イレンシ~壱~


前書き

 
竹田:もう職種も何も問いません!
 
とにかく今すぐ働ける所を紹介して下さい!
 
職員:って言ってもね・・・竹田君、キミここ来るの何回目?
 
ここはどこにでもあるハローワーク

そこに今や常連となってしまっている
 
竹田広之(たけだひろゆき)という青年が
 
今日も今日とて職を探しにやって来ていた
 
竹田:い・・・今までの職場では俺の力を

生かすことができなかったんですよ!
 
職員:それってさ・・・
 
ただやりたくなかっただけじゃないの?
 
そんなんじゃいつまでたってもまともに職なんか着けないよ?

竹田:と・・・とにかく頼みます!
 
俺にはもう後が無いんです!
 
どうか・・・頼んます!!
 
職員:・・・・・・・・・
 
職員はしばらく考えていたが、近くにあったメモ用紙を手に取り
 
何かを書き始めた

職員:実際キミの様な人は初めてじゃないし今まで多く見てきた、
 
その度にここを紹介してきたんだけど・・・
 
職員はあまり勧めてはいない口調で

何処かの住所を書いている様だった
 
竹田:・・・わかりました!明日そこに行ってみます!

職員:・・・そう?じゃあ僕の方から一応連絡入れておくから
 
竹田君は一応履歴書を準備しておいて

竹田:は・・・はい、ありがとうございます!
 
その後竹田は職員から住所が書かれた紙を受け取り
 
席を離れハローワークを後にした

職員:今度は・・・大丈夫かな?
 
 ・・・これで最後にしてくれよ鹿神、 お前の所に行かせるのは
 
こっちだって気が引けるんだから・・・
 
職員はトーンを落とした口調で呟きながら竹田の後姿を見送った
 
そして翌日、竹田は紙に書かれた住所の場所に来ていた
 
竹田:ここかぁ・・・?
 
そこはどこにでもあるような雑居ビル
  
竹田はメモに書いてあるビルの2階に階段で

上り入り口の前まで辿り着いた
 
竹田:これか・・・
  
入り口の扉には木の板の立て札が表札の様に張り付けてあった
 
竹田:・・・ん?
 
"イレンシ相談事務所"??
 
変な名前だな・・・法律相談所か何かか?
 
竹田はあまり深く考えても仕方がないと思い
 
扉の横にあった呼び鈴を鳴らしてみた
 
・・・・・・・・・・・・
 
反応がない、竹田はもう一度鳴らした
 
・・・・・・・・・・・・
 
竹田:・・・留守か?でもおかしいな・・・
 
昨日連絡は入ってるはずなのに・・・
 
竹田はドアノブをおもむろに触り回してみた
 
・・・ガチャッ!
 
竹田:あっ・・・開いてる?
 
扉には鍵は掛かっておらず、竹田は恐る恐る扉を開けた
 
竹田:・・・・・・・・・
 
事務所の中は意外と広く、部屋の周囲には大きな棚があり、

そこへ大量の本が綺麗に並べてあった
 
しかし所々に本が山のように積み重なっている
 
場所がいくつもあり乱雑に積まれている所も見受けられた
 
竹田:・・・すいませーん、誰かいませんかぁ?
 
竹田が意を決して声を出してみると、その声に反応したのか
 
突然近くにあった本の山がガサゴソ動き出し、

途端に本が雪崩の様に崩れた
 
???:いっ・・・たぁ・・・、
 
誰だよ・・・こんなに本積み上げたのぉ・・・僕だ・・・
 
どうやら人はいたようだ
 
崩れた本の山が再び動き出し、その中から人間が這い出てきた
 
???:ふ・・・ふわぁ・・・ん・・・で・・・どちら様?
 
その男は頭をボリボリと掻きながら目の前にいる竹田に問いかけた
 
竹田:あっ・・・お・・・俺、面接を受けに来た竹田と申します!
 
???:・・・面接・・・竹田・・・?
 
僕の方にそんな連絡・・・来てたっけ?
 
竹田:・・・え?
 
そう言いながら男はおもむろにポケットからスマホを取り出すと
 
???:・・・おや?誰かから電話がかかってたみたい
 
竹田:あの・・・、俺滝本さんからここを紹介されて・・・
 
???:滝本・・・?・・・あっ本当だ!
 
滝本からだ!
 
 すると男はどこかに電話をかけ始めた
 
???:あっもしもし滝本か?久しぶりだな!
 
