岡野雄一『ペコロスの母に会いに行く』
心が和むコミックエッセイ。
ひとさまのお母さんを「可愛い」なんて言ったら失礼かもしれませんが、作者・岡野さんのお母さん・みつえさんがほんわか可愛いので、このコミックを読んでいると癒されます。
認知症になった母の介護が大変だ! と嘆くだけというタイプのコミックエッセイではなく、むしろ、あとがきで岡野さんが「忘れることは、悪いことばかりじゃない」とおっしゃっている通り、認知症になった母もまた母なのだ…と受け入れようとしている印象を受けました。
『ペコロスの母に会いに行く』というタイトルも好きです。
「母に会いに行く」とは、施設に入居している母の面会に行くということだけを意味しているのではありません。
認知症の影響によって、会う度に心が別の時代にタイムスリップしている母。
そんな母と毎回向き合うことで、まるで時代を超えて色んな「母」に会いに行っている…という感じがします。
年老いて認知症となった母。
老いてはいても、まだ認知症が進行していなかった頃の母。
夫や子どもたちと暮らしていた頃の母。
まだ赤ちゃんだった我が子を亡くした頃の母。
まだ嫁入り前の娘だった頃の母。
兄弟たちの子守や親の手伝いでなかなか学校にも行けない少女だった頃の母…。
どれも全てが母の姿。
これは、歴史の教科書に名を残すような何か偉大なことを成し遂げた女性というわけでなくても、普通の一人のおばあちゃんにも何十年という人生の歴史の積み重ねがある…ということを教えてくれる一冊だと思います。
また、このコミックに描かれているエピソードの中で、特にP62〜P63に掲載されている「命がすれ違う」というエピソードが素敵です。
命のバトンタッチは決して悲しいものではなく、むしろ希望に満ちたものなのだ…と気づかせてくれるエピソードなので、お気に入りです。
誰もがいつか必ず往く道ですものね。