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『渡る世間に巫女三人』

うりもさんのスタエフの中から生まれた
ウーリーと黒い獣たち

妄想力の強い人、そしてnote書いている人ならやりたくなるような企画がスタエフ配信の中のコメントなどから生まれたもの。

今回私は、風、雲、水を司る三人の巫女(ミーラー、フーヤ、ヤーパ)のうちのミーラーとして、スピンオフを書かせてもらいました。

スタエフを聴いていない方はこちらをどうぞ。

うりもさんがざっくりわかりやすく柔らかく書いてくれたものはこちら


たねさんの記事はこちら

たねさんの記事の中にあるプロットの部分を載せておきます。

ターリキィ国の朝は早い。
ニワトリの鳴き声が響くと同時に、町の広場に面した雑貨屋のおかみが店を開店させながら、誰に話すともなく喋り始める。
『べしゃり屋』のおかみボーチャは町一番の情報屋。この国の知りたいことがあれば、彼女に聞きに行くといい。まったく関係のないことまで教えてくれて、何を聞きたかったのか、もはやわからなくなるくらいたくさん情報をくれる。
ただし、開店はどこより早いが、閉店もどこより早いので日が暮れるまでに行かないといけない。

べしゃり屋の隣は長屋になっていて、その一角にはウーリーという男が住んでいる。彼は『清楚』と啼いて時刻を知らせる鳩時計と、妻カイサーのモノマネ芸で毎朝起こされる。ウーリーは鳩時計の啼き方と、妻の勢いがうっとおしくてたまらない。
「ホンマに清楚な声で起こしてみいや」と呟きながら、しぶしぶ起きて洗面所で顔を洗っていると、娘のリトル・ソーがウーリーの膝をめがけて後ろから突進してくる。
膝カックンされて、まんまと態勢を崩すウーリーパパを見て彼女は実に楽しそうにうひゃひゃと笑う。父親で遊ぶのが大好きな娘だ。
リトル・ソーはもうすぐ七つになる。「パパはいつだって、何とかなるって言うけど、それはやることをちゃんとやってる人のセリフだよ」など、子どもとは思えないシビアなセリフを父親に投げかけたりするような子だが、一方で、未だにターリキィ語が話せない。母親カイサーはそのことに疑問と懸念を抱いている。
※ターリキィ語はこの国に古くから遣われ、民族の繋がりを感じる共通言語だが、昨今使えない若者が増えて来ている。

ウーリーが仕事へ行くために着替えをしていると、外でボーチャとカイサーの話し声が聞こえて来る。二人とも声が大きすぎて、家の前で立ち話していてもそこら中に筒抜けである。

通りから聞こえて来る二人の話は、国王アクーンがここのところ病に伏しているという巷で持ち切りの話題であった。
さらには日照りが続いているのも何かそれと関係があるらしい。そのことで今日の夕刻に三人の賢者が民衆に何かおふれを出すということだ。

ウーリーが仕事を早めに切り上げて広場に向かうと、広場にはすでに情報を聞きつけた民衆で溢れていた。民衆たちをかき分けて中央の噴水の前へ進み出た二人の賢者。
ウーリーたちは息を飲んで賢者たちの言葉を待った。

一人目の賢者は民衆を見渡すと、おもむろに口を開いた。
「ここのところの日照り続きにより、我が国のもっとも重要な食であるバナンナの実が枯れて育たなくなっているのは皆も知るところである。このままでは国の蓄えも近いうちに底をついてしまうだろう。雨を降らすために三人の巫女によって雨乞いの儀式を取り行うこととした」

風、雲、水を司る三人の巫女(ミーラー、フーヤ、ヤーパ)による雨乞いの舞踊が三日三晩行われることとなった。

次に二人目の賢者が言った。
「しかしそれだけでは急場の凌ぎに過ぎず、根本的な問題を解決する必要がある。王アクーンは太陽の守護する元に生まれし存在であり、彼の病はこの国の天気さえも狂わせてしまう。この日照りはアクーン王のエネルギーが弱まっていることが引き起こしているのだ。我らが王のエネルギーを回復させねばならない。そのためにはシュミクトの智慧が必要である」

