短編:闇の中へ浮かび上がる⑦
僕はチクりんのブログを見て、目を疑った。
投稿してから2時間が経過しているにも関わらず、「いいね」が15個しかついていなかった。
『なぜなぜブログ』の中には僕のことを分かってくれるユーザーがいたのだと例えようがない安堵で、人には心があるんだと光を見た気がした。
「そうだよ。みんなは
『誹謗中傷はよくない』と書いているじゃないか。
今こそ良くないことをチクりんに示すときが来たんだ。有言実行のときだよ」
僕はスマホを閉じて心療内科の診察室へ入った。
医師は優しく接してくれたが、僕の心の痛みを理解することはできなかった。
「あなたは特に問題がない」
……問題がない?
僕は自分の苦しみを誰にも理解してもらえないことへ絶望した。
でもチクりんの悪業へ“いいね”があまり付かないことが僕へ支えになった。
明日から出勤できそうだと思った。
マンションに帰宅し、僕はスマホを手に取る。
友人からメッセージが届いていた。
「お前の母ちゃん、あんなことされて恥ずかしくないのか?」
あんなこととはどんなことだ。
SNSのlimiter、そしてチクりんのブログを開く。
新たに投稿された記事には、僕の母が営むカフェの住所が晒され、
「バカな息子を飼うカフェ」として揶揄されて、
母の容姿やカフェのデタラメな悪評が書かれていた。
「ウソだろ」
チクりんは自分のブログへの“いいね”が少ない腹いせをしているのかもしれないし、執拗に僕や家族の投稿がアップされていく。
ブログにあるチクりんの言葉は僕を地獄に叩き落とす。limiterへはチクりんのつぶやきで
「PVが去年比で1000倍増えたwwwww」とある。
単純に去年が1200PVだったとして、静かな閲覧者はチクりんの投稿を、僕の公開処刑を待ち望んでいる。
彼にはチクりんとそして閲覧するチクりんのシンパへの憎悪が沸騰して、明日にでもチクりんが死ねばいいとさえ思った。
悪辣な言論で利用者を傷つけたチクりんへ僕はブログ管理人の仕事をした。
「どうしてこんなことが起こるんだ?」
僕は自問自答し、
「何も悪いことをしていないのに、
なぜこんなにも苦しめられなければならないのか」
チクりんへクレームをしてきた利用者もチクりんからの悪の手が僕へ渡ると他人事。
チクりんが言うように、ブロックされても仕方ない愚者に見えた。
所詮、チクりんも他の利用者も社会不適合。
ネットブログでしか自分を見出せない輩だ。
翌日、僕は会社に行くと同僚たちの視線が冷たく感じた。僕の背後で低い声で囁かれる、
「武内って、チクりんに絡まれてるやつだよね」
僕は周囲の笑いの種になっているようだ。
数日後、警察からの連絡で実家に帰ると
母のカフェが半焼し、母は病院へ搬送されたと聞いた。
チクりんのブログやlimiterの影響で実家には投石や落書き、イタズラ電話が頻繁にあり、カフェが臨時休業などもあったという。
「全部、お前のせいだよ。チクりんに逆らうな」
半焼したカフェを呆然と見つめる僕の後ろから声がした。
僕は再びチクりんのブログを訪れた。
新たな記事が投稿されており、そこにはさらなる中傷が書かれていた。
「バカ母のカフェ炎上中」と、
ご丁寧に画像を添えて。
しかし、その投稿は炎上しなかった。
代わりに僕が窮地に立った。
チクりんと僕は同一人物という怪情報が流れ、母のカフェの火災は同情を引くための自作自演。
会社に悪いと思いながら誰がデマを流しているか知りたかった。
社内のパソコンへアクセスし、画面を凝視する。
怪情報を流したのはチクりんと同じIPアドレス主。
つまり、チクりんこそが自作自演をしていた。
この小説は、山根あきらさんとの共作になります
連載物ですが、1話ごとに単独の短編小説として読むこともできます
フィクションです