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図書館ウォーカー取材備忘録「ホテル併設の図書館」

全国のあちこちに「泊まれる図書館」と銘打ってライブラリーホテルみたいな感じの宿泊施設ができました。

と言っても図書館に泊まれる、わけではなく、部屋に持って帰って読める本が施設内にまるで図書館のようにたくさん置いてある、という感じのもの。

以前から本好き、図書館好きの間で「ここに泊まれたらいいのに」という声が大きかったのを、本当に実現してしまったというわけですね。ニーズを的確に現実化するこういう試み、とてもいいと思います。

一方でそうした施設の増加はある「問い」を突き付けているようにも思うのです。それは、

「自由に読める本がたくさん集まっていたら即、図書館なのか?」

ということです。元図書館員からすると「図書館は本がたくさんあるところって、なんか違うよな」と感じるんですよね。

図書館という施設の成立要素として、資料はもちろんのこと、「図書館員」の存在が欠かせないんですね。レファレンス(調べもの)に代表される人的サービスも図書館の大きな「売り」なのです。逆に言うと、本がたくさんあってただ貸すだけの施設は図書館ではありません。

という視点から見ると、ただ本を集めているだけなのに「ライブラリー」とか「図書館」とか名乗るパターンがすごく多いんです。近年規制緩和などなどで図書館員という仕事における専門性が問われていますが、非正規化が進んだから問われるようになったのではなく、もともとそれほど理解されていなかったのだと思います。

医師や弁護士の専門性は自明のものなので、一見似たような機能を持つ施設があってもそうかんたんに「医院」や「法律事務所」は名乗れないですよね。怒られちゃう。でも「図書館」「ライブラリー」は乱発される。そういうバックグラウンドがあるんですね。

ライブラリーホテルのような施設を通して図書館がより身近になること自体はいいことだと思うのですが、一方で「ああ、図書館ってずっと誤解されてるよな」とも感じるのでした。

しかし「図書館に泊まりたい」というニーズ自体はあるのも確か。今のところ「宿泊もできる」を謳った先進的な図書館はまだないものの、似たような体験ができる館はいくつかあります。それは、

ホテル併設の図書館です。

館内と直接通じているわけではありませんが、少なくとも同じ建物内にある。チェックインしてから部屋に荷物を置いて、のんびりと図書館で読書を楽しむなんて体験ができます。僕が知っている範囲では、現在4館が判明しています。今回はそちらをご紹介しましょう。

むかわ町まなびランド図書室(北海道) *未訪問
道の駅、日帰り温泉施設、スポーツプラザ、ホテルなどが併設された「むかわ温泉 四季の館」内。なんとここはホテルの宿泊者に本の貸出も行っており、チェックアウト時に返却できるそう。上で書いた「泊まれる図書館」に限りなく近いサービスが受けられるのですね。

アクセス
JR日高本線「鵡川」駅から徒歩10分ほど。
http://www.town.mukawa.lg.jp/1896.htm

八戸市図書情報センター(青森県)
JR東日本ホテルメッツ八戸と同じ建物の1階。ただし直接にはつながっておらず一度東口ロータリー側に出る必要があります。ここは八戸駅ともドッキングしていますから、鉄道駅・ホテル・図書館が同じ場所にある全国でも珍しい例になると思います。
(表紙写真も同センター外観)

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アクセス
JR八戸線・東北新幹線・青い森鉄道「八戸」駅東口から徒歩0分。
http://www.lib.hachinohe.aomori.jp/guide/jyouhoucenter

上越市立直江津図書館(新潟県)
JRに三セク鉄道路線が入り乱れる鉄道の要所、直江津駅近くのホテルセンチュリーイカヤ新館と同じ建物内。4階以上がホテルで1~3階が直江津学びの交流館となっており、そのうち2、3階が図書館です。3階奥にある鉄道図書コーナーはかなり旅気分を盛り上げてくれるので、泊まったら読みに行きましょう。

3直江津 (4)

アクセス
JR信越本線・えちごトキめき鉄道・北越急行「直江津」駅から徒歩3分。
https://www.lib.joetsu.niigata.jp/?page_id=236

七尾市立図書館(石川県)
七尾駅前の2つの複合施設のうちの一つ「ミナ.クル」内3階。4~6階はホテルアリヴィオ。だいぶ前に行ったのでほとんど記憶も撮った写真もないのですが、七尾駅前は大きな複合施設が並んで建っていてすごく都会的なイメージがありました。しかし隣の「パトリア」は一度閉館し、現在再開に向けて調整中らしいです。ホテルアリヴィオは朝食がおいしいらしいので一度泊まってみたいですね。

28七尾 (2)

アクセス
JR七尾線「七尾」駅から徒歩3分。
http://lib.city.nanao.lg.jp/04_shisetsu/01_chuo.html


こんなところです。図書館の役割には資料の貸出以外に収集・分類、そして「保存」がありまして、仮に泊まれる図書館を作ったとしても保存の観点から宿泊者への貸出は管理がさらに難しくなるという問題があります。

また宿泊施設の運営者は民間企業でしょうから、自治体側とどう協力していくのかとかもありますね。でも逆に言うと宿泊できる図書館がもし実現すれば、それは官民協力の好例にもなるわけで、いつかどこかで本格的なものがスタートして欲しいとも思います。

ここで挙げた4館はあくまで個人的調査の範囲内なので、僕がまだ知らない「ホテル併設の図書館」があるのかもしれません。今後の取材の参考にさせていただきたいので、他の例をご存じの方はコメントなどで教えていただけると幸いです。また、記事中にも反映させていただきます。

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