そのとき、遅れてやって来たのが三人目の賢者シュミクト。土から苦しそうに這い出たミミズの声を聴いていて遅くなったと笑う。
二人の賢者のいるところまで進み出て並ぶと、シュミクトは言った。

「この国の波動が著しく低下していることが王の病を引き起こしている。これは我が国のみならず、じきに隣国にまで悪影響を及ぼしてしまうだろう。早急に両国が手を取り合って、この大難を共に乗り越えるべく、協力を仰ぐ書簡を、ゲーン王宛に送った。
そしてここで、この命を受けて国を救う勇者を選出する。
私の受け取った天啓を今から皆に伝える。それが示すすべての条件に該当する者こそ、選ばれし勇者である」

賢者シュミクトはしばらく目を閉じて何かを唱えた後、再び目を開き、民衆に向けて口を開いた。

「まず第一の条件。勇者の名は頭文字がWの男である」

民衆たちはざわざわと互いを確かめ合う。

「第二の条件。勇者は他者の言葉を丁寧に傾聴する者である」
「そして第三の条件。生まれてこの方、メウボーシの実を口にしたことがない者である」

民衆のざわめきは更に大きくなり、その中からひときわ大きな声があがる。
「その男が誰なんかわかったで!」
べしゃり屋のおかみボッチャの声だった。
「あんたとこの旦那やんか!他におれへん!」
ボッチャは隣でポカンとしているウーリーの妻カイサーの肩を叩いた。

自分の名を呼ばれ、皆から背中を押されて賢者たちの前へ現れたウーリー。

賢者シュミクトはウーリーに近づくと、右手をウーリーの顔の近くへ差し出した。
彼の手には大きなメウボーシの実が握られている。

メウボーシの実は夕焼けの色より赤く、熟すほどにしわしわになる。見た目に反して、それを口にした者は誰でもその顔面が歪めずにいられないほど、非常に酸っぱい実である。

「ちょっと待ってー!何なんー!コワいコワい!」
必死に抗うウーリーは、民衆の男たちに「まあまあ」といなされ、身体を取り押さえられた。
「なあ!オレ、メウボーシがぜったいあかんの知ってるやろ!」
ウーリーは涙目になりながら、妻カイサーに懇願の視線を送るが
「ごっつあんです!」
カイサーはノリノリで、ウーリーに親指を立てて叫んだ。

「ちゃうやーん!オレ、やるとかまだ何もゆうてへんやーん!」
泣きっ面で叫ぶウーリーの口に、賢者シュミテクトは半笑いでメウボーシの真っ赤な実を押し込んだ。

『ウーリーと黒い獣たち』のプロット


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ナレーション

『この物語は、とある国の日照り続きを何とかするため立ち上がった三人の巫女たちの記録である。
巫女界において、全く無名の弱体巫女チームが、干ばつと空腹の中から健全な精神を培い、わずか3日で雨を降らす奇跡を信じて、運命に翻弄される三人の巫女たちが時には敵となりながら、自分の人生を自らの手で拓く姿を通じ、人生とは何かを問うものである。
その原動力となった信頼と愛を、余す所なくドラマ化したものである。』

雨乞いの通達

ここ数ヶ月、ターリキィの国に雨という雨が降っていない。

このままずっと降らなかったらどうなるんだろうと空を見上げながら考えていた。


そんなある日、私の元に雨乞いをして欲しいと、国から通知が来た。

しかし、私はこの通知が来る前に雨乞いをして欲しいと連絡が来ることを知っていた。

なぜなら『べしゃり屋』のおかみボーチャが誰に話すでもなく、大きな声で朝から喋っていたのが散歩中の私の耳に聞こえてきたからだ。

「毎日毎日あっついなぁー」
「雨も全然降らんしぃ、かなわんわー」
「バナンナもこれじゃあ枯れるわなぁ」
「私まで枯れそうやでぇ」
「雨乞いでもせーへんとこれあかんやつなんやないのー?」
「雨乞いと言えば、ミーラー、フーヤ、ヤーパやんなー」
「あの子らに頼んだらえーのになぁ」

