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クロの約束 マルコの選択②
気づけば私はどこにいるのか、もっと分からなくなった。硬いところを走っていたので足の裏が痛くて、かろうじて潜り込んだ場所で足を舐める。
目が覚めるまでふんわりして、柔らかかった場所へ居たのに、ここはどこなんだろう。
足を舐めて、身体も舐めると生臭くて酸っぱい味がした。気分が落ち着くと喉が渇き、お腹が空いてきた。
一旦座って、辺りを見渡すとモゾモゾと微妙に動きを感じ、勝手に身体が低くなり、尾を揺らしていた。
動きが止まった、「今だ!」
肉球の下に逃げようと足掻くものを捕まえた。
一旦離してみる。6本足の緑色が羽を出し跳んだ。
私の身体は6本足を追いかけては離し、6本足が弱ると前脚で突いてみる。
「また逃げた」後を追ってみる。
肉球の下へ押さえた6本足が動かない。
前脚で転がしてみるが、6本足はなすがままで動きがない。
匂ってみると、青臭い、周辺の匂いと同じで、
なんかよく分からないけど、食べてみることにした。
「苦い……」
ママのミルクと全然味が違う。
だけど、食べられないものではなく、噛むとジャリジャリ音が耳へ響いて来るけど、お腹は満たされていく。
もう、私にママや兄弟はいない。
6本足を食べながら飢えを凌ごう。
硬いところから生えている上には6本足以外にも、テカテカ光る、動きの速い4本足もいて、尻尾を踏むと切れて逃げてしまった。
でも、コツさえ掴めば捕まえられた。
他にも4本足がいて、毛むくじゃらの方は小さな身体で歯向かってくる。私が噛み、前脚で転がすと弱っていき、美味しく食べることができた。
6本足やテカテカが居た場所には、水たまりがあり、匂いを嗅いでも臭くないので飲むことにした。
でも、やっぱり寂しくて
「ミゥー、ミゥー、ミゥー」と声を出して歩き続ける。日や露が当たらない隅へ横たわり目を閉じる。
目が覚めるとまた鳴いて、頭から転けては、また鳴きながら当てもなく歩く。
前からママより大きな黒い身体が
「アンタ、何してんの」
威嚇しながら私に聞いて来るもんだから、私もびっくりして身体中の毛が逆立つ。
「分かんないよ、私が自分で何をしてるのか。
急にこんなところに居て、何してんのか」
大きな身体は
「ああ、なるほどね。捨てられたんだ」
棘のある大声で叫ばなくても聞こえるわよ。
「私、捨てられたんだ……そうか」
尻尾が下へ落ちていくのを感じる。
「アンタは野良猫になったってわけ」
大きな身体は私の心へ侵入し、掻き乱す。
「猫って?」
「アンタのこと」
「おばさんも猫?」
「そうよ、猫」
「野良猫って?」
「捨てられた野生の猫」
「じゃあ、ママや兄弟は?」
「アンタ、どこから来たのさ」
「柔らかくて、あったかくて、人間が二人住んでいた場所」
「ふ〜ん。
アンタが知ってる人間以外の家へ貰われたんじゃないの」
「どうして、おばさんは知ってるの?」
「そういうもんだからさ」
「どういうこと?」
「猫の一生には、行く末が決まってるってこと。
人間に飼われるか、野良猫として生きるか、どっちに転ぶか運次第」
おばさんの話を聞いても、結局私は歩くしかない。ミゥー、ミゥー、ミゥー。