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『わたしを離さないで』~春馬くんと共に愛と希望を拾いあげていく

春馬くんがいなくなってから春馬くんの作品を追っていた私だったが、正直、まずこの作品の、春馬くん、綾瀬はるかさん、水川あさみさんの3人が暗い表情で並ぶモノクロのプロモーション用の写真にビビっていたし、更にこのあらすじ紹介にもビビっていた。

世間から隔離された施設・陽光学苑で「良質な」教育を与えられ育てられてきた恭子、友彦、美和。子どもらしい生活、子どもらしい教育を享受し「普通の子ども」であったはずの彼らはある日、生まれながらにある使命を与えられた「特別な子供」であると教えられ、自分たちの「本当の運命」を知らされる…。
彼らに課された使命とは?学苑に隠された秘密とは?視聴者に衝撃を与えるサスペンス!
運命を知った3人は絆を求め、人を愛することで生きる希望を得ようとする。
子どもから少年・少女、そして大人になる中で「生きる意味」を模索していく3人。 大人になった3人は運命に抗うのか?それとも運命に従うのか?
愛情、友情、絶望、希望…生と愛が絡み合うヒューマンラブストーリー!!

~TBSテレビ「金曜ドラマ『わたしを離さないで』」公式HP”はじめに”

見始めると、やはり第一話のオープニングからビビらされた。手術室での友彦(春馬くん)の臓器提供シーン。また、臓器提供を終えた男性にとどめを刺す注射を打ち、焼却炉に入れスイッチを押す恭子(綾瀬はるかさん)。
そこから始まり10話まで、この世界にどっぷり浸ってしまい、その後も約2週間くらい残酷な宿命を背負った悲劇の提供者のような気持ち(!)で過ごした。

でも、春馬くんのファンの中には、この『わたしを離さないで』を好きな作品に挙げている方が割と多い。ほんとはすごく惹かれる何かがあるはず、とは思ったのだが、初見後の私は、前述のとおりどどーんと落ち込んでしまったので、どうしても好きな作品とは言い難かった。

でも、今回、息子がこの原作を借りてきたのを機に、もう一度この作品と向き合ってみようと思った。
まずは、原作を読んでみた。そして、その後、2010年に米英合作で製作された映画も見てみた。その感想の記事がこちら。

原作読了、映画鑑賞後は、無力感、寂寥感、悲しみだけが残った私。これから原作や映画にチャレンジしようと思っていた方のやる気を削いでしまったら申し訳ない。でも、もしかしたら私とは全然違う感想をお持ちになるかもしれないので、是非めげずにチャレンジしていただきたい。そして、この二つを鑑賞してから、ドラマ『わたしを離さないで』を是非見直していただきたい。

そのあとに再びこのドラマを見ることによって、私には、去年の初見時とは全然違うものが見えたのだ。

ここから大いなるネタバレになる。ドラマをご覧になっていない方は、見終わってから戻っていただくことをお勧めする。

ドラマオリジナル部分は、”愛”と”希望”

ドラマは日本の文化・風土に合わせて設定変更もされているし、50分弱×10話というボリュームに膨らませている。その膨らませたドラマオリジナル部分のほとんどが、私が原作からは汲み取ることができなかった”愛”と”希望”だったのだ。

ドラマで追加された”愛”の部分は様々な登場人物が表してくれているが、"希望”の部分を担っていたのは主に、春馬くん演じる友彦だったのだ。

主人公3人のキャラクターが際立つ

原作のキャシー、ルース、トミーという3人の主人公がドラマでは恭子、美和、友彦という日本人役に変わる。それぞれ、綾瀬はるかさん、水川あさみさん、三浦春馬くんを配し、これがまたキャスティングの妙でこの3人でなければあり得ないと思えた。

綾瀬はるかさん演じる恭子は、原作より一層優しくしかも正義感があり優等生感が強かった。優しくて柔らかな雰囲気なのに芯は強く、残酷な使命を受け入れ達観している感じ。素は天然で可愛らしい綾瀬さんだが、どんなものにでもなってしまう演技力はさすがだ。

水川あさみさん演じる美和は、原作の自己中心的で思わせぶりで見栄っ張りのところ、更に”かまってちゃん”で憎たらしさが更に強調されている。恭子に対しての妬みの視線も強烈で、先生や先輩に媚びを売ってみたりと控えめで優しい恭子との対比が際立っているのは水川さんであればこそ。
ずっと憎たらしかった美和が、自分の終わりが近づくにつれ、嫉妬や劣等感などが削ぎ落されていき純粋な気持ちを取り戻していく様子、ほんとは恭子が大好きで羨ましくて恭子になりたかった美和の孤独と悲しさが切々と感じられた。

