第17回桂吉坊・春風亭一之輔二人会(その1)〜絶品!上方落語の宝「口入屋」
第15回・第16回に続いて、三回目になる「桂吉坊・春風亭一之輔二人会」。2023年9月19日於 日本橋公会堂である。
今回のネタ出しは、吉坊「口入屋」、一之輔「甲府い」。
開口一番は、春風亭いっ休。一之輔の弟子の前座。ホラ吹きの噺、「弥次郎」をきっちりと演じた。
続いて、春風亭一之輔。前回一之輔を聴いたのは七月だが、その時と同じネタ「反対俥」一之輔版は、孫に請われて車夫に復帰する老人と、上野まで急ぐ客を描く、大爆笑落語。客席を大いに沸き、近くに座っていた女性は大声を上げて笑っていた。客席は十二分に温まる。
桂吉坊が「口入屋」。私の大好きな演目の一つである。実家が商売をやっていて、子供の頃は住み込みの若い社員もいたので、大阪の商家の話は少し懐かしさを感じる。もちろん、落語で描かれる番頭・丁稚の世界からは大きく変わっていたが、我が家も多少商家の空気が残っていたのだ。
“口入屋“、奉公人などの世話をする店で、今で言うと人材派遣会社あるいは人材エージェントのようなものである。東京の落語では、桂庵(けいあん)とも呼ばれる。
ここに使いにやってきた、古手屋(古着屋のこと)「布屋」の丁稚。普段は器量の悪い女子衆(おなごし)を世話してくれと言うのに、この日は「別嬪を」と口入屋の番頭に依頼する。「(「布屋の」)番頭に十銭もらって頼まれた」のだ。
首尾よく美人を世話してもらった丁稚は、女性を“目見え“のためにお店に連れて帰る。面接するのは「布屋」の番頭。給金が安いこと、しかし番頭の差配で着物や金銭の融通ができて余録を得ることができると説明し、いかに自分に力があるか、そして間もなく暖簾分けで別家することを話す。ただし、自分には悪い病気があり、夜中に寝ぼけて、人の布団に入ることがあるらしい。そんなことがあっても、騒がずにいてくれたら、着物や金銭融通の件は万事まかせてくれと。今なら、セクハラで一発退場である。
さて、世が更けて起き出したのは番頭と思いきや、最初に動き出したのは二番番頭の杢兵衛。さて、どうなることやら。。。
吉坊の高座を聴きながら、改めて難しい噺だと感じる。登場人物が多い。口入屋の番頭、そこに集う女子衆たち、中から選ばれた別嬪の女性、「布屋」の方は、御寮人(ごりょん)さん〜おかみさん、一番番頭以下、店のものたち。これらを的確に演じ分けなければ、聴くものは状況が理解できないし、大阪の商家の様子が浮かんでこない。別嬪の女性の台詞には、“言いたて“も入る。これを、桂吉坊という、米朝ー吉朝の系譜をしっかりと引き継いでいる落語家が見事に演じる。
この話、さらに難しいのが、クライマックスの情景。昔の商家の台所にあった、“膳棚“という食事に使うお膳を収納した棚。これが、造り付けの吊り戸棚である。よからぬ考えをもった男が、女性の寝る2階に進入すべく、この棚を梯子代わりに使おうとする。ところが、腕木が折れ棚の上部は壁にくっついたままだが、下部がだらんと落ちてくる。
さらに、2階への足がかりにしようとしたのが、“木入(きいれ)“。湿気を避けるために、中2階に作られた薪木を置くスペースである。私も見たことがない造作である。
これらを吉坊は丁寧に説明し、少しでも観客に臨場感を味わってもらうよう工夫していた。
大満足の「口入屋」が終了し、中入りとなった。
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