柳家喬太郎の「文七元結」〜“俺のアヅマバシ“@イイノホール
浅草・隅田川に掛かる吾妻橋は開架250周年とのこと。特に地元で盛り上げる気配はないようだが、10月16日イイノホールで「俺のアヅマバシ」と題する落語会が開かれた。
開口一番の春風亭㐂いちが、吾妻橋とはまったく関係のない「平林」を演じた後、登場したのは柳亭こみち。真打昇進の披露目に行ったのがついこの間のように思うのだが、もう7年になる。演じたのは「星野屋」。
お茶屋の女と、大店「星野屋」の旦那との馬鹿し馬鹿されの話だが、旦那が女と心中しようと持ちかけるのが吾妻橋。こみちは、「嫌な展開の話なので、明るくミュージカル仕立てで」と、下座さんと協力して盛り上げた。
続いて春風亭一之輔の「シン・アナゴ〜大川橋由来〜」。大川(<隅田川の吾妻橋から下流の異称>広辞苑より)にいる巨大アナゴなどが登場する、一之輔曰く「(ディズニーの)ニモのような話」。最終的には橋が完成する。一之輔作の新作落語、私はちょっと苦手。
中入り後、お目当ての柳家喬太郎「文七元結」。三越落語会の「品川心中」に続いて、今年は喬太郎の大ネタが体験できている。
長兵衛夫婦の場から、吉原「佐野鎚」で女将・娘のお久との対面の場。素晴らしかった。女将は、優しさと厳しさ〜吉原の大店を仕切る迫力が同居した女性、この演じ方も気に入った。
女将から五十両借りた長兵衛が帰宅の途につく。後にする吉原、道中の情景描写。長兵衛の家は本所だるま横丁。浅草寺の裏手、北側から南へ下り、吾妻橋を渡ったところが本所である。その吾妻橋で、商家の手代・文七が身投げしようとしていたところに遭遇。なんでも集金した五十両をすられたと言う。文七を助けたいと考える江戸っ子気質と、五十両無くすことによる絶望がせめぎ合う長兵衛。
喬太郎が演じた長兵衛は、一時の気の迷いで博打で借金まみれになってはいるが、根っ子は決して腐っていない。娘を愛し、真っ当な道に戻りたいと考えている男である。それが嬉しかった。
そうして迎えた大団円。あっぱれである。
個人的には、こうした喬太郎の高座をもっと観たい。圓朝もの、「真景 累ヶ淵」どうでしょうか?