2024年11月27日 第635回三越落語会〜今年最後(多分)の落語会を楽しむ
9月、久方ぶりの三越落語会を堪能したので、裏を返して再度行くことにした。
開演は18時だが、本会は開演前に前座が上がる。この日は、三遊亭圓馬の弟子、こと馬。15分近い持ち時間があるので、勉強になるだろう。「桃太郎」をしっかり演じた。
最初に上がったのは、雷門小助六。寄席では、噺の後にサラッと踊りを披露してくれることもある、シュッとした芸人さんである。この日のネタは耳慣れない「薬違い」。まだまだ、聴いたことのない演目があるものだと思っていた。
長屋に住む男が、大家の娘さんに惚れてしまい、“恋わずらい“。見舞いに来た友人が、“ほれ薬“イモリの黒焼きを相手に振りかけると、引き寄せることができると教えるのだが。。。。たしか、上方落語に「いもりの黒焼」という噺があったと、終演後の帰宅時に桂米朝の音源を聴いた。設定は似てはいるが、中身はかなり違う。
二番手は瀧川鯉橋。出てくるなり、「次回の三越落語会、師匠が出演する。それなら、こんなネタ演らなかったのに」と。予告されていた演目は「時そば」。師匠である瀧川鯉昇の「得意ネタを出したとは、申し訳ない」。鯉昇の「時そば」、私も今年の3月に体験しているが、“蕎麦処ベートーベン“などという副題がつく、古典の骨格を使いながら、大幅に改作した爆笑ネタ。
鯉橋は主催者に相談するも、「いいんですよ。師匠は放っておくと『時そば』やるんだから」と言われたそう。鯉橋の「時そば」は、オーソドックスな型ではあるが、ちょっと師匠のフレーバーも入れている。
柳家権太楼の「猫の災難」。酒が呑みたくてたまらない男が、友人が一緒に飲もうと買ってきた酒を、先走って呑んでしまう。それを隣家の猫のせいにするという爆笑ネタ。権太楼が演じるので、面白くないはずがない。
中入り後、柳家三三の「笠碁」。若い頃、この噺の面白さが分からなかった。地味なネタだと思っていたのだが、年を重ねるにつれ、“男の友情“を描いたとも言えるこの噺の面白さが理解できるようになった。同時に、決して地味ではないことも。もっとも、それは落語家の工夫、演出のおかげもあるのかもしれない。三三の演じるチャーミングな男二人を見るにつけ、そう感じる。
最大のお目当てが、トリの古今亭志ん輔。志ん朝の弟子で、師匠のリズム感、口調を一番強く受け継いだ方だと思う。大好きなのだが、ここのところご縁がなく、5年ぶりの高座。演目は「小猿七之助」。このネタと言えば立川談志と思っていたのだが、それを、談志のライバル、志ん朝の弟子が口演する。これは行かなきゃである。
「小猿七之助」、いわゆる講釈ネタで、講談では“連続物“として読まれる。プロローグは、深川の網打、名人と言われた七蔵のエピソードをさらりと。本題に入ると、大川に浮かぶ一艘の船が舞台に。“一人船頭・一人芸者“は御法度とされていたが、船に入るのは船頭の七之助と、名の知れた芸者お滝の二人。永代橋にかかったところで身投げが。。。。
大川の情景、身投げをきっかけに展開されるドラマ、お滝と七之助の関係性の変化、この日ここまで演じられた演目とはガラリと変わり、笑える場面は少なく、話芸で観客をグッと引きつけていく。
桂枝雀が、“笑いとは緊張と緩和“と言ったが、話芸にも当てはまるのではないか。聞き手はグッと緊張しながら、話に引き込まれていく。それをふっと解き放ち緩和させる。筋、間、口調、呼吸、これらがフルに機能する。
長い講釈の“序“の部分ではあるが、多くの観客は大いに満足したのではないだろうか。
三越落語会、次回は来年1月29日。トリは人間国宝・五街道雲助「夢金」、きっと楽しいであろう柳亭市馬の「寝床」も聴ける