旅の記憶27〜ザルツブルグ・フェスティバルの楽しさ
アーティゾン美術館の「パリ・オペラ座」展を観たら、過去の記憶が刺激されました。欧州におけるオペラ体験のハイライトの一つは、ザルツブルグ・フェスティバルです。
ロンドンに赴任し3年目の1999年、音楽祭は7月終わりから8月に開催されるので、夏休みに訪れるべく計画しました。インターネットが普及し始めた頃ですが、ザルツブルグ・フェスティバルの事前予約は、郵便によるもので、かなり早めにチケットの申し込みをしていたように思います。(HPを見ると、1月23日までに申し込みとなっていますので、多分同じ頃でしょう)
ミュンヘンまで空路、レンタカーをしてザルツブルグを目指しました。音楽祭の合間は、映画「サウンド・オブ・ミュージック」ゆかりの場所や、ザルツブルグ近郊を車で巡りました。
チケットを入手したオペラは2演目、初めてのザルツブルグですから、やはりモーツアルト。「ドン・ジョヴァンニ」と「魔笛」です。
通常のオペラハウスと違い、音楽祭の開幕は少し早めの18時。早めの夕食を軽く取り、ホテルで着替えて出かけました。私は持参したタキシード、妻と2人の娘と共に会場となるザルツブルグ祝祭大劇場まで歩きます。(ちなみに、この劇場はいわゆるオペラハウスと違い、観やすいコンサート・ホール形式の座席です)
劇場が近づくと、観劇と思われる着飾った人を見かけるようになります。そして、劇場前の広場は入場規制がされており、チケットを持った人のみが入れます。周囲には柵が設けられ、その周りには劇場に入る人を見物する観光客が多数。この状況で、劇場へと向かうのは、ちょっとしたセレブリティ気分に浸ります。
「ドン・ジョヴァンニ」の指揮はロリン・マゼール。ピットにはウィーン・フィルが入ります。ウィーン国立歌劇場管弦楽団のメンバーが、ウィーン・フィルを構成しコンサート活動を行いますが、ザルツブルグ音楽祭では、ウィーン・フィルとしてオペラの演奏を行います。
タイトル・ロールは、ディミトリー・ホロトフスキー、2017年55歳という若さでこの世を去るバリトンでした。ドンナ・アナにはカリタ・マッティラ、エルヴィーラにバルバラ・フリットリと、流石ザルツブルグというキャストでした。
マリア・バーヨのツェルリーナとドン・ジョヴァンニのデュエット、「お手をどうぞ」が絶品だったことも印象に残っています。(こちらは、ホロトフスキーとガランチャのデュエット)
もう一本の「魔笛」は、メイン会場からは離れた、見本市会場の特設ホールで上演されました。Achim Freyerが演出・舞台美術・衣装を担当、サーカスを思わせる舞台装置と衣装・メイクアップ、舞台上にある時計が、上演時間の経過と共に動いて行きました。
こちらはクリスチャン・フォン・ドホナーニ指揮のウィーン・フィル。タミーノにミヒャエル・シェーデ、パミーナにドロテア・レシュマン、パパゲーノにマティアス・ゲルネ、“夜の女王“にローラ・エイキンと、これまた素晴らしいメンバー、素晴らしいステージでした。
フェスティバルは、オペラだけではなく、コンサートや芝居も多数。祝祭小劇場(現在は「モーツァルトのための劇場」)で、ラトル指揮/オーケストラ・エイジ・オブ・エンライトメント(ソリストにメゾ・ソプラノのバルトリ)、モーツアルテウム音楽院のホールの“モーツァルト・マチネー“なども楽しみました。
オペラは、劇場・観客も含めた「総合芸術」と書きましたが、ザルツブルグの場合は更に“街“も重要な構成要素として加わります。
当時、11歳だった長女は、後年モーツアルテウム音楽院で学ぶことになり、妻はその後もザルツブルグを訪れていますが、私にとってはこの旅行が最初で、今のところ最後です。
あぁー、また行きたい。ザルツブルグ!!