手の中の音楽27〜石川セリ「翼/武満徹ポップ・ソングス」
日本経済新聞の“私の履歴書“、5月は作曲家の池辺晋一郎が書いていたが、その中に日本が世界に誇る音楽家、武満徹との交流が書かれていた。その中で、<シャンソン「聞かせてよ愛の言葉を(パルレ・モア・ダムール)」(こちらは平野レミ版)を聴いて音楽を志した、と武満さんは告白している>とあった。
私は、武満徹の音楽をそれほど聴いていたわけではないが、クラシックのコンサートで演奏される彼の作品は“前衛“の印象が強かった。それが1枚のアルバムでイメージが変わった。上記の記事を読みながら、そのCDに収まっている音楽は、武満徹のルーツとも言えることが分かった。
そのアルバムは、石川セリの「翼/武満徹ポップ・ソングス」である。
石川セリは、藤田敏八監督の映画「八月の濡れた砂」(1971年)の主題歌を歌い、世に出た。私にとっては、その後の「ダンスはうまく踊れない」(夫となる井上陽水作)、「Moonlight Surfer」が印象深い。1985年にアルバムを発表した後、鳴りをひそめていたが、10年ぶりに発表した作品がこの「翼」である。
このCDをなぜ買ったのか、ほとんど記憶にないが、久しぶりに見る“石川セリ“という名前と武満徹に惹かれたのだろう。
このアルバムが素晴らしかった。残念ながら配信サービスには乗っていないようだが、偉大な作曲家を身近に感じられる楽曲をぜひ感じて欲しい。
“死んだ男の残したものは“、多くの歌手が取り上げた反戦歌だが、作詞は谷川俊太郎。このアルバムの中央にイカリのように重く横たわっている。
この他にも、“三月のうた“や“うたうだけ“など、谷川俊太郎作詞作品が収録されており、武満の音楽、谷川の詩、独特の雰囲気をもった歌声が見事にマッチする。後者を聴いていると、時折予想を外れるメロディ展開があり、武満徹が感じられる。
より前衛的な“恋のかくれんぼ“を聴くと、この武満の音楽に合う詩を書けるのは、谷川俊太郎をおいていないようにも感じる。
“明日ハ晴レカナ曇リカナ“、“◯と△の歌“は武満徹の詩。“ ◯と△“では、<🎵ロシアはでかいぜ バラライカは三角だぜ>と歌われる。
タイトル曲の“翼“も武満徹の作詞で、彼の描く世界の広がり、大きさを感じさせてくれる名曲である。
ラストの“見えないこども“まで、全てに武満徹にしか作れない楽曲が、石川セリの素晴らしい歌唱、巧みなアレンジで表現されている。
それほど世に知られている作品ではないと思うが、名盤・必聴盤である
YouTubeにアップされているフルアルバムはこちら
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