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ルネッサンス期のイタリアを体感〜惣領冬実「チェーザレ 破壊の破壊の創造者」

1982年デビューのマンガ家、惣領冬実。登場した頃、随分絵の上手い人が出てきたと思っていたが、特に私の守備範囲には入ってこず、フォローしていなかった。

いつ頃か忘れたが、「チェーザレ 破壊の創造者」という、チェーザレ・ボルジアを描いた作品を出していることを知り、少し興味を持った。チェーザレは、15世紀後半のイタリアで活躍、塩野七生が初期の作品、「チェーザレ・ボルジアあるいは優雅ななる残酷」で取り上げている人物である。

その後、2020年12月放送のNHK「浦沢直樹の漫勉neo」第7回に惣領冬実が登場。「チェーザレ」の作成現場が流れた。

惣領は、イタリアで大量の資料を買い込み、ほぼ引きこもり状態で、「チェーザレ」と格闘していた。その絵の緻密なことに感銘を受けた。「チェーザレ」は母国イタリア(もっとも、チェーザレ自身はスペイン人だが)でも好評を博しており、その事も惣領にとってのプレッシャーになっていた。

一刻も早く読み始めようと思ったが、当時「チェーザレ」はまだ完結していなかった。ここは、「子連れ狼」の大五郎ばりに、「じっと我慢の子であった」(どうにも古いネ)。

そして、昨年末「チェーザレ」は遂に完結、今年の1月には単行本が発売され、ようやく読み始めることができた。

ルネッサン期のイタリア、ローマを居城とする教皇勢力、南のナポリ王国、北のミラノ公国と背後のフランス、北と南をつなぐフィレンツェ、そしてヴェネチア共和国などは微妙なバランスで共存していた。

その中のキーマンの一人が、スペイン貴族の枢機卿ロドリーゴ・ボルジア。彼の庶子として生まれながら、後継者として英才教育を施されるのが、チェーザレである。

チェーザレは若き司教として、ピサのサピエンツァ大学で学ぶ。そこに入学してきたのが、ロレンツォ・デ・メディチに見込まれた、フィオレンティーナのジョバンニ。物語は、この二人の若き日を中心に置いたドラマだが、彼らとて教皇庁を中心とするイタリア情勢と無縁ではいられない。

青春マンガと、歴史・政治のダイナミズムの双方を体感できるマンガである。それは、ストーリーの面白さと、まさに当時のイタリアにいるかのような圧倒的な絵の力が実現させる。さらに、レオナルド、ダンテ、ミケランジェロといったルネッサンスの巨人たちがドラマに色彩を施す。

惣領冬実が心血注いで完成させた名作を、読まずして死ねるか!

さらに、とても勉強になる。イタリアの政治、キリスト教の立ち位置、ローマ教皇の役割、教皇選挙(コンクラーベ)の仕組みなどなど。監修の原基晶にも拍手である。

私は高校時代、歴史が嫌いだった。このマンガのように歴史を教えてくれたら、もっと早く歴史を好きになっていたのに。

惣領冬実、次はどう動くのだろう。楽しみである


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