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短編: 闇の中へ浮かび上がる⑨

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母の四十九日を済ませた。
その間にカフェがあった土地は更地にし、母や僕の持ち物はほぼ処分した。

警察や消防は放火として犯人を追ってくれたが、
犯人らしき人物は防犯カメラを掻い潜り、どこの誰がやったのか、今も分からない。

弁護士へチクりんの誹謗中傷を訴えたいと相談したが、「公共性の問題で裁判は勝算が見込めない」
それは一般人が危害を加えられても世間へそれほど影響を与えないという意味だ。

人の尊厳を公正に扱わないのは法律だと思った。

「とりあえずプロバイダへ個人情報開示請求だけ、
やっておきますか。
誹謗中傷した相手に請求は届きますが、開示を了解するか分かりませんよ。一か八かです」

自分が勤務していた会社へ個人情報開示請求をせねばならないのは、ブログ運営会社は利用者の個人情報を知らずにIPアドレスだけ把握している。

管理運営していても、利用者の名前や性別や年齢が実在する人物だと言い切れないのだ。


僕の家族はいなくなり、友人と疎遠になり、天涯孤独の身になった。

神のような、教祖のようなチクりんは健在で、
火事で人が亡くなろうが毒舌は変わらない。
今日も執拗に僕をブログやSNSで叩きながら、一方では、幸せについて講釈を垂れていた。

「チクりんみたいな女が幸せと思えないよ」


僕の手元に手書きの退職届がある。
会社へIDカードで入り、自分の部署へ向かう。

パソコンを立ち上げ、チクりんのメインアカウントとサブアカウント10個、ブログサイト内から削除し、コイツが二度とうちを利用しないようプログラミングしておく。

チクりんやそのシンパ、対岸の火事を見ている者全て、愚者でありシリアルキラーと思考は同じ。

我欲のために人を深く傷つけ、正当化する。
コイツらの正義はちっぽけな承認欲求を満たしたいだけの虚栄心。

高校時代の偏差値を中高年まで自慢のネタにし、
どこの大学か知らないが、20代でした努力を今もやってんのか?
他人に認められなきゃ努力はできないのかよ。

棺に入る前のオジサン、オバサンは虚しいね。
自分が好きなことを承認してもらえないと好きが継続できないなんて。

僕はストレスから解放されたい。
母を守ってやれなかった悔しさと無力感。
アカウント削除をして、本当に明るい未来が保証されているかの不安。

チクりんのアカウントを削除するのは復讐じゃない。母への後悔が正義へ変わったんだ。

本心は滅多刺しにして殺してやりたいよ。


「速報が入りました。
今朝9時過ぎ、有名ブログサイト
『なぜなぜブログ』を運営する『なぜなぜ社』から異臭が発生し、社員十数名が救急搬送されています。
犯行声明文には早朝に起きたZ県の女性殺人事件と関連があるものとして捜査する模様です。
繰り返します。今朝9時過ぎ……」

僕は自分が異世界へ放り込まれたかのように、
報道が現実のものと思えなかった。

ハッと我に返り、ネットを開く。

limiterでは、チクりんのアカウントが削除されたと大騒ぎになっている。
言論の自由を奪う暴挙など言っているが
言論の自由は暴力の自由じゃないんだ!

しかし、チクりん本人のlimiterは投稿が今朝の4時52分を境に途絶えてしまった。


limiterへDMが来ている。


なぜなぜブログ管理運営 武内様

前略。私は以前、御社のブログを利用していた
koikeフォロバ100です。

お母様の件、お悔やみ申し上げます。

武内様の不幸は新聞で存じておりました。
私はお母様のカフェで癒しを頂いていた客の一人で、そしてチクりんにブログを追い出された一人でもあります。

チクりんから粘着された際に、武内様は私の話を親身に聞いてくださりアドバイスも頂きました。
孤立した私へ武内様だけが味方をしてくれました。

漸く社会復帰もできましたが、私のような社会の底辺はやはり幸せになれないようです。
幸せになるために積み重ねてきたものを、自らの手で壊してしまいました。
チクりんの言う通りかもしれません。

もう、生きていても意味がないです。
ですから最期に武内様へ恩返しがしたく、私を苦しめたブログ運営会社とチクりんには消えてもらいます。
闇の中から浮かび上がるように私が復讐します。

武内様、あなたは幸せになってください。

           完


この小説は、山根あきらさんとの共作になります
連載物ですが、1話ごとに単独の短編小説として読むこともできます

フィクションです