誕生⑥|妻の帰還
私の両親が到着してから30分ほどが過ぎ、帝王切開が始まって約二時間近くが経過しようとしていた。
しかし、未だに妻の処置終了の連絡がない。
息子の対面が予定よりかなり早かった分、妻の期間も早まるだろうと予想していたのもあるが、 “何も音沙汰がない” ということが、「順調」なのか、「イレギュラー」があったのか、こちらとしても分からず悶々としていた。
(もし何かあったとしても連絡が来るだろう…)
自分自身にそう言い聞かせながらも、時間が経てば経つほど心配は募っていく。
両親とも話し、ひとまず予定の「二時間」が経って連絡がなかったら、一度状況を聞いてみようということになった。
そして、そのまま連絡もなく二時間が経過。
看護師に確認してもらったが、まだ特に連絡は来ていないようだった。
しかし、それから5分ほど経った頃、別の看護師が待合室へ来た。
「奥さまの処置が終わったようなので、手術室まで迎えに行きましょう!」
と声を掛けられ、特にイレギュラーの報告もないとのことで安堵した。
そして、看護師と話しながら移動。
この時同行した看護師は、帝王切開の開始直前の分娩室まで同行していため、私が妻を見送った以降の状況も教えてくれた。
「奥さまコミュニケーション能力がめちゃくちゃ高いですね~。たまたま医療チームに妊婦が二名いて、すぐ友達になって女子トークしてましたよ(笑)」
何とも妻らしいエピソードだが、妊婦さんの中では手術室に入った途端に緊張して話せなくなったり、恐怖に襲われて動けなくなってしまったり、取り乱す人も一定数いるとのこと。
( “大学病院” で特殊な妊婦が多いからかもしれないが)
そうした中で、仲良くおしゃべりしている妻を見て、看護師一同「この奥さまは大丈夫だ」と関心していたらしい。
そして到着。
大きなベッドに妻は横になっていた。
出発する手続きがまだ残っているようで、その間に主治医から説明を受けた。
ここで初めて “不安” というものから解放された気がした。
出産時に懸念されていたものを全てクリアし、「母子ともに無事で出産を乗り越えることが出来た」のだった。
「全前置胎盤」という状況である以上、 “大量出血は避けられない” とみて、輸血も「通常の倍の量」を赤十字社に依頼していたそうだが、実際はかなり少ない出血であり、子宮がかなり柔らかかったこともあり、胎盤もするりと剥がれたとのこと。
主治医もかなり危機感を持ち、神経をすり減らしながら手術を行っていたが、懸念点に引っ張られることが全くなく、順調すぎて逆に驚いたと仰っていた。
改めて礼を言い、それとほぼ同時に妻の手続きも終わり、妻と看護師二人とで入院部屋へ戻ることとなった。
「お疲れ様! よく頑張ったね」
改めて、妻と対面しゆっくり会話をしていく。
「(息子に)会えた? 」
妻は “私が息子に会えたかどうか” を気にしており、ちゃんと会えたということと感動の瞬間のことを伝え、ひと安心したようだった。
そして、息子の状況を簡単に伝え、容態次第ではこの後 “手術” する可能性もあることを伝えた。
もちろん、手術に対する不安はある。
だが、生まれた我が子に対して、両親の私たちが出来ることは「信じること」であるとお互いに認識している。
「大丈夫」という一言だけ交わし、状況は逐一LINEで報告すると伝えた。
ほどなくして、入院部屋のエレベーターホールに到着。
家族の待合室と妻の入院部屋は同じフロアにあるため、そこには私の両親が待っていた。
「おめでと~、よく頑張ったね~」
と温かく迎え入れ、声を掛けてくれた。
「全然元気です~👍」
と横になりながらも “👍” と手を掲げていた。
私の両親は涙ぐんでいた。
やはり「お腹を痛めて産んだ母の気持ち」を真に理解できるからこその母の涙であり、隣にいる父もまた「生命の誕生における母の偉大さ」に感動していたのかなと思う。
飛行機の時間も迫ってきている中、「声を掛けられてよかった」とホッとした表情で言い、その後すぐに空港へ向かった。
改めて、短い時間でも息子である私のそばにいてくれて、妻にも声を掛けに来てくれた両親には本当に感謝しかない。