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ビール瓶でコーヒー豆を保存する利点の検証①(同量の豆の場合)

焙煎直後の豆をビール瓶に詰めて保存する「加圧熟成」。
このことについては先に、「コーヒー豆をビール瓶で保存する理由」で書いていますが、その利点の検証にトライしてみたいと思います。
手元でできる五感に頼った検証なので、あくまでも「と思われる」の範疇までのことになりますが、発見もあり、実のある検証になっていくと考えています。

ビール瓶で保存することに期待できる店側の利点は?

  1. - 美味しさの視点:耐圧容器であるビール瓶で保存することは、焙煎直後から始まる二酸化炭素ガスの放出を閉じ込め、瓶内で豆に圧がかかることとなり、加圧しなければ引き出せない味わいが生まれる。

  2. - 経済性の視点:加圧されることによって豆の香りや風味が逃げずに豆に定着。これによって長期に美味しいコーヒーを楽しむことができ、賞味期限によるロスが減る。また、ビール瓶は再利用可能であるため、環境にも優しい。

  3. - 保存の手間の視点:ビール瓶で保存することは、空気や湿気の侵入を防ぎ、遮光性もあり紫外線による劣化を防ぐので、手間なく豆を新鮮な状態で保つことができる。

  4. - 視覚的な効果の視点:ビール瓶の見た目の意外性で、商品の差別化にもつながる。

  5. - ユニークなアイデアの視点:ビール瓶で保存するというアイデア自体が斬新で画期的であるため、マーケティングの観点からも注目される可能性がある。

このうちの1と2(特に1)について、味わいの点で次のように実験を行いました。

〈実験の概要〉
使う豆 :HOP FROG BLEND (グアテマラ / ブラジル / エチオピア 4:4:2)
焙煎  :Aillio Bullet R1 にて1ハゼ後120秒で煎り止め プレミックス
保存状態:ビール瓶、ジャム瓶、アルミ蒸着袋それぞれにCO2ガスを置換してから豆を封入
官能テスト:未開封で27日間保存後に開封時のテスト・開封後7日目に空気に触れてからのテストを行う

〈開封時の比較〉

先に結論を言うと、アルミ蒸着袋は香りや味わいが抜けていることがすぐにわかりました。ビール瓶とジャム瓶の味わいの強さ(深さ・多さ)に大差はありませんでしたが、後味の持続と香りの深みがビール瓶のほうがあり、酸味に関してはジャム瓶のほうが収斂味のある酸を若干強く感じました。

未開封で27日間保存したのちに開栓。5段階で各要素の強さを官能テストで表す。

具体的にどのように感じたかというと、

〈開封時にガスが抜ける”シュッ”という音〉
・ビール瓶・・・聞こえる
・ジャム瓶・・・聞こえる
・アルミ袋・・・聞こえない

〈香り(開封時)〉
・ビール瓶・・・とても強く甘い匂い
・ジャム瓶・・・とても強い甘い匂い
・アルミ袋・・・強くはなく香ばしい香り

〈甘味〉
・ビール瓶・・・黄金糖のようなクリアな甘味
・ジャム瓶・・・ブラウンシュガーの方向の甘味
・アルミ袋・・・シロップのようなあっさりした甘味

〈酸味〉
・ビール瓶・・・オレンジピールやキウィのようなスムースな酸
・ジャム瓶・・・レモンのような酸。少し収斂味を感じる
・アルミ袋・・・レモンやびわのような酸味。主張はしていない。

〈香り(ブレイク後)〉
・ビール瓶・・・チョコレート、オレンジピール、ラム酒、はちみつ
・ジャム瓶・・・チョコレート、オレンジピール、キルシュ、こぶみかん
・アルミ袋・・・チョコレート、オレンジピール、こぶみかん、ローリエ

〈後味〉
・ビール瓶・・・甘味とフレーバーの余韻が長く続く
・ジャム瓶・・・甘味とフレーバーの余韻が長く続く
・アルミ袋・・・軽めの余韻が早めに終わる

といった印象でした。

そして、豆の様子にも違いが。油が浮き出ている豆が多いものと少ないものとがありました。

左から「ビール瓶」「ジャム瓶」「アルミ袋」に入れていた豆

〈表面に油分が染み出ていた豆の数〉
・ビール瓶・・・74粒中4粒
・ジャム瓶・・・75粒中7粒
・アルミ袋・・・75粒中15粒

油分が出てくるのは、焙煎によって豆の細胞壁が壊れ、香り成分を含んだ油分が出てくるためです。細胞壁が壊れれば壊れるほど油分が出てきます。コーヒーの油は酸化しにくいと言われていますが、それでも空気に触れれば酸化し、味わいの変化を起こしやすいと考えられます。

カッピングを終えた後は再び封をして(今回はCO2の置換は行わず、空気が含まれた状態で封をしました)、1週間後の様子を見てみることに。

〈開封後1週間を経過してからの比較〉

開封時と同じくカッピングを行いました。
こちらも先に結論を言うと、アルミ蒸着袋の豆はさらにフレーバーが抜けてすっぽ抜けたような印象に。開封時に大きな違いがなかったビール瓶とジャム瓶は、1週間経つと、ジャム瓶のほうに酸の質が重くなったり後味の余韻が短くなったりと、少しネガティブに振れる変化があり、ビール瓶は概ね1週間前の印象と変わらないか、1週間前よりイルガチェフェのものとわかるベリー感が増したり、熟成したプラムやチェリーのような印象、まろやかな余韻の長さなど、ポジティブな変化を感じました。

27日熟成後開栓して1週間置いたもの。5段階で各要素の強さを官能テストで表す。

アルミ蒸着袋の風味がかなり薄くなっていたので、開封時のような細かな印象の違いは省略しますが、上記のようなそれぞれの変化を見せていました。

〈結果から想像する味わいにおけるビール瓶の利点〉

この実験から想像するに、次の特徴に秘訣があるように思います。

■王冠で封をする・・・ガスが逃げず圧力がしっかりかかる(味わいが深まる。)油分が染み出にくく酸化の速度が緩やか。
■遮光性のあるガラス・・・光による劣化を抑えられる。
■ボトルネックの形状・・・開栓後の湿気や空気の流入が少なくて済むため、風味が逃げにくい。

常温でビール瓶のまま保存すると、冷蔵冷凍で生じる温度変化の結露による香りの損失が起こらずに長く楽しめます。
店にとっては、長期保存が可能である上に開封後の劣化の速度も緩やかなため、豆をロスする機会がほぼなくなると思います。
飲み手のお客様にとっても同じく風味が長持ちするため、美味しさの機会ロスの心配よりも、味の変化/成長を愉しんでいただけると思います。

〈次の実験へのお題〉

今回は60gずつに豆の量を揃えましたが、圧をかけるという点でヘッドスペースを同じにすることも試す必要があると思います。
次回は「容器いっぱいに詰める」状態で実験を行います。

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