春馬くん演じる友彦は、原作のいじめられっ子で癇癪持ち、というところから広げたからだと思うが、原作よりちょっとマヌケな感じを受ける。空気も読めず唐突に場が凍り付くような質問をしちゃうし、美和の勢いに流されてしまい本当は大好きな恭子ではなく美和とカップルになってしまうし。一緒に第4話を見ていた夫が、変な時におならをしてしまう友彦を見て「三浦春馬はおバカな役なの?」と言ったほどだ。
確かに癇癪持ちで少しマヌケなんだけど、原作での前向きなトミーの特徴がより一層デフォルメされ更に邪心が無く純粋。どんなに打ちのめされても立ち上がる姿は希望そのものだ。

若き日の友彦の無邪気さ純真無垢さ、そして絶望した時の空虚な表情、やり場のない憤りを感じた時の怒りの爆発、全てを許容し幸せを確信した仏のような表情など、改めて見ると、これぞ春馬くんの俳優としての真骨頂。やはり、春馬くんはすごい。

加えられた”愛”

私が原作からは感じ取れなかった”愛”のエッセンスが、ドラマの至る所に散りばめられていた。その追加された”愛”を拾っていくとーーー

例えば、陽光学苑の先生たち。

序盤では、えみこ先生(麻生祐未さん)の放つ「あなたたちは特別な使命を持った天使なのです」という言葉を、なんて恐ろしい洗脳だと思ったものだ。原作には「天使」などという言葉は出てこないが、臓器提供の末短い生涯を終えるという抗えない運命の中で、少しでも誇りを持って人生を全うしていって欲しいという、えみこ先生の深い慈愛が込められた「天使」という表現だったのだ。

次郎先生(甲本雅裕さん)は、陽光学苑退任後も今の教え子達に提供者のことを伝えていた。

龍子先生(伊藤 歩さん)は、陽光学苑退任後、臓器提供を受けた人のその後を追うフリーライターに。臓器提供により生き長らえ更に我が子にその提供者の名前を付けた幸せそうな親子を恭子と友彦に見せ、友彦に「生まれてきてくれてありがとうございます」と頭を下げる。

そして、美和が作った握った手の石膏オブジェ。これは、かつて車の中でそっと握り合っていた恭子と友彦の手だろう。「必ず猶予を掴み取って」という美和から二人への純粋な愛の象徴なのだ。

また、のぞみが崎の中古店長(大友康平さん)が、CDを友彦にタダで譲る時、「俺たちが君たちにもらったものに比べたらこんなもの・・」と言うところ。身内かまたは自分が臓器提供を受けたことがあるのかな。提供者への感謝の気持ちを表してくれて救われた。

ドラマオリジナルで追加されたこれらにより、たくさんの”愛”を見ることができた。

そして”希望”エッセンスは友彦が担う

私が原作からは読み取ることができなかった”希望”エッセンスは、友彦によりドラマオリジナルシーンとして追加されている。

例えば。のぞみが崎でかつて恭子が失くしたCDと同じものを見つけ出した後、その奇跡のような出来事に感激している恭子に、友彦が言うシーンは原作小説には無いドラマオリジナルのシーンだ。
「どうも、そとの人たちも夢って必ず叶うわけじゃないらしくって。夢って叶っても叶わなくても、持っていることが幸せで、だったら、俺たちも持ってた方がいいんじゃないかな。」友彦の希望が恭子を救う。

終盤、猶予など存在しないと知り、希望の塊だった友彦も遂に打ちのめされてしまう。絶望のあまり、友彦は介護人を恭子から別の人に変えることを要望するまでに。ここまで原作通り。
ここからは、ドラマオリジナルのストーリー。そんな折、かつて友彦に「世界は広い」と教えてくれた龍子先生が見せてくれた臓器提供により生き長らえた男性とその息子の幸せそうな光景。提供者の名前をもらった息子がいきいきとサッカーをしているのを見て、「やっぱり世界は広いんですよ!」と泣き笑いする友彦の笑顔は、龍子先生をも救ったと思う。臓器提供された人から更に命が繋がって、その繋がった命が夢をかなえていくこともある。それは、間接的にでも夢をかなえたことになるんじゃないか、って、友彦はきっとそう思ったはず。

