見出し画像

大きな嘘と小さな嘘、そして過去の闇〜映画「ナイトメア・アリー」

早寝早起きの私にとって、朝8:15開始の映画は歓迎である。しかし、場所は歌舞伎町ど真ん中のTOHOシネマズ、そして観る映画は「ナイトメア・アリー」、日本語に訳すると“悪夢の小路“。このどうしようもなくアンマッチな状況にもかかわらず、私以外にも観客はそこそこ入っている。シネコンプレックス全体としても、結構人は集まっており、若者も多い。コロナ禍の影響で、夜ふかしする人が少なくなっているのだろうか。

2017年の「シェイプ・オブ・ウォーター」で、アカデミー作品賞・監督賞を受賞したギレルモ・デル・トロが、以来初めてメガホンを取った監督・脚本作品である。

主人公スタン・カーライル(ブラッドリー・クーパー)は、移動遊園地にある見世物小屋に漂着する。日本でも、縁日などで“へび女“だの“人間ポンプ“だの、悪趣味な看板を掲げ異様な人々を見せる仮設の施設があった。 そのアメリカ版である。

現代ならコンプライアンスに引っかかるであろう、こうした出し物は、“小さな嘘“であり、映画の中のセリフによると、人々はこうした異形を見ることにより、ちょっとした“優越感“にひたる。そこまで行かなくとも、大衆は“小さな嘘“を楽しむ。

ただし、一つだけ“嘘“とも“真実“ともつかない“geek show“というものがある。“geek"、映画では<獣人>と訳されていたが、ジーニアス英和大辞典にはこう書かれている。<(生きた動物の首を食いちぎったりする)異様な出し物を見せる芸>。そして、このショーがタイトルの「ナイトメア・アリー」とつながり、物語の重要な位置を占める。

カーライルは、同じ見世物小屋でパフォーマンスを披露するモリー(ルーニー・マーラ)と小屋を離れ、コンビを組み、“小さな嘘“を洗練させた芸で成功を収める。しかし、それは“大きな嘘“へと変質していき、“大きな嘘“は“真実“に近づき、“過去の闇“にも繋がっていく……

ダークなスリラーで、十分楽しめる映画である。アカデミー賞は獲得できなかったが、美術・衣装も素晴らしい。人に尋ねられれば、間違いなくお勧めする。ただし、「コーダ あいのうた」とは正反対の作品ではあると注意するだろう。

一つ難点を言うと、カーライルとモリーが見世物小屋を離れるまでが前半で、約1時間。これが私には長かった。逆に、この後からドラマにグッと引き込まれた。

確かに重要な伏線が込めれてはいるのだが、あそこまでこと細かく描かなくとも良かったように思う。

デル・トロ監督は、どうも日本のマンガ・アニメが大好きな、ちょっとオタク的な人のようである。もしかしたら、彼が映像化したかったものが、あの前半に込められていたのではないかとも感じた。とすると、好きな人にはたまらない前半かもしれない。

映画館を出ると、天気の良い土曜日の〜まだ午前中。「ナイトメア・アリー」を中和するには、丁度良い状況だった



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?