もしかしたらこの独り言が国の誰かの耳に届き、私に雨乞いをして欲しいと言ってきた可能性も考えられる。
となると、国をも動かすボーチャは、ただの雑貨屋の情報通というだけではないのかもしれない。

数日後、今度は長屋に住んでいるカイサーと朝早くから話をしていたボーチャ。

「今度、雨乞いするらしいでぇ」
「そうなんだぁ」
とカイサーが言うか否や
「ミーラーとフーヤーとヤーパで。もうそんなん最初っからあの子らに頼んだったらええねん」
と言うボーチャ。

本人は小声で話してるつもりみたいだが、少し離れた場所で散歩している私の耳にも聞こえてきた。


「何でその三人なの?」

私も知りたかったカイサーのその質問に、ボーチャは答えることなく、違う話題に変わってしまった。

「あー、今日のカイサーのモノマネは、リョーコシノハーラやったなぁ。あれ、ホンマ笑ったわぁ」
「このばかたれがぁ」
「ガハハハ。それやそれ!朝からほんま笑ったわぁ。で、昨日は何やったかなぁ?」

ボーチャの興味は巫女よりもモノマネに変わっていた。

カイサーもカイサーで、違う話題に変わっても何の違和感も持たずに話を続ける。

「昨日はあれよあれ。ほらぁ、誰だっけ〜、あのドラマのあれに出てたあの人よ〜。前はあの人とあのドラマに出てた、あの人よ〜」

「ガハハハ。なんもわからんわぁ」
「ば・か・や・ろ!」

「ばかやろはあんたや!しっかし、あんた、その物忘れ、ひどいなぁ。せや!そんなあんたにええもんがあんねん」
「ごっつぁんです!」

「特別やでぇ」

そう言って2人は店の中に消えていった。


雨乞い1日目

雨乞いをする日がやってきた。

雨乞いをする場所は河原の近くに設置された神楽。
普段より水位の低い川を見て雨の少なさを実感する。

私の他にあと2人来るはずだけど…。

そう思っていたところへ
「お久しぶりです」
と風を司る巫女のフーヤが神楽の裏から出てきた。

フーヤは私より先に来ていて神楽の裏にいたようだった。

歌を口づさみながら近づいてきた。

フーヤは歌が趣味でとても上手い。

今は巫女をしながらレストランを経営し、そこで風水も見ているという。

メニューは全てインド風カレー、和風パスタ、四川風麻婆豆腐など〇〇風と書かれている。




しばらく待った後、時間に遅れて雲を司るヤーパがやってきた。

「ちゃーす」

「ヤーパ遅いよぉ」
と私が言うと

「え?そう?今日めっちゃ早起きしたんだけど〜」
と答えるヤーパ。

「ギリギリアウトですね」
元風紀委員のフーヤが言う。

「ブッチして雲隠れしようかと思ったわぁ」
こんなことを言うヤーパは巫女をしながら公文の講師をしている。


私たち三人の巫女は同じ巫女高校の同級生。
部活も同じで巫女部だった。

時々ケンカもしたけどなんだかんだいつも三人でいた。

久々に会ったにも関わらず、挨拶もそこそこにヤーパがズンチャッチャズンチャッチャと、踊り出した。

ヤーパはいつもこうだ。
自分が踊りたくなったら踊る。
踊りたくなかったら踊らない。
自分に正直だ。

雲のように軽く、だけど、流されているようで流されない自分という芯を持っている。

昔、そんなヤーパが羨ましくなり、些細なことでケンカをした。

しかしそんな過去は水に流した。

ヤーパの踊りを見ていたら楽しくなり、私もズンチャに合わせて踊り出した。
合わせているつもりだが、ほぼ合っていない。

私のリズム感と音感がないのは学校でも有名で、こんなやつが巫女部なのかと波紋を呼んだことがあるほどだ。

「風の音を聞きましょう」
とくるくると滑らかなターンをしてフーヤも踊り出す。

当然ズンチャッチャとは合っていない。

三人の踊り方はバラバラだ。