友彦の最後の提供の前夜。
「忘れてたんだよ、ひとつだけは夢がかなってたこと。コテージで別れてからずっと恭子にもう一度会いたいなって。それが、会うどころか一緒に住んだりまでできて。夢はとっくに叶い過ぎるぐらい叶ってたんだ」
って眩しすぎる笑顔を恭子に向ける友彦。
「おれ、生まれてきてよかったよ」「会えてよかった」
と恭子を抱きしめた。絶望から這い上がり、希望を見つけ出して使命を終える覚悟を決める友彦。

提供当日、手術台の上で麻酔がかかる直前、ガラス越しに見守る恭子に向かって微笑み、静かに目を閉じる友彦。
最高に幸せそうな、そして、この人生に悔いなし。そんな微笑みだった。

愛や友情そしてこれらを我々が経験したという大切な記憶が本当は価値があるもの

最初は、脚本家の森下佳子さんが、原作のあまりの救いの無さに、どうしてもいたたまれなくて”愛”と”希望”を追加したのだろうか、と安直に考えていた私。

さっき、このドラマの公式HPを覗いたら、作者カズオ・イシグロ氏自身原作を通して表現したかったことのコメントが掲載されていたのを見つけ、それを読み、はっとした。

私は、この物語は普遍的な人間のありようの残酷さに対抗する本質的なラブストーリーだと思っています。我々は、人間として、皆それぞれが死ぬ運命にあり、老いて弱って死んでいくのは人間の定めの一つなのだという事実に向き合わなければなりません。このことに気づいたときに、またこの世界でお互いに共有できる時間がとても短いものであると分かったときに、我々にとって一番大事なものは何でしょうか?この物語が、物質的な財産や出世の道よりも愛や友情そしてこれらを我々が経験したという大切な記憶が本当は価値があるものであると思わせてくれることを願います。別の次元では、この物語が、歴史的に我々がさまざまな形で作り出し続けている残忍で不平等で不当な世界に対する隠喩を提示しているというふうに見ることもできるかもしれません。
~TBSテレビ『わたしを離さないで』公式HP 原作紹介

カズオ・イシグロ氏が伝えたかったことは「愛や友情そしてこれらを我々が経験したという大切な記憶が本当は価値があるもの」だったとは!
私、原作を読んだだけでは、二つ目の「我々がさまざまな形で作り出し続けている残忍で不平等で不当な世界に対する隠喩」ばかりに気持ちを奪われて、作者自身一番伝えたかったことをほとんど感じ取ることができていなかったのだ。

それを見落とすところなくしっかりと汲み取り、ドラマ版に焼き直してくださった森下佳子さんは、本当にあっぱれ!だと思った。

初見の時はただただ辛かったドラマ『わたしを離さないで』が、こんなにも”愛”と”希望”にあふれた物語だったなんて。

いやいや、hoofさん、そんなこととっくにわかっていたよ!と皆さんおっしゃるかも。

終わりに

去年のドラマ初見から半年以上経過した今夏、約1か月かけて原作→映画→原作→ドラマと辿ってきた私。
それにより結果として友彦と共に、春馬くんと共に、見落としてた”愛”と”希望”を拾い上げる作業をすることになったのだ。
"愛"と"希望"が際立って見えて来た、と言ってもいい。
それは心震えるとても感動的な作業だった。

だって...

誰よりも一生懸命に大好きなサッカーの練習をする友彦

希望を叶えるために、一心不乱に絵を描き続ける友彦

キラキラした瞳で希望を口にする友彦

素直に愛と感謝を口にする友彦

これらって、みんな春馬くんそのものじゃない?

そして、30年という決して長くはない生涯だったけど、たくさんの”愛”を持ち、たくさんの”希望”を語っていた春馬くんを想う。

それは、春馬くんに所縁のある方達の述懐から伺い知ることができる。こちらは、春馬くん一周忌のいろんな方々のコメントを集めた記事。

これらを読むと、たくさんの”愛”を持ち、”希望”を経験した春馬くんを確認できる。おそらく、普通の人の何倍もの。きっと、その瞬間、春馬くんはとても幸せだったよね。幸せだった瞬間が確かにあったよね。

これからも、春馬くんの経験したキラキラした”愛”と”希望”を見つけていきたい。そして、それらを未来に繋げていきたい。

それを改めて気づかせてくれたこの夏の『わたしを離さないで』

今日から、私の大好きな作品の一つになったよ、春馬くん。

友彦を全身全霊で演じてくれて
素晴らしい友彦を残してくれて
ありがとう。





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hoof
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