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「落語の人、春風亭一之輔」〜“ふてぶてしいのに なぜ魅せられるのか?“

タイトルは、中村計の著書「落語の人、春風亭一之輔」(集英社新書)の表紙からそのまま取った。落語家・春風亭一之輔に中村計が挑んだ一冊である。

著者は、知人から「落語、連れていってよ」と頼まれた時のことを書いている。折角連れて行くのだから、落語を好きになって欲しい。そのためには、誰の落語を聴かせるか考える。考え抜いて選んでも、同行者が必ずしも喜ぶとは限らない。そんな中で、<圧倒的な戦績を誇る落語家がいた〜(中略)〜その落語家は、春風亭一之輔といった。>(「落語の人、春風亭一之輔」より、以下同)

コロナ禍前の話だが、職場の先輩が「一度、寄席に連れて行ってよ」と。私も考えた、誰を見せるべきか。思案した末、私は鈴本演芸場で一之輔がトリを取った芝居にお連れした。ちなみに、その時のネタは古典落語「初天神」を、一之輔の手で換骨奪胎した「団子屋政談」だった。本書の第二章にあたるセクションは“壊す人“と題されているが、いかに一之輔が古典落語を自分のものにしていったかについて書かれている。「初天神」は、二つ目時代の一之輔が、2010年NHK新人演芸大賞を受賞した時のネタだが、師匠の春風亭一朝は、その面白さに<「あれ?こいつどうしちゃったの?」>とショックを受けたと言う。

私の妻は、落語ファンではないが、一之輔ファンである。何度か独演会に連れて行っているが、そのチケットの入手が年々難しくなっている。「笑点」出演の影響もあるだろう。

今年1月31日、鈴本演芸場で一之輔の独演会が開催される。しかも、ゲストは博多華丸・大吉という豪華な興行で、妻も是非行きたいと言う。発売初日、私はチケットをゲットすべくスタンドバイ、平日昼間の興行なので取れるかなと期待したが、チケットサイトへのアクセスが殺到、そもそもつながらない。つながったと思ったら売り切れだった。その秘密を、本書は解き明かしてくれる。

春風亭一之輔は、2012年21人抜きの抜擢で真打に昇進した。それを後押ししたのは、人間国宝になった、故・柳家小三治。孤高の噺家、<人を褒めないことで知られる>小三治が、こう言った。少し長いが引用する。

<「久々の本物と思った。芸に卑屈なところがない。人を呑んでかかっている。稀有な素質だ。この人を発見して、嬉しかったですよ。この人しか考えられないという気持ちにさせてくれたことが嬉しい。選ばせてくれてありがとう。>

晩年の小三治は、流石に主任以外では出演しなかったが、寄席を大事にしていたと思う。一之輔も寄席が好きであり、どこか小三治に通じるところを感じる。そう感じる理由を本書は教えてくれる上に、バックボーンとしての、師匠・春風亭一朝の顔が見える。

さらに言うと、私がなぜ落語に惹かれるのか、寄席という空間の魅力についても、本書は再認識させてくれる。

春風亭一之輔、次回は絶対チケット取るぞ!


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