元の職人や産業を紹介する展示企画をやっていることもあります。そうした情報から、旅の次の行き先を決めるというのも面白いかもしれませんね。
また、これまでなら観光案内所だけに置いていたようなパンフとかを積極的に配布している館もあります。図書館自体がその土地のオススメ観光スポットになっていたり、観光名所に併設されている場合もあるでしょう。
↑久慈市立図書館もある久慈駅前のYOMUNOSU。1階には観光案内所やカフェが。2020年7月にできたばかり!
5.旅に出る前にチェックしておくこと
さて、いくら「旅のついで」とは言え、リアルタイムで偶然の出会いに期待していたらそれなりに疲れます。その場でいろいろ調べたりしないといけないですし、時間も押してきちゃいますよね。バタバタするのは避けたいところです。
出発前にいくつかチェックしておくと便利ですよ。
①旅先の街に図書館があるかどうか
②行く日が休館日なのかどうか
③開館・閉館時間はいつなのか
④利用する駅から徒歩で何分くらいかかるのか、または徒歩では無理なのか
まあ当たり前のことばかりなんですが、いちおうこの辺のデータを頭に入れつつ、旅先のプランを作っておきます。ただ「図書館に行くための旅」ではないので、実際に現地に行った時に図書館を訪ねるかどうかはあくまで選択肢の一つという感じです。
図書館の休館日のマジョリティは圧倒的に月曜日なんですが、火曜の館も意外と多いです。また閉館時間の設定はかなりバラバラで、大きな規模の館なのにけっこう早く閉まっちゃうというパターンも。月や年に一度の館内整理日に運悪く当たることもあります。その辺だけでも前もって調べておけば、あとは成り行き任せの図書館ウォークを楽しめると思います。
という感じでした。個人的に、街の図書館はその館の内部だけでなく、最寄り駅からの道のりや街並み、現地住民の人たちやその人たちが醸し出す空気なんかもすべてひっくるめて図書館の一部だと思っています。そういう視点から図書館を捉えてみれば「本を読む」「本を借りる」にとどまらず、旅行者でもローカル図書館を楽しめるのではないでしょうか。
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