「ねねね。ここにさぁ、ヒューヒューだよって合いの手入れた方が良くない?」
と、私が言うと、ヤーパの顔が曇った。

「合いませんね」
とフーヤにバッサリ切られた。

「えー?じゃあ、カッキーンは?」
またヤーパの顔が曇った。

「ズンチャッチャ、ズンチャッチャ、カッキーン!ほら、これなら合うじゃん!」

「全く合いません!」
フーヤにも却下された。

そう言うフーヤの踊りもズンチャッチャに全く合っていない。

「フーヤも合ってないじゃん!」
私が言っても聞く耳を持たない。
フーヤはどこ吹く風。
馬耳東風だ。

私はめげずにズンチャッチャの間に
「ヒューヒューだよ」
「カッキーン」
「熱い熱い」
と言いながらお尻をプリッと出しながら踊った。

そんな中フーヤが
「私!今メロディと歌詞が浮かびました〜!」
と言って自分の作り出した音楽で踊り出した。

「ズンチャッチャズンチャッチャ」
「カッキーン」
「雨が〜降れば〜♪」

それぞれがそれぞれのメロディで舞を踊る。

何もかもバラバラの三人の巫女たち。
神楽の上はもはや何をしているのかわからない状態になった。

「ねぇ!全然合わないじゃーん!」
「雨乞いで、ズンチャッチャのリズムが合わない原因かと思われます」
「ズンチャッチャでいいって!ヒューヒューだよがいらないんだって」
「ヒューヒューは、絶対いるって!」
「いりませんね」
「じゃあ、カッキーンにする」
「それもいらない!」
揉め始める三人。

「っつうかさぁ〜、雨、全然降らなくねぇ?」
「そうですね。全然降りませんね」
「だよねぇ。そろそろ降っても良くない〜?」
「マジそれなぁ」

「そういえば、私、いいものを持ってまいりました」
フーヤがそう言って神楽の裏から何やら持ってきた。

だ。

「実はこれ、雨が降るって言われてる壺なんですよ。べしゃり屋から今朝買ってきました。」

「え?嘘…」
と私が言うと

「嘘とは失礼ですね!」
とフーヤが少し怒り気味に言ってきた。

「あ、違う違う。その嘘じゃなくて…これ…」
そう言って私も神楽の下から自分が持ってきた壺を取り出した。

「え?嘘…」
フーヤも私と同じセリフを言った。

お互いの顔と壺を交互に見ながら吹き出した。

「え?なになに?」
ヤーパはまだ状況をわかっていなかった。

「今日、ここにくる前にべしゃり屋の前を通りかかったらボーチャがええもんあるからって…」
と、私が言うと、フーヤも
「私にもそう声をかけてきました」
と続けて言った。

「これ、最後の1個だったんだよ!ボーチャが『これ、最後の1個やで。あんた持ってるわぁ。ラッキーガールやなぁ。よし!特別価格で売ったる!』って言ってくれたもん」
と言うと
「全く同じセリフを私にも言ってました」
とフーヤは言った。

…さすがべしゃり屋のおかみボーチャ。
商売上手だ。

最後の1個とか、特別と言う言葉を巧みに使い、購入意欲を高めさせる。

そうやってローンを組み、買わされた人もいるとかいないとか…。

「へぇ。あそこの店やってるんだねぇ。私空いてるところ見たことない。」
と言うヤーパ。

「それはあんたがいつも朝寝てるからや‼️」
フーヤと2人でツッコんだ。

「あそこの朝は早くて閉めるのはどこよりも早いからね」

「ってかさぁ。お腹、空かな〜い?」
と、ヤーパが言い出した。

「空いた〜」
「空きましたね」
と私とフーヤも同調した。

「バナンナ食べたいよねぇ」
「食べたいですね」
「ってかさぁ、バナンナ高くな〜い?」
「いや、マジそれな!」
「ホント高すぎですね」
「なんで高いの〜?」
「雨が降ってないので、実が育たないんですよ」
「雨降れよぉ〜」
「あ!雨乞いしないと…」

