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女騒ぎの好きな木下恵介監督の二本(その1)〜「お嬢さん乾杯!」

先日、文藝春秋八月号に掲載されている、小林信彦の「わが映画・邦画ベスト100」を紹介した。未見の映画を、少しずつ観ているが、いの一番に見たのが、木下恵介監督の「お嬢さん乾杯!」(1949年松竹)。

小林さんによると、<原節子の悪口をいう世評に木下恵介が腹を立てて作った名作>で、繰り返しになるが<(邦画)五十本の中で、この名作だけは見て下さい>という映画である。

戦後の日本、時流に乗って自動車工場を繁盛させバリバリ儲けているのが石津圭三、演じるのは佐野周二、上原謙、佐分利信と共に松竹三羽烏と言われた二枚目スター。関口宏の父親である。

彼の元に縁談がやって来るが、戦前からの由緒正しいお金持ちのお嬢様、池田泰子役に原節子。石津は泰子の邸宅に招かれ、身分の違いに当惑する。しかし、泰子の家の実際と、石津との縁談の裏にあったのは。。。。

こんな設定で展開される、ロマンチック・コメディだが、原節子が美しい。一体誰が、どんな悪口を言っていたのだろう。美しいだけではなく、チャーミング。お嬢様が、頑張って環境に合わせようとする健気な姿が可愛いのである。

それを受ける佐野周二も上手い。嫌味にならず、卑屈にならず、格好良すぎない、そのバランスの先にある、彼の純粋さが素晴らしい。

この佐野周二の弟役が、佐田啓二、中井貴惠・貴一のお父さん。佐野周二と佐田啓二、なんだか紛らわしい名前だなと思っていたが、Wikipediaによると、佐野との縁から役者になったそうで、名前も佐野周二から二文字譲り受けたらしい。 この男前のもう一つの恋話が、演出にうまく絡んでいる。

それにしても、1949年、戦後それほど長い時間が経っているわけではないのに、こんなおしゃれな映画が作られていたのですね。バレエと拳闘(ボクシング)、クラシック音楽とよさこい節、良家と庶民の世界の差が描かれるのも興味深い。時代の移り変わりの中で、栄枯盛衰はあるのだけれど、世の中全体としては元気に満ちている、そんな時代の空気を感じる。

ラストシーン、小林さんが書いているように、「愛染かつら」の主題歌、“旅の夜風”が流れる。<♫ 花も嵐も踏み越えて ♫>、最後まで粋なのです

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