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クロの約束 マルコの選択⑤
おばさんの友達にはオス猫のサバがいて、
サバはおばさんより更に大きな身体をしている。
おばさんが言うには、サバは手術をしてから貫禄のある今の身体になったらしい。
発情期になるとサバが重くて
「こっちへ来るな!」「うるさい、黙れ!」と
ケンカになるという。
「子どもができないのに負担だよ」
おばさんのボヤきには、私にくれる温かい優しさと違って、もっと深い気持ちが入っているような、
何か違う気がしたけど、よく分からない。
おばさんのサバと寄り添って昼寝をする顔が、日頃、ご飯を食べて喜んでいる顔と少し違う。
サバがよそのメス猫と並んでいると、おばさんは、一旦立ち止まってから無視して前を通る。
おばさんが一旦立ち止まる後ろ姿は、確実に顔がサバの方を見て、俯き、それから歩き出す。
それをどうしてか、おばさんに聞くのはいけないって、聞くのが怖くて首を振った。
猫には猫の触れられたくないことがあって、触れてしまうと私もよその猫から触れられるんじゃないかと恐れてしまい、聞かないようにしている。
私が自分の思うままに生きたいなら、他の猫も同じだと直感が働く。自由とか気ままは、よそ猫が放っておいてくれるから自由と気ままにできるんだよと、いつだったか、おばさんは語った。
「クロが『今日は公園で寝たいな』と思ったのに
『クロは神社へ帰りなさい』って命令されたら気分が悪くなるだろう? 猫はそういうのが昔から受け継がれているんだと思う。誰からも教わらないのに知っていたんだからね」
おばさんがサバと木陰で戯れあっている。
そういう時は、おばさんの視界に私はいない。
私は私で街中を探検しながら、時々、人間に追いかけられる。
「仔猫、可愛い」って追いかけて来て、側溝に逃げたら笑いながら去っていった。自由を奪うくせに平気な顔で、人間って野蛮。
おばさんとサバみたいに、私と人間が自然に戯れあいたいと思う日は来ないかもしれない。
サバは私と話をしない。
私もサバに何を話していいのか分からない。
サバは私を見もしないで、おばさんの脚へドカリと座る。あの大きな身体で、ゴロゴロ鳴くのが、ちょっとムカつく。
猫の集会では、なるべく隅に座って静かにして、
大人の邪魔をしないように気をつける。
でも、おばさんだけは違って私の傍に座り、
時々、他の猫の話を聞きながら私の毛繕いをしてくれる。
「あっ」
やっぱりそう考えると、私はサバよりおばさんに大事にされているのかな。
今晩はサバとおばさんが一緒でも、私もそばで寝よう。