どうした?ん・・・?面接?あ・・・そう言うことか!
 
悪い悪い、丁度寝てた時間帯だったから
 
あぁ・・・いやいや、ちょっとした昼寝だって!
 
竹田:(昼寝って・・・今朝の10時だぞ!!?)
 
???:あ~うん、わかった、わざわざありがとな!じゃあ!
 
そうして男は電話を切った
 
???:さてと・・・竹田君・・・だったよね?
 
竹田:あっ、はい!
 
???:僕は鹿神治郎(しかがみじろう)と言います、よろしく!
 
とりあえずそこに座ってて、今お茶を用意するから!
 
鹿神と名乗るその男は近くのソファーに座るように促し、
 
竹田はそこに腰を下ろした
 
竹田:・・・・・・・・・
 
竹田は改めて辺りを見渡す

大量の本が棚に綺麗に収まり

まるで本棚が壁の様で竹田を囲んでいる様だった
 
本の題名は随分古いのかほとんどがかすんでいて見えない
 
竹田:(・・・頭良いのかなこの人?)
 
鹿神:やーやーお待たせ
 
鹿神はコーヒーカップの様な物を両手に持ち竹田の方に歩いてきた
 
 竹田:あっ、どうもすいませ・・・
 
竹田は目の前に置かれたカップの中身を見ると

竹田:(ん・・・?これは?)
 
鹿神:あぁ、ごめんねややこしくて、これウーロン茶

丁度コーヒー切らしてて 
 
竹田:あぁ・・・お茶ですか・・・
 
竹田がカップを手に取り少しお茶を飲んだ所を確認し
 
鹿神が話を切り出した
 
鹿神:ところで竹田君、滝本からここの仕事の内容を聞いてる?
 
竹田:いえ全く何も聞かされてません!
 
竹田は偽りなく答えた
 
鹿神:・・・だろうねぇ・・・、じゃなきゃ来ないよね

鹿神は少し苦笑いをして呟いた

竹田:あの・・・ここはどんな仕事をするんですか?
 
鹿神:う~ん、どう言えばいいのかな・・・
 
鹿神はその問いに何故か言葉に詰まらせていると
 
プルルルルルル~
 
どこからか携帯の着信音らしきものが聞こえてきた
 
竹田が音の出所を探すと
 
鹿神:はい鹿神です
 
鹿神は誰かと話をし始めていた
 
鹿神:はい、あ~はいわかりました

では今からそちらへ伺わせていただきます!
 
竹田:(え・・・今から?おいおい俺の面接は?)
 
会話を終えた鹿神は携帯の電源を切り竹田の方へ振り向いた
 
鹿神:ナイスタイミングだよ竹田君!久しぶりに依頼が来たよ!
 
竹田:・・・依頼ですか?(それに・・・久しぶり?)
 
鹿神:丁度良い、竹田君には僕の仕事を見てもらおう!
 
口で説明するより見る方がわかりやすくていいからね!
 
何故か鹿神の目は輝いていた

よほど久しぶりだったのだろう・・・
 
竹田:は・・・はぁ・・・そうですか
 
鹿神:では早速行こう・・・あっ!
 
竹田君は今日他に何か予定あった?
 
竹田:いえ、何も・・・どうせ暇なんで・・・
 
鹿神:それは良かった、今回の依頼は多分夜までかかると思うから
 
竹田:(夜って・・・1つの依頼にどんだけかかるんだよ!?)
 
すると鹿神はそそくさと身支度を始め出した
 
竹田には鹿神がリュックの様な物に本やら水筒や
 
お菓子を詰め込んでいるように見えた
 
竹田:(・・・遠足にでも行くのか?)
 
鹿神:よし!準備完了!さあ行こうか竹田君!?

竹田:あっ、はい!
 
鹿神は先ほどの竹田と対面した時の様子とは
 
違い活き活きとしている様に見えた
 
・・・・・・・・・・・・
 
2人は事務所のビルから外に出て、すぐ近くあったバス停から
 
バスに乗り目的地へと向かった
 
・・・・・・・・・・・・
 
 そのバスの車内
 
竹田:鹿神さん、この仕事って・・・探偵・・・

みたいなものなんですか?

鹿神:う~ん、ちょっと違うかな・・・て言うか・・・

全然違うかも・・・
 
竹田:(結局どんな仕事?)
 
そんな感じで2人はバスに揺られ目的地へと目指す・・・
 
 

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