こんな感じでまた三人がそれぞれのリズムで雨乞いのダンスをして1日目は終わった。

雨乞い2日目

雨乞いは夜通し行なっていたが、時々話をしては踊るのをやめ、揉め出すこともあった。

朝になるとヤーパは眠い、お腹空いたと言い出しズンチャをしなくなった。

そこでフーヤが
「仕方がないですね。あれを出しますか」
と言って神楽の裏へ行った。

「これは、べしゃり屋で買った特別な水です。波動が整うといわれています」
と言いながらフーヤが筒状のものを持ってきた。

「うわぁ。それ、欲しかったやつ〜!なかなか手に入らないんだよねぇ」

「水を司るのにねぇ」
ヤーパにからかわれた。

「っていうかさぁ。ミーラーは、水を司るのに、雨降らすこと出来ないの?」
ヤーパに痛いところをつかれた。

私は水を司る巫女と言われているけど、雨を降らせたことがない。
なぜなら雨乞いのダンスが下手だからだ。

昔、顧問の先生に
「お前はゼロの人間か!歯を食いしばれ!」
と言われて殴られたこともあったが、それでも私のダンスは上手くはならなかった。

巫女なのに舞が下手なんて致命的だ。

それでも踊っている時は楽しい。
こうして巫女三人集まってケンカしたりわちゃわちゃしてる時が凄く楽しいのだ。

何も言い返せないでいる私にフーヤが
「悩みがあったら遠慮なくおっしゃってください。私たち巫女友なんですから」
と言って、べしゃり屋で買った水をくれた。

「えー?悩み〜?悩みあるのぉ〜?なんだぁ〜言ってよ〜。水くさいなぁ」
とヤーパも言ってくれた。

そんな二人の優しさに私は泣きそうなった。

「ズンチャズンチャッチャカッキーン」
泣くのを誤魔化すかのように、おどけて踊り出した。

続いて二人も水を飲んでから踊り出した。

黒い雲が少し空を覆ってきた。

また三人の巫女による雨乞いのバラバラなダンスが始まった。

しばらく踊っていたが、やはりステップが合わず止まり出す三人。


「ってかさぁ。お腹、空かな〜い?」
と、ヤーパが言い出した。

「空いた〜」
「空きましたね」
と私とフーヤも同調した。

「バナンナ食べたいよねぇ」
「食べたいですね」
「ってかさぁ、バナンナ高くな〜い?」
「いや、マジそれな!」
「ホント高すぎですね」
「なんで高いの〜?」
「雨が降ってないので、実が育たないんですよ」
「雨降れよぉ〜」
「あ!雨乞いしないと…」

「あれ…?ねえ。この会話前にしたんじゃね?」
「デジャヴ?ですかね?」
「え?なになに?ループしてる?」

「え?なになに?怖い怖い」
私が言うと
「それ、ウーリーやん!」
とヤーパがツッコんできた。
私は
「誰がゴリラやねん!」
とツッコミ返し
「ちょっと待ってー!何なんー!コワいコワい!」
と、ウーリーがよく言うセリフを言ってみんなを笑わせた。

ウーリーは、べしゃり屋の隣の長屋に住んでいる。
少々ビビリだ。
ゴリラのような姿をしているが、ごく一般的な男。
人間だ。

傾聴とツッコミを得意とし、朝の散歩の時や会社へ行く時に色んな人とよく話をしている。

それは老若男女、歳も関係なく。
清楚でも清楚じゃなくても。
平等に話しかけてくれる。

彼は絶対に否定しない。
「そうなんですねぇ」
「へぇ。凄いなぁ」
と言ってくれる。

彼に
「檻から出てきたんだね」
「バナンナたべる?」
「ドラミングしてよ」
などと言うと
「誰がゴリラやねん」
と必ずツッコミを入れてくれる。

たぶんあれは元々あったセンスに加え、毎日ツッコミ素振り100回以上の特訓を行なってきたと思われる。
血と汗と涙と努力の結晶だろう。

ウーリーのモノマネをしていたら
「ごっつぁんです」
と、ヤーパがウーリーの妻カイサーのマネを始めた。

いつも真面目なヤーパがモノマネをするだけで面白い。
それを全力でやるからなおさら面白くなる。

そんなヤーパが羨ましくて、私は嫉妬し、昔ケンカをしたこともあった。

しかしそれもまた水に流した。

この後しばらくモノマネ大会になり、モノマネをしながら雨乞いをした。

はたから見たら到底雨乞いをしているとは思えなかったが、本人たちはいたって真面目だ。

笑ったり怒ったり喧嘩したりしながら2日目が終わった。

雨乞い3日目

昨日少し黒い雲が立ち込めてきたが、まだ雨は降っていなかった。

雨乞いもとうとう最終日だ。
三人は疲れた身体を奮い立たせながらそれぞれのリズムで雨乞いをしていた。

お昼近くになった頃
「おはようさ〜ん」と言って1人の女性がやってきた。

「え?もしかしてコチョリー?」私が聞くと
「久しぶり〜ミーラー」とハグしてきた。

キョトンとしている二人に
「中学まで同じクラスで仲良かったコチョリー」と紹介した。

「いっつも教室の後ろの方で妄想話して盛り上がっててさぁ」
「けど、私んち、色んなところに行って芝居する旅一座だから、転校しちゃったんだよね」
とコチョリーも付け足した。

「あ!劇団コチョザップ座の方ですか?とても評判がいいと、風の噂で聞いております」
と、フーヤが言った。

「え?ってか、いつからいるの?」
と聞くと

「昨日。べしゃり屋のボーチャにミーラーの居場所を聞いたらここだって言うから」

「ボーチャに聞いたらなんでも教えてくれるからね」

「旅の疲れに効くいいグミ買ったのよ。雨乞い疲れにもきっと効くよ」
そう言ってリュックの中からグミを取り出し私たちにくれた。

これもラスト一袋で、特別にもう一つ付けてあげると特別価格で売ってくれたと言う。
ラスト一袋なのに、もう一袋付けてくる辺りで、おかしなことに気づきそうなものだが、コチョリーがいいもの買った、お得だったと喜んでいるので何も言わずにいた。


「懐かしいところもあるけど、すっかりこの街も変わっちまったなぁ」コチョリーは、目を細めながら遠くを見るように話し出した。

「色んな街を旅してきたぜ」
「世界を見ていると、自分の価値観ってものがいかにちっぽけなものかって、よーくわかるんだ」
「ここに来る前はリケーン王国にいたのさぁ」
「リケーン王国のルボン王女にも芝居を見てもらったのさ」
「ルボン王女は決してお世辞を言わない。芝居を見てはダメ出しという愛の言葉をもらったんだ」
「そして、何度目かの芝居の後、ルボン王女から『なるほどザ・ワールド』というお墨付きの言葉とキューブをやっともらえてねぇ。家族みんなで泣いて喜んだよ。そして、リケーン王国を後にしてきたのさぁ」

なんのキャラなのかよくわからなかったが、昔からコチョリーは色んな役になり切って話をすることがあったので、スルーして聞いた。

ヤーパは話の途中からズンチャッチャズンチャッチャと踊り出していた。
きっと踊りたくなったのだろう。


「雨乞い、あたいも手伝うよ」
そう言ってコチョリーも雨乞いダンスを踊り出した。

コチョリーのダンスは指パッチンだった。
軽やかなステップを踏みながら指パッチンをひたすらやり続ける。

時折「チャッチャマンボーチャチャマンボー、ウー!」
と言いながら踊っていた。

こうして4人でバラバラな雨乞いをしているうちに日が暮れてきた。

だんだん疲れてきたコチョリーが
「ミーラーは水を司る巫女なのに、雨降らすこと出来ないの?」
と、これまたヤーパと同じ痛いことを言ってきた。

「私はフーヤのように歌も上手くないし、綺麗なターンも出来ない。
ヤーパのように自分に正直にリズムを刻むことも出来ない。
雨乞いのダンスが下手だから雨を降らすことが出来ないんだよ」
と、本音を漏らした。

すると、それを聞いていたフーヤが
「ミーラーのその嫉妬心と自分を卑下する言葉、やめてもらえませんかね?」
と、強い口調で言ってきて私は驚いてしまった。

続けてヤーパも
「あー、ミーラーそういうところあるよねぇ。それで昔私に嫉妬心むき出しにしてきてケンカにもなったよねぇ」
と過去のことを言い出した。

「え?けど、それってもう昔のことで、水に流したでしょ」
「いえ。水に流したと思っているのはミーラーだけです」
「私たちは水に流してないよ」
と言われてショックを受けた。

「え?二人に許してもらえてると思っていたし、ずっと心を許せる巫女友だと思ってきたのに、二人はそんな風に考えてたなんて…」
涙が溢れそうなのを必死に堪える。

自分がやってしまったことは取り返しがつかない。
覆水盆に返らずだ。

反省と後悔の念で心がいっぱいになってくると、堪えていた涙が止まらなくなり、ついに涙が頬を伝って流れてしまった。

「ごめん…。本当にごめんなさい…」
声を絞り出して謝った。

すると、空から大粒の雨がポツポツと降り出してきた。

「やっばり」
「やはりそうでしたか」

「え?どういうこと?」

「昨日ミーラーが泣きそうになった時に黒い雲がやってきたので、もしかしたらと感じました」
フーヤは雨乞いダンスをしながら周りをよく見ていた。

「ミーラーは、涙を封印させてきたんじゃない?」
とコチョリーが続けて言った。

「ミーラーが雨を降らすことが出来ないのは、雨乞いダンスが下手だからじゃないってことよ」

「泣いてはいけないって、感情を閉じ込めてきたのではないですか?」

確かにずっと泣いていなかった。
泣いてはいけないと思い込んできた。

それに、雨乞いのダンスだけが雨を降らすものだと思い込んできた。

まさか自分の涙と雨が関係してるなんて思いもよらなかった。

しばらく泣き続け、心も身体も軽くなっていくのがわかった。

「それは、浄化されてるんだよ」
と、コチョリーが言う。

「誰かに植え付けられた価値観と、自分の中にある思い込みがトゲとなり、ピン留めになってしまい、蓋をしてしまっていたんですね」
「泣くことは、悪ではありません」
「どの感情も大切ということです」
「そこに善も悪もありません」

コチョリーはまた新たなキャラになっていた。
たぶんリケーン王国のルボン王女だろう。

ルボン王女というより、どこかの教祖様のような話し方に泣いていた涙もすっかり乾いてしまった。

雨も上がり始めた。

大きな虹もかかった。


こうして巫女三人による三日間の雨乞いの儀式は終わった。


この雨はほんの気休めにしかならない。
根本的な解決にはならないことを知っている。

この後、王アクーンの波動を整えるため、そして、国を救うために勇者が旅立つ。

「コワいコワい。自分やる言うてないやーん」
と言いながらきっと旅立つだろう。

きっと旅立つ。
たぶん旅立つはずだ。

〜渡る世間に巫女三人完〜


書いていたらどんどん妄想が広がってどんどん長くなってしまいました。

スピンオフを最後までお読みいただきありがとうございます😊

たくさんの方々がたくさんの物語を書いてます。

みんな凄すぎ〜‼️

しあわせをありがとうございます💖
うちなる平和を💕
シュカポン🐼

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