
庄司紗矢香と「新ダヴィッド同盟」〜スティーヴン・イッサーリスを迎えて
2024年12月1日、紀尾井ホールで「新ダヴィッド同盟〜スティーヴン・イッサーリスを迎えて」と題するコンサートが開かれました。
ロベルト・シューマン(1810ー1856年)は、「ダヴィッド同盟」という芸術グループを夢想します。“ダヴィッド“とは、旧約聖書に登場する“ダヴィデ“、近隣諸国を併合し、エルサレムを都としてイスラエルを統一した王とされています。現在のイスラエルの国旗の中央に描かれた星は、“ダヴィデの星“です。
シューマンはこの偉大な王にちなんで、新しい音楽の理想を構想したのでしょう。1837年には、ピアノ曲集「ダヴィッド同盟舞曲集」という作品も発表しています。
2010年、初代・水戸芸術館館長の吉田秀和さんの命名により誕生したのが、「新ダヴィッド同盟」。同館の専属団体として、ヴァイオリニストの庄司紗矢香を中心に結成されました。
公演プログラムで、庄司紗矢香はイギリスの音楽セミナーPrussia Coveについて言及されています。このセミナーは1週間のリハーサルがメインで、室内楽をみっちり作り上げたそうです。<「新ダヴィッド同盟」はここから生まれたと言っても過言ではありません>(公演プログラムより、以下同)と書かれている通り、<密度の濃いリハーサルを徹底的に行って演奏会に臨む>というプロジェクトです。
7回目となる本演奏会では、庄司紗矢香、ピアノの小菅優、ヴィオラの磯村和英に加え、ゲストとしてスティーヴン・イッサーリス(チェロ)と、東京カルテットで磯村と活動した池田菊衛が参加しました。
1曲目はベートーヴェンの弦楽三重奏曲 ハ短調 Op9-3(庄司・磯村・イッサーリス)。20代の終わりに作られた曲ですが、重く暗い音から始まる曲で、20代にしてこのような音楽を作り出す凄さを感じながら聴き入ったのでした。
2曲目はフォーレのピアノ三重奏曲 ニ短調 Op.120(庄司・イッサーリス・小菅)。1曲目が作られたのが1797−98年。それから130年近い時間が経過した、1922−23年に作曲されました。これを聞くと、ベートーヴェンの曲調とはガラッと変わるのは当然のこと、そこにはより自由な音楽があります。
フォーレ77歳、晩年の作。プログラムによると、「狂乱の時代」のパリにあって、<フォーレは頑なに明晰で古典的な形式を守り>と書かれています。専門家から見るとそうなのでしょうが、私には自由を謳歌するような音楽のようでした。
休憩を挟んで後半、この日の核となるシューマンのピアノ五重奏曲 変ホ長調 Op.44。作曲された、1842年は、シューマンの“室内楽の年“とも言われる、多くの室内楽曲が作られた年です。
これは本当に名曲です。お聴きになったことがなければ、是非一度耳にすることをお勧めします。華麗なオープニングで始まる第一楽章、イッサーリスがガット弦のストラディヴァリウス“マルキ・ド・コルブロン“で旋律を奏で、ヴィオラの磯村が入る、続いてイッサーリスから庄司のストラディヴァリウス“レカミエ“へとつながる、最高の響きでした。
ガラッと変わった、第2楽章“葬送行進曲“、遊び心に満ちた第3楽章スケルツォ、再び華やかで第1楽章の主題が再び挿入されるフィナーレ。いやぁ、素晴らしい演奏、アンサンブルでした。
終演後、拍手・アンコールが鳴り止まず、数度の登場の後、再び席につき、シューマンの第3楽章スケルツォを再度演奏してくれました。
その後も拍手は鳴り止まず、最後はメンバーが楽譜を持って退場。「もうこれで終わりですよ」のサインで、音楽から幸福をいただいた我々は席を立ったのでした
*こちらはマルタ・アルゲリッチが、ルノー・カプソン(バイオリン)、ミッシャ・マイスキー(チェロ)らと演